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最新号の内容 -20101119 No:1320
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文・呉乃梨子/画・譚美津子

 春に生まれた息子は、生後一カ月の時に初めて本格的に外出しました。が、その外出先はどこだったと思いますか? 
答えは飲茶。香港の場合、何かあるとやっぱり飲茶なんですね。産休で家にいた私の手助けに来てくれた姑が、その日はなんとなくそわそわ。どうしたのかな? と思っていると、「子供と飲茶したいわ」と言い出しました。
 「いや、まだ何も食べられませんよ」
 「食べなくたって飲茶はしなくちゃ」
 こんな会話の末、スリングに子供を入れて出かけました。レストランでは子供を抱いて座った姑にウエーターさんや隣のテーブルの人が話し掛けてきます。それに受け答えする姑はとても誇らしそう。「実家の近くのレストランだったら、私の友達がたくさんいるからもっと楽しいのに」。などと言っており、なるほど飲茶は社交場でもあるのだと思いました。
 そう思って見回すと、赤ちゃん連れで飲茶に来ている人の多いこと。赤ちゃんいすに腰掛けておかゆを食べさせてもらっている赤ちゃんもいれば、ベビーカーで眠っている赤ちゃんもいます。もう少し大きい子はレストラン中を走り回っていますね。夫婦だけで飲茶していたころは店内のうるささに辟易したものですが、子供ができた今はこの混沌とした雰囲気がありがたい。日本の友達が「外食はファストフードかファミレスがせいぜい」と嘆いているのに比べると、香港で子育てできて良かったと思います。ちなみに、レストランに行くときは赤ちゃんも靴下や上着は必須。おくるみも冷房対策用に持ち歩いています。
 飲茶は、離乳食が始まるとまた楽しくなります。姑は饅頭類の皮部分をお湯で溶いて与えています。青菜のいため物は葉を取って茎だけにすると、歯固めの出来上がり。味がするので息子はすごい顔をしていますが、飽きずにガブガブやってくれるので大人はその間に食事です。また、離乳食で重宝しているのが広東式スープの具です。前にも書いたように、いろいろな肉や野菜などを二時間以上煮て作るので野菜などはくたくたに軟らかくなっていて、ニンジンやトウガンはそのままスプーンでつぶせば子供もOK。タンパク質が取れるようになったころからは、スープの残りを冷凍しておいて味付けにも使っています。
 子連れの外食に関しては香港は申し分ないのですが、それ以外では不便なこともあります。日本では、ベビーベッドやゆりかご付きラックのような一時的にしか使わないものはリース利用が主流。新品を宅配便で届けてもらうことができます。でも、香港にはリースも宅配便もない…。仕方がないのでこれらは中古で乗り切ることに。香港でもネットオークションや各種の掲示板は盛んです。洋服などは知り合いからのお下がりが大活躍しています。
 また、同じ物でも日本の方が性能が良い物も多々あります。うちの場合は「布おむつカバー」でした。昼間は布おむつを使用しているのですが、新生児用を卒業し、次のサイズに移行する時に困りました。日系スーパーにはサイズが合うものがなかったので街市で売っていた台湾製の物を試したのですが、マジックテープの縫製が雑だったようで一度でお尻が真っ赤になってしまいました。これは結局、日本の母に頼んで送ってもらいました。
 街のシステムも香港は使いにくいですね。人込みがすごくて、子供とゆっくりお散歩できる公園も少ない。ベビーカーを押すには不便なでこぼこの道路が多く、やたらと工事が多いのも悩みの種。竹の足場の下を通るとパラパラと落ちてくるごみやほこり、冷房の水の滴りも赤ちゃん連れだと気を使います。
 日本はショッピングセンターなどにもおむつ換えができる台が備え付けられたトイレがあるところが多いのですが、香港はトイレすらないMTRの駅もあり、この点もまだまだ。一番便利だったのは香港国際空港のトイレで、これは女性用トイレの個室に洗面台、ベルト付きのベビー用ベッドが入っており、お母さんも子供もすべての用事を一度に済ませることができました。香港島などの古くからある街よりも、新界地域の大規模ショッピングセンターの方がこうした設備は整っているようです。MTRの駅も、香港島の駅よりも新界の新しい路線の駅の方がエレベーターがたくさんあって便利だと思いました。
(この連載は月1回掲載)

※日本太太(ヤップンタイタイ)とは広東語で「日本人の奥さん」という意味です。