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最新号の内容 -20150508 No:1430
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生まれ変わった歴史建築物

伯大尼修院(Bethanie)

改修後。階段が取り除かれ、ステンドグラスが再設置され、三角屋根が復活した

改修前。階段があったのがわかる

 1984年に設立した香港演芸学院(HKAPA)は香港唯一の公的機関による演芸学校で卒業すれば学士や修士がもらえるれっきとした教育機関だ。拡大するAPAは湾仔にある本校舎が手狭になったことから薄扶林にあった古い建造物「伯大尼修院(Bethanie)」を8000万ドルを投じて改修。テレビ・映画を学ぶ学生用の新しいキャンパスを作った。学校のみならず博物館、ミニ劇場のほか、チャペルがあるので結婚式場としても人気となっている。(取材と文・武田信晃/一部写真提供・香港演芸学院)

 

キャンパスと博物館の2つの顔

伯大尼修院の外観


★フランスの神父が建設した修道院 

 同修院の歴史を見ると、英国統治の影響が強い香港でフランスが色濃く絡んでいた。1873年、現在の施設の名前となるベサニー、パトリアなどのフランス人神父らが、キリスト教を布教する神父の休養所と布教中に熱帯病にかかった神父のための施設として建設し1875年に完成した。1886年には、この建物の横にデイリーファーム(ウェルカム、セブンイレブン、マニングス、イケア、マキシムズを香港で運営する巨大コングロマリット)の創設者2人と5人の香港人ビジネスマンが8角形の2つの牛舎を作る。ここで多くの牛を飼い、乳製品の安定供給に一役買った。なおAPAは伯大尼修院キャンパスを作る際ここもあわせて買い取り、150席の劇場と稽古場に改築した。

改修前の廊下(左)は天井に穴が空いている。改修後はエアコンを設置したため横の梁が細くなった。改修前と同じデザインの穴をあけ、そこから冷気を逃している 

 1941年の太平洋戦争で日本軍が接収。当時の神父は2日ほど同施設に幽閉されるが、2日後に近くの村に終戦まで移住させられた。1974年になると当時の最大手のデベロッパー、ホンコンランドに売却。同社は5年以内に施設を取り壊したい意向だったが、翌1975年に香港政庁が管理することになった。そして1978年から1997年は香港大学の出版社として使われることになった。その間の1981年に香港政庁は第2級の歴史的建造物に指定した一方、1983年にデイリーファームは牛舎の閉鎖を決定した。

建築家の寥氏はローマなどでも勉強。歴史的建造物への造詣が深い 

キャンパスの入口 

 香港政庁に所有権が戻ったが2000年までの3年間は未使用の期間となった。しかし2000年から香港特区政府は再開発を検討し2003年にHKAPAとの間で、牛舎を含めた上でキャンパスとして使用することを認めた。2006年に大改装が終了して供用開始。2008年にはユネスコのアジア地区の文化遺産表彰式の場所として使用された。
 

★改修手掛けた香港の建築家 

 HKAPAは改修にあたり香港の著名建築家の寥宜康(フィリップ・リャオ)氏に依頼した。寥氏は大手デベロッパーの建築物に携わるほか、本紙2012年の7月27日付の1363号でも紹介した大澳にある大澳文物酒店(タイオー・ヘリテージ・ホテル)の改修にも携わっている。

エントランスの改修前

エントランスの改修後は正面に大きな入口を加えた

 「父親も建築家で、その影響はあったのでしょうね。父とこの修道院に来たとき『ここの裏手にある香港大学大学堂や南部にある華富邨の公営住宅も手がけた』と言っていたのはびっくりしました」と笑う。「プロジェクトはHKAPA側から連絡を受けました。伯大尼修院と牛舎はほぼ隣あわせですが、まったく別の施設だったので、どう統一感を出すのか非常に難しかったです」。歴史的建造物ということもありさまざまな制限がある中での改修はいつも困難が伴う。「コンセプト固めは3カ月くらいで終わったのですが、実際に細かな設計をしていくときにさまざまな問題が発生しました」と苦笑いする。「例えば、最上階の外部に別棟につながる階段を除去し、内部に別な階段を設置しましたが、それが半インチ単位の誤差内で建設を進めていかねばなりませんでした」

 

ガラスの三角屋根に大改造することで開放感が

最上階にある改修前のスタジオは実に味気ない

 

