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最新号の内容 -20110826 No:1340
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中国バブルが崩壊しないワケ

 不正会計や証拠隠滅、数値改ざんなどの疑惑が残る中国企業や中国政府の数字に対し、ようやく世界が警戒を示し始めた。高度成長を実現するために手段を選ばない中国政府や中国企業の軟弱な地盤が露呈しており、欧米メディアでは中国バブルの崩壊が近いとの大合唱。しかし13億人の人口を抱える中国にはいくつものカードが残されている。
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)

 以前、某米系外資大手の幹部から「中国はまだまだ子豚の段階。あなたは子豚を食べるよりも大人の豚を食した方が食べがいがあるとは思わないか?」と問われたことがあった。小さな中国を崩壊させるよりも大きく適当なサイズにして料理した方が、より満腹感を味わえると欧米社会は考えている。
 
 かつて日本が経験したバブル崩壊も、未曾有の好景気とカネ余りで海外から「ジャパン・アズ・ナンバー1」とほめ殺しされた挙げ句のバブル崩壊であった。
 中国のバブル崩壊が懸念されるのは、金融機関の乱脈融資を伴った不動産価格の異常な高騰や、米国が主張する不当に安い人民元相場が輸入物価を押し上げて国内にインフレを蔓延させていることである。結果として中国の一般大衆は衣料品や食糧品価格の高騰という代償を支払わされ、社会不安を助長している。
 
 さらにここ数カ月の間に中国の高度成長モデルを脅かす重大な事実がいくつか発覚している。記憶に新しいのは7月23日に起きた浙江省温州市での高速鉄道事故である。事故原因は当初「雷が落ちた」と発表されていた。しかし国内で閲覧できないユーチューブや写メールを使った現場の映像が世界のメディアを駆け巡るや、当局も態度を改めざるを得なくなった。
 
事故調査チームが恥の上塗り
 7月28日になって安路生・上海鉄道局長は「温州南駅の信号の重大欠陥が事故の原因になった」とする調査結果を公表した。海外メディアから催促される形での真実の公表は、あまりにも遅かった。
 
 国営新華社通信によると、安局長は「信号が本来は(運行停止の)赤のはずが(運行可能な)緑に表示されていた」と指摘。しかし8月2日にも温州市と同省寧波市を結ぶ高速鉄道「甬温線」で1日、列車が走れなくなる故障が発生した。
 
 さらに驚くべきことは、事故の際に原因追及をかわす目的で車両に土を被せて隠ぺいしたと伝えられていることだ。もはや恥の上塗りとしか言いようがない。88年に当時の香港の啓徳空港で、中国籍の航空機がオーバーラン事故を起こした際にも中国本土の事故調査チームが駆け付けて一番最初に手を付けたのが「航空機の中国の旗を白く塗り潰す作業」であった。大惨事と一連の不祥事や隠ぺい工作によって、海外への「高速鉄道の輸出」の道は断たれたように見える。
 
中国企業による不正会計
 米国ではNY市場に上場している中国企業の不正会計が問題になっている。
 
 2月から4大会計事務所は、すでに上場している7社の中国企業の会計監査を辞退した。会計事務所が要求する情報を提供できないというのが理由だが、監査法人から見れば上場企業としての資質に欠けるとみられるようだ。4月下旬にKPMGは、エネルギーの小売り・販売を手掛けるChina Integrated Energyの会計監査契約を解除。デロイトも5月にNY上場の中国のソフトウエア企業Longtop Financial Techinologiesの会計監査を辞退した。
 
 香港証券取引所においても、米格付け会社フィッチレーティングスは7社の中国国営企業を含む35社の中国企業のコーポレートガバナンスが不十分であると指摘。その中にはCNOOC、Sinopec、PetroChinaといった大手企業も含まれていた。最近になってムーディーズインべスターズは香港証券先物取引監察委員会(SFC)に対して香港株式市場に上場する中国系企業61社の不正会計が行われていないかどうか調査するよう要望書を提出している。
 
 高度経済成長を背景に中国ドリームを見ながら世界の資金を集めてきた中国は今、岐路に立たされている。「信用」の2文字が大きく崩れていく。中国企業の不正会計や地方政府の莫大な債務問題、貧富の格差拡大による社会不安、そして不動産バブルの崩壊懸念、高速鉄道事故に絡む不祥事など枚挙にいとまがない。

