香港ポスト ロゴ
  バックナンバー
   
最新号の内容 -20130621 No:1385
バックナンバー

〈26〉不動産売買税制

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国本土などを中心とした税金に関する問題についてご紹介させていただきます。今回は、不動産の売買にかかわる税制についてご説明します。

 

日本の不動産売買税制

   日本において個人が不動産を売却する場合には譲渡所得に対して所得税および住民税が課されます。

 譲渡所得は、土地や建物の売却金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。ここで取得費とは、売った土地や建物を買い入れたときの購入代金や、購入手数料などの資産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費を加えた合計額をいいます。なお、建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。

 また、土地や建物の取得費がわからなかったり、実際の取得費が譲渡価額の5%よりも少ないときは、譲渡価額の5%を取得費(概算取得費)とすることができます。また譲渡費用とは、土地や建物を売るために支出した費用をいい、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用などです。

 土地や建物を売却した時の譲渡所得は、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超える長期譲渡所得と、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下の短期譲渡所得の二つに区分されます。

 その保有期間が長期に該当する場合には所得税15%、住民税5%の計20%の税率、短期に該当する場合には所得税30%、住民税9%の計39%となりますので、投資(特に売却)目的で不動産を保有する場合には長期間にわたり保有後に売却したほうが税率上は有利となります。

 また、土地を除く不動産の売買にあたっては消費税等が課され、税率は2014年4月1日から8%、2015年10月1日から10%に引き上げられますが、消費税率改正による影響は建物部分のみですのでそれを考慮に入れた上で売買を検討する必要があります。

 加えて、不動産の譲渡に際してはその契約金額の0・05%の印紙税が課税されます。

 

中国の不動産売買税制

 中国において個人が不動産を売却する場合の譲渡益は財産譲渡所得となり、個人所得税が課されるケースがあります。個人による不動産投資が過熱する中で、個人が所有する物件数や居住期間などに条件が設定されており、これに合致する場合は納税義務が生じることになります。財産譲渡所得は、原則として、売却収入額から取得原価およびその付随的な費用を控除して計算され、その所得に対して20%が課税されます。

 一方で、企業が保有する工場および土地使用権等の不動産を売却する場合、土地増値税が課されます。土地増値税とは、増値税(付加価値税)とは異なる税目で、土地および建物を売却した際の譲渡益に対して課税される税目です。

 売却側が納税義務者となり、課税対象となる所得は、「売却価額—控除可能項目」となります。控除可能項目は、①土地使用権の取得時に支払った金額、②古い建物の評価額(資産評価報告書が必要)、③譲渡時に係る営業税や印紙税等の各種税金、④その他です。この内容は自社使用の中古不動産を売却する際のものです。税率は売却価額と控除可能項目の比率に応じて、30〜60%の累進税率が採用されます。

 累進税率表については、上の表とおりとなります。

 中国への進出が比較的早い企業が土地使用権・工場建物を譲渡する際、税務当局は土地増値税を課税することが当然という認識が多く見られます。実務上の取り扱いには十分な情報収集と検討が必要となります。

 また、不動産の売買については5%の営業税および0・05%の印紙税が課されます。

 

香港の不動産売買税制

 香港において個人が不動産を売却する場合、日本や中国本土のようにキャピタルゲインに対しての課税は原則行われず、消費税や営業税のような付加価値税も課されませんが、印紙税が課税されます。

 不動産の売買に際し、対象不動産の売買価額または時価に応じて課税対象額の1・5%から8・5%の印紙税が課税されます。また、3年以内に転売される場合にはさらに特別印紙税が課税され、その税率は6カ月以内の場合が20%、6カ月超12カ月以内の場合が15%、12カ月超36カ月以内の場合が10%となります。加えて香港永住者以外が香港内の不動産を購入する場合には購入印紙税が課税され、購入価額もしくは時価のいずれか高い金額の15%がさらに課税されます。

(この連載は月1回掲載します)


筆者紹介

フェアコンサルティング(香港)

 東京、大阪、香港、上海、ベトナム、シンガポール、インドを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェアコンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。

〈連絡先〉
渕上 享 
電話:+852-2156-9698
携帯:+852 5128 5821
メール:t.fuchigami@faircongrp.com
HP:www.faircongrp.com