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最新号の内容 -20110812 No:1339
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住宅価格の急上昇を抑制 
不動産政策の方向性不変

 胡錦涛・国家主席は7月22日、中国共産党中央政治局会議で不動産価格の問題に言及し、「住宅価格の急ピッチな上昇を抑制する必要がある」と強調した。これまでの「住宅価格の急ピッチな上昇を防止する」から文言が「防止」から「抑制」に変更された。これは、中央政府の不動産政策の戦略に変更はないが、その強度を強めることを示している。また、政策に連続性を備え、長期にわたる政策を通じ国民の住居取得問題を徐々に秩序的に解決することを意味している。国家統計局の70都市の不動産価格をみると、徐々に上昇ペースが鈍化。これにより国民の住宅購買力や意欲が向上しており、政策効果が表れているといえる。(NOW財経電視台論説委員・黎偉成)


 
住宅価格の急速な上昇を抑えるのが不動産政策の基本方針

急ピッチな上昇「防止」から「抑制」に

 共産党中央政治局会議の内容と国務院の7月12日の常務会議で示された内容を比べると、ともにインフレと不動産価格上昇の問題への処理・解決に力を入れるという点では同じである。ただし、政治局会議では政策の基本方針を定めることがより重要となる。それだけに、胡主席が示した文言の変更は、真剣に解読・理解する必要がある。

 「住宅価格の急ピッチな上昇を抑制する」とのセンテンスで重要な点は2つ。1つ目は「渇制(抑制の意味)」の2文字を使っていること。2010年第4四半期から使われてきた「防止」との大きな違いは、「防止」が保守的なニュアンスを含むのに対し、「渇制」の「渇」は主体的で強い禁止、「制」も同様に許さないという意味を持ち、いずれも主体的な語である。

 2つ目は、不動産価格上昇の問題を処理するうえでの基本方針は、あくまでも「急ピッチな上昇を抑制する」こと、すなわち「『上昇』は認めるが、そのペースは速過ぎてはならない」のである。


 2009年末の「安定した不動産市場を目指す」から、2010年第4四半期に「不動産価格の急ピッチな上昇を防止する」に変更。そして今回「住宅価格の急ピッチな上昇を抑制する」とした。これは、中央政府の不動産政策に対する強い意志の表れだけでなく、不動産市場に対する自信の表れでもある。また、不動産の新たな市場基盤を確立することをも示す。

新たな引き締めではない
 不動産価格の急ピッチな上昇を防止する方針の下では、一定の効果を得ることができた。このため、徐々に政策を微調整し、政策の効率を高め、より理想的な目標を達成していくのである。
 
 住宅価格の上昇を認めないのでなく、単に価格の急ピッチな上昇を抑制するだけなら、「渇制」は新たな不動産引き締めを意味する語とは言えない。胡主席が強調しているのは、不動産マクロコントロールおよび低価格帯の「保障性住宅」の建設を適切に進め、マクロコントロールに対する決意は揺るがず、方向性は不変で、その強度も緩めないということだろう。
 
 国務院の12日の常務会議では、不動産のマクロコントロールの強化を続け、不動産価格の上昇ペースが速い地方都市でも住宅購入制限の措置を採用するよう求めた。主要都市の不動産価格の上昇ペースが鈍化し、住宅、とりわけ民間住宅の販売面積と販売額はマイナスとならずプラスを維持している。マイナスに転じず上昇ペースが鈍化するにすぎないことはまさに「不動産価格の急ピッチな上昇を防止する」という政策の初期的な効果が表れていることを示している。
 
 購入制限で投機抑制
 また、住宅購入制限で過熱する投機需要を抑えられれば、徐々に実需と供給に基づいた実際の需給関係を回復するだろう。国務院はさらに、今回初めて住宅賃貸価格の高騰を抑えるとの方針も表明している。
 
 住宅購入制限は試験的に実施しているが、この主眼は、①国民の1軒目の住宅取得に対しては制御せず、住宅ローン金利などで優遇を与える②すでに1軒目を保有し、2軒目またはそれ以上の物件の購入者に対して制限を設ける——ことである。これは、子供が成人になり居住用の住宅を保有している家庭にとっては、迷惑な政策かもしれない。ただ、投機的な取引を徐々に収れんさせ、価格の急ピッチな上昇ペースを抑えることができる。また、居住用住宅の保有者にとっては、価格が合理的な水準に調整すれば、住宅保有コストが抑えられ生活条件の改善に有利となる。
 
政策効果で住宅販売が回復
 国家統計局によると、1〜6月期の不動産開発投資額は2兆625億元。前年同期比伸び率は32・9%で、1〜5月の34・6%に比べ鈍化したが依然高水準である。このうち、住宅投資は全体の70・01%に相当する1兆8641億元で、前年同期比伸び率は36・1%と、全体を3・2ポイント上回った。不動産投資が依然として活況を呈していることがうかがえる。
 
 もっとも、住宅に対する強い実需は、農村部の住宅建設の質の悪さを映し出しているともいえる。集合住宅など住環境の悪さもあり、改善が必要である。

 見逃せない新たな政策効果も出ている。1つ目は民間住宅販売。1〜6月の販売面積は4万4419平方メートルで、前年同期比伸び率は12・9%。1〜5月の9・1%を3・8ポイント上回った。ここから6月単月の伸び率を算出すると31・9%となる。同販売額は2兆4589億元で、前年同期比伸び率は24・1%。1〜5月の18・1%を6ポイント上回った。政策効果が表れ、いったん落ち込んだ販売が再び盛り上がっている。
 
 2つ目は不動産開発投資の回復。住宅の新規着工面積は7万6866平方メートル。前年同期比伸び率は20・7%と1〜5月の12・9%を7・8ポイント上回った。不動産全体の着工面積(9万9443平方メートル)に対する比率は77・29%。建設中の住宅面積の累計31万795平方メートルと合わせても前年同期比伸び率は30%と高水準を維持している。
(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
黎偉成
 NOW財経電視台論説委員
 1972年に香港の『大公報』に入社。95年にカナダに移住。99年に香港へ戻り、為替・証券取引を行う亨達集団(ハンテック・グループ)に入社。研究部を設立して連席董事に就任し、ハンテック・グループのチーフアナリストとして証券市場の分析などのリポートを発表してきた。2006年7月にハンテック・グループを退職し、05年3月から兼務していた有線テレビのNOW財経電視台での特約論説委員に専念。香港電台(RTHK)の経済番組でゲストコメンテーターも務めている。