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最新号の内容 -20151218 No:1445
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▶97◀

中国労務①
採用・退職時の注意点および関係書類

 

 今回は中国本土(主に広州市)における人事担当者の一般的な職務内容と必要スキル、および従業員の採用・退職時の注意点と関係書類についてポイントをご説明いたします。
(NAC名南広州事務所 福家 大輔)

 

1.人事担当者の職務内容と必要スキル 

①職務内容

 先ず現地法人における社員の採用計画の立案と実行があります。現地法人の体制、業績および今後の見通しから採用計画を立て、実際に採用(退職)が発生した際の諸手続きや必要時の経済補償金の算定等を担当します。尚労働契約書については東莞市など契約時に労働局への提出が義務付けられているところもありますが、広州市では現在のところその必要はなく、フォームについても一般的なものであれば有効とされており、都市によって差があります。

 次に給与、中国の社会保険および住宅積立金の計算・申告・納付といった実務も行います。同じく広州市のケースでは、社会保険は地税局のウェブサイト上からシステムに登録することが可能です。もし代行会社をお使いの場合はそちらへの連絡となります。住宅積立金については、広州市では口座の開設可能な11の銀行が定められており、他の都市からの転入時には積立口座を新たに開設する必要があります。

 更に社員のトレーニングについても、プログラムの選定から実施に至るまで関わりを持つことが多く、実際に教育研修が行われる際には日本人担当者と共に同席することもあります。管理統制業務として、従業員台帳の管理や、社員の評価制度・就業規則の作成/改正に一部携わることもあります。
 

②必要スキル

 多くの場合求められるのは高い日本語能力です。人事担当者は日本本社側とのやり取りをすることが多く、往々にして主導権を取ろうとする本社担当者に現地の状況をしっかりと報告・説明し、時には戦わなければなりません。日本語が堪能であれば日本語人材の採用時に語学面のスクリーニングを担当し、日本人の手間を減らすことも可能となります。

 言うまでもなく人を見る力も必要となります。特に中国では採用前に学歴・職歴・資格などがすべて事実に基づくかどうかしっかりとチェックすることが重要ですが、偽りのある経歴について、日本人では一見分からないものでも優秀な中国人人事担当者なら見抜けることも多く、こうした有能な方が右腕として総経理をサポートするならば、採用という企業にとって大きな投資をする際の大きな助けとなるでしょう。正に「組織は人なり」です。加えて、第三者の視点で物事を見る能力があるならば、生き物である組織の現状と目指す方向性にマッチした人材かどうかについても的確な判断を下すことができ、逆に必要な場合は組織を守るための解雇も臆することなく提案できる、野球のキャッチャーのような扇の要の役割を果たすことができます。

 

2.採用時の注意点・関係書類

①募集要項

 インターネット募集や人材紹介会社経由で中国人スタッフを雇用する場合を含め、募集要項を事実に基づき、かつ明確なものにしておくことが重要です。特に職責、つまり職務範囲と具体的内容を詳述しておくならば、応募者のミスマッチを減らすことにも繋がるとともに、入社後に「こんな仕事があるなんて聞いていない」と言われるリスクを未然に回避できる効果があります。一般論ですが、中国人の場合しばしば自分の遂行しなければならない業務範囲をはっきり定め、それ以外の業務には関与したがらない傾向がありますので、職責が明確でないと入社後に揉める可能性があります。そのようなケースで労働争議や裁判に持ち込まれた際に、こうした募集要項の内容も一定の効力を持つとされています。また逆に採用条件に不適格であるとして試用期間内に解雇する場合にも、募集要項の記載内容が1つの根拠となるとされていますので、職務内容が詳細に書かれているか、また実務と乖離がないかを公開前にチェックされるようお勧めします。さらにオファーレター(内定通知書)にも職務内容詳細を記載し、内定者のサインを取り付けておくならばより安心といえます。
 

②従業員情報の管理

 従業員台帳を作成し、採用時には名前と住所、身分証番号、労働契約期間等の情報を記載します。情報を随時更新・保存しますが、定期的にチェックをすることで重要な労働契約の延長を忘れないよう注意できます。住所と連絡先については何か書類を送付するという名目で実際に送付し、後日受け取ったかどうか、また書類の現物または内容について本人に確認することで、実際に住んでいるかを判別できます。さらに引っ越しがあった際には必ず会社に報告するよう就業規則に盛り込む等して義務付けておきます。このように常に連絡先を把握しておけば、退職後の必要な連絡をスムーズに取ることが可能となりますし、後述する労働関係解除協議書等の書類の送付も問題なく行えます。

 

3.退職時(解雇を含む)の注意点・関係書類

①労働関係解除協議書

 辞職届の提出がない退職のケースで、雇用者・被雇用者間で双方の協議を行った後に労働契約を解除する際に取り交わす書類となります。基本的には協議により合意に至った内容はすべて盛り込んでおくべきものですが、ポイントとしては労働契約の存在した期間および解除日、解除日をもって契約上のすべての権利と義務が終了する旨、最終の給与および社会保険・住宅積立金の金額や振込予定日、解除後に不利益をもたらす行為をしないこと、機密保持等があります。
 

②離職証明

 中国本土で主に現地雇用されている外国人が現地で転職する場合必須の書類となるためご存知の方もいらっしゃると思います。中国人被雇用者のケースでは、失業保険を使う場合に必要となりますが、中国の失業保険はそれだけで生活していくには厳しい額(広州市では最低賃金1895元の80%=1516元/月)ということもあり、必ずしもすべての企業が離職時に発行している訳ではありません。中途採用時に離職証明の提出を求めない企業も多く、転職先企業から要求されて初めて退職者から人事担当部署に連絡があることもあります。こちらも労働契約の終了を示す書類となりますので、円満退職で辞職届も受理しており、被雇用者から要求がない場合でも発行しておくことが望ましいものとなります。内容のポイントとしては、入社日、所属部門、職位、離職日(労働契約解除日)、労働契約解除に双方が合意している旨等が挙げられます。

 

(このシリーズは月1回掲載します)

 

 

福家 大輔 (ふけ・だいすけ)
NAC名南コンサルティング広州事務所/ マネージャー
同事務所にて人事労務コンサルティング、及び付随する会計税務コンサルティングを担当。日系大手人材紹介会社での豊富な経験を経て現職。関西外国語大学卒。

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