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最新号の内容 -20150904 No:1438
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《79》 
中国におけるリース産業の現状と展望

〜自由貿易区政策の活用を踏まえ〜

 

 中国の現代リース業は30年余りの紆余曲折を経てようやく軌道に乗りつつある。特に第12次五カ年計画(2011〜15年)において重点育成産業として位置付けられて以降の発展は著しく、足元のリース契約残高は10年前に比べ30倍の規模に達している。本稿では中国におけるリース産業全体の概観を紹介するとともに、当局へのヒアリング等をもとに、リース業の成長を支援する促進政策、および日系企業の事業可能性について分析したい。
(みずほ銀行香港営業第一部 中国アセアン・リサーチアドバイザリー課 袁泉)

 

中国リース産業の概観 

 中国における現代リース業の発端は1980年代にさかのぼる。中央当局は改革開放政策下の急速な産業発展により生じた資金ニーズ、および国外先進設備に対する需要に対応すべく、日・米からファイナンスリースの概念を導入。そこで日本からの業務指導を受けて設立した、国有系企業との合弁会社、東方租賃有限公司が、中国初のリース会社とされる。しかし、国有体制改革や法制度の空白などを背景に債務不履行が多発したことで、中国のリース業界は早々に暗礁に乗り上げ、90年代の当該領域における新規投資は事実上、ほぼ停止されていた。
 


 上記局面がようやく改善されたのは2000年代半ばに入ってからである。2005年、外資独資によるリース企業設立の解禁とともに、内資系リース企業の設立要件も緩和され、リース企業の数は徐々に増加した。13年以降は、自由貿易区をはじめ各地方政府が発表した推進政策に刺激され、中国のリース業は飛躍的な成長を遂げ、15年6月末時点で、中国におけるリース契約の残高は約3・6兆元(約72兆円、1元=20円換算)と5年前に比べて約5倍の規模に達し、16年上期には取扱高ベースで米国を超過し、世界第1位になるとみられている。

 15年6月末時点のリース企業数3185社を投資主体別でみると、外資系リース企業数が全体の9割以上、リース契約残高の約3割を占めている。地域別では、先行モデル地域である上海、天津、広東省で登記する会社が大半との状況であり、自由貿易区の先行政策に対する期待も推察される。

 ただし、各関連部門へのヒアリングによると、中国におけるリース企業の稼働率は50%未満にすぎない。整備途上にある法制度、業界統計データや企業信用情報の不足、人材・資金の欠乏など、リース産業を取り巻く環境は依然として厳しいようだ。

 

整備されつつあるリース産業の環境

 とはいえ、リースに対する注目が高まる中、監督管理・法律・税制・推進政策全般において、リース産業の発展を促進するさまざまな政策が打ち出されている。

 まず監督管理については13年9月、商務部が業界初となる「融資リース企業監督管理弁法」(商流通発[2013] 337号)を公布し、融資リース企業に対する管理を強化し始めた。同弁法とその他関連規定の施行以来、すべての融資リース企業は「全国融資リース企業管理情報システム」にて企業情報、経営状況およびリース対象物件等を強制的に登録され、各地の商務主管部門により年次審査を受けることになった。同システムは一般使用者に対しても公開されており、リース企業の情報がより一層透明化した。

 リース企業の視点からは、従来難関であった公式信用情報の入手がついに可能になった。目下、中国における唯一の公的信用調査機構は中国人民銀行傘下にあり、以前は商業銀行のみデータのアクセス権限を保有していたが、直近においては天津および広東省における融資リース企業にも試行的に開放された。今後は国内信用環境の更なる整備とともに、リース企業の与信管理の強化が期待される。

 法律・税制面においても重要な改善が多々見られる。商務部は13年、10年近く停滞していた「融資リース法」の立法作業の再開を発表。これと同時に、リース業界全体を規範化すべく、全国を対象に40以上の関連法規・法解釈が公布され、リースに係る契約、対象物、情報開示等に関する基準が設けられた。

 税制についても改革・改善が図られている。従来、リースは営業税の対象であったため、リースを利用する企業はリース資産に対し増値税控除が出来ず税務取り扱い上、不利な状況にあったが、12年に始動した流通税改革によってリースに関する営業税は増値税に変更され、従前の不利状況が解消された。さらに、リース企業の登録資本金が1・7億元相当に達していれば、営業収入から融資コストを差し引いて増値税を差額納付可能になったほか、実際の増値税負担が3%を超過する部分に対する即時税還付など、リース企業の税コストも実質的に削減された。流通税改革は既に全国範囲で展開されており、上述の税務メリットから見て、リースを活用する企業はさらに増加することになろう。

 政府の推進政策もリース産業の発展を後押ししている。15年3月には、外資リース業の健全な発展を図ることを目的として、商務部が「外商投資リース業管理弁法」(商務部令2005年第5号)の改定案を発表し、リース業への参入要件および業務範囲を大幅に緩和する方針を示した。改定案には、外資リース企業やリース子会社設立の最低資本金規則(一千万米ドル)の削除や、融資リース企業のファクタリング兼業許容など参入障壁の緩和とともに、出資者の資格制限を強化するなど実態を伴った企業による業界の健全化が企図されている。こうした動きは、今まで試験的に行われてきたリース産業の推進が、全国範囲に広まった証左だと考えられる。

 

三大自由貿易区のリース政策比較

 中国におけるリース産業全体の底上げが図られる一方で、先行・重点地域として優遇措置が設けられているのが、広東省・上海・天津自由貿易区である。図表はこれら地域におけるリース産業推進政策の抜粋であるが、広東省自貿区においては資金調達におけるメリットが一番大きいと考えられる。なかでも前海当局は外資リース会社の誘致に積極的なスタンスであり、年内にも融資リースに特化した優遇政策を打ち出そうとしているほか、進出の際にも当局による各種サポートの享受が可能である。

 

外資リース企業の事業方向

 中国国内の多くの企業にとって、リースは未だ新しい融資手段に過ぎない。通常、先進国における固定資産投資額に占めるリース取扱高は8〜20%だが、中国においては約5%にとどまっている。また、リースの利用は国有系・外資系の大型企業が中心で、民営企業には十分浸透していない。人件費の上昇を受けた機械化の進展なども含めて、市場開拓の余地は十分にあるといえよう。

 外資リース企業から見て、融資リースの重点サービス領域は、生産設備、交通運輸機器および医療機器である。従前からの大型設備リースに加え、近年は自動車リースや小型医療機器のリースに対する関心も高まり、例えば天津自由貿易区においては医療機器リース企業に対する取扱規制緩和や、新エネルギー自動車リースに関する優遇政策も公布している。もちろん、法・規制の整備など解決すべき課題はまだまだ多いが、経済・産業規模の拡大に対し金融面での調達手段が追いつかない現状、各分野におけるリース事業の展開は十分、検討に値するものとなろう。

 現状、日系リース会社の多くは日系企業に対するサービス提供が中心になっているが、今後、内需市場の成熟化に伴い、前述のような新たなリース市場の創出も有望と考えられる。金融市場環境のさらなる整備に伴い、リース企業のプレゼンスがより一層高まることに期待したい。

(このシリーズは月1回掲載します)

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