 

1米ドル=4元ですべてが解決
 それでも筆者は、中国バブルはまだまだ崩壊しないし、まだまだ膨らむと思う。高度成長という背骨がしっかりしていることは、日米欧の低成長を見れば先進国の資金の流入が引き続き期待できるからだ。
 
 特に中国政府は欧米の「貪欲な資金」を上手に活用すればよい。中国バブルの崩壊は欧米諸国にとっての痛手の方が大きい。「豚は大きくしてから食べる」という資本市場における欧米人の考え方からすれば、中国バブルを崩壊させるにはまだ早い。
 
 中国にとってもまた人民元の切り上げという武器が残されている。人民元の切り上げが輸出競争力を低下させて中国経済の成長を阻害するとの意見をよく聞くが、それは逆だと思う。1米ドル=6・4元を4元まで40%程度切り上げれば成長に欠かせない中東産の原油や他のエネルギー価格が40%安くなる。
 
 また中所得者層の増加もある。彼らの消費性向を変えるには、食糧価格や原材料が高騰するようなインフレではなく、人民元高による輸入物価の低下で消費を刺激するのが経済のプロのやり方ではないだろうか。内需型の経済成長に転換できれば中国の経済発展はまだまだ長期にわたって続く。1ドル=4元になっても対米貿易黒字が減少しない場合は、中国政府は欧米に言い返してやればよい。「太り過ぎた豚は怠け者で役に立たない」と。

 
トム:震災後、日本国は菅さんが10回切腹しても補てんできないぐらいの国益を失ったよなあ。
 
ジェリー:どこの国も同じよ。オバマ大統領なんて債務上限引き上げに際して共和党に妥協して「富裕層増税」を断念したのよ。誰のために選んだのか分からないわ。
 
トム:貧困層が選んだオバマ氏がまさか自分たちにキバをむいてくるとは…。まさにカネ持ちの味方、オバマ大統領!
 
ジェリー:2大政党制の時代が終わったことにまだ気づいていないのよね。英国なんてとっくの昔に労働党と保守党の2大政党から今は保守党と自民党の連立政権組んでいるもんね。日本でさえ2大政党制の限界に気づいているものね。
 
トム:政治もきちんと監査を行わないとなあ。マニフェストと政策実行がまったく相反するものになってるもんな。
 
ジェリー:第三者機関を設立して、客観的にマニフェストがどの程度実行されてきたかを評価する機関はあった方がいいかもね。国政選挙で国民が投票行動の基準にできるからね。
 
トム:暴走するウォール街の金融機関や、怠け者で浪費癖の治らない南欧諸国を監査する機関といったものが本当に必要な時代になったよなあ。
 
ジェリー:でも結局、最終的には人間が動かすものでしょ? それぞれの人物を監査することなんてできないよね。あなただって監査を受けたくないでしょ?
 
トム:なんでわしが監査を受けなきゃならないんだよっ。
 
【4大会計事務所】

 会計・監査・税務・コンサルティングといったプロフェッショナルサービスを提供するアーンスト&ヤング、デロイト・トーシュ・トーマツ、KPMG、プライスウォーターハウスクーパーズの4つの会計事務所(アカウンティングファーム)をいう。4大監査法人と呼ばれることもあるが、監査法人とは公認会計士法に基づいて設立される法人の名称であり、これらは監査法人ではない。ただ「大きさ=信用」と直接結び付くとは限らない。以前は米シカゴに存在したアーサーアンダーセンを含めて5大会計事務所であったが、90年代後半に米IT企業エンロンの粉飾決算が発覚した際、アーサーアンダーセンが自社の社内資料の破棄指示を出していたことが発覚。犯罪捜査における公務執行妨害として有罪判決を受け、これによって顧客を失い解散に追い込まれた。 

筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
 1995年にユダヤ人・パートナーとICGインベストメント社を設立。代表取締役、ファンドマネジャー&プライベートバンカー。現在2本のファンドを運用。金融業界20年の経験・ノウハウ・分析力を生かしての資産運用に定評。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」など多数。
ICGグループ 
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ICGファンド 
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※このシリーズは月1回掲載します