時を経ながら改修された歴史

右のステンドグラスがオリジナルで左がコピー。下から2番目の青い丸の部分がオリジナルのほうがわずかに薄い


★ステンドグラスを見事に復元

 建物にはもともと空調がなかったため、内観を壊すことなく設置する必要もあった。正面入り口の廊下は内装の白い空間で蛍光灯がぶら下がっていて、天井の脇にはデザインとして穴が空いている。エアコン施設を設置したため天井が少し下がったが、同じように穴を空け、そこから冷気を送るようにした。天井が下がったのは天井横のアーチ型の梁が見えている分が少なくなっていることがわかるが全体の印象はほとんど変わっていない。

牛舎として使われてきたところを再現 

改修前はステンドグラスがなくなっていた 

外の光が入ることで改修後は明るくなった 

 併設されている教会は建造段階ではステンドグラスがついていたが、どこかの時点でステンドグラスは取り払われ、その部分は埋められていた。寥氏は「ステンドグラスは数枚倉庫に保存されていたのですが全部ではありません。それでフィリピンで全く同じものを製造しました。普通の方ならどちらがオリジナルなのかはまず見分けはつかないと思いますよ。また、祈りをささげるため、手をつく木の柱がありますが、幸い1つだけ残っていたので、それも同じものを作りました。逆に12体の像があるのですがすべてなくなっていました。4体は米国などにあることを突き止めることができましたが8体は見つけられませんでした」と語る。改修するだけではない、あえて改修しなかったものもある。「教会の床を見てください。3種類ありますよね。時を経ながら張り替えたりしたという歴史が認識されるのであえてそのままにしました」

 印象的なデザインの最上階のスタジオ部分は現在は練習場やパーティー、ファッションショーの会場としても使われている。建設当初は三角屋根だったが、1960年代に天井が平らになった。それをふたたび三角屋根に戻すのだが、ガラス屋根にすることで開放的にし、外の景色も楽しめ、かつきれいな夜空も味わえるようにした。スタジオなので壁を総ガラス張りにして稽古しやすくし、スタジオ自体を広く感じさせるようにもした。

 

★博物館、結婚式場としての利用 

 こういった歴史的経緯から博物館が併設されている。それほど大きくはないが歴史をしるには十分楽しめるものになっている。それだけではなく、牛舎を改修した150席の劇場とチャペルもあわせて見ることができる。また、上述のように結婚式の会場として人気を博しており、平日のほか特に土日は1日3回結婚式が行われ式の1年前には予約をしなければならないほど。博物館を参観するには事前予約が必要だ。また最上階のスタジオは多目的に使えるので、結婚式および博物館、スタジオに関心がある方は別項の連絡先にコンタクトするといい。

修道院時代の文物も展示した博物館 

修道院からの景色。海が見える

 

★人材を育成するHKAPAの役割と活動 

 映画という世界に通用する産業を持つ香港。700万人しかない人口という決定的な問題を抱えているほか、テレビ局が俳優養成所を抱えているものの米国の「アクターズ・スタジオ」のような民間の俳優養成所があるわけではないため人材に厚みはない。加えてテレビ局は芸能人を囲い込むような形の特殊な契約を結び、かつ日本や欧米のように常に新しい人材が発掘され、加入するわけではない。その中でHKAPAは俳優のみならず、歌手、作曲家、ダンサー、舞台製作、中国戯曲などの人材を養成するなど大きな役割を担ってきた。黄秋生(アンソニー・ウォン)、蘇玉華(ルイーザ・ソウ)といった俳優のほか、俳優のみならず監督もこなす張達明、金田一一や半沢直樹の広東語吹き替え版の担当をした陳廷軒など多くの芸能人も輩出している。
 

『青鳥/The Blue Bird』のポスター

 現在、約7000人の生徒が学んでいるが、APA主催による自前の劇場で舞台が数多く上演される。さる4月29日から5月2日には「青鳥/The Blue Bird」という舞台が上演された。また、歌劇院(Lyric Theatre)という1181人収容の劇場もあり、『オペラ座の怪人』『サタデー・ナイト・フィーバー』などブロードウエーで上演されるような有名ミュージカルなどの会場にもなっている。

APA主催の舞台は好評を博した

劇場の様子。授業にも使われる

八角形の牛舎は劇場に変身

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伯大尼修院(Bethanie)

[所在地]139 Pokfulam Road, Hong Kong
[APAの公式サイト]www.hkapa.edu
[交通] 路線バス:4、7、37A、37B、40、71、91、970などで薄扶林水塘道・薄扶林道(Pok Fu Lam Reservoir Road, Pok Fu Lam Road)下車
ミニバス:22、22S、23、31、36で薄扶林水塘道・薄扶林道下車

◆婚礼とスタジオ [問い合わせ電話] 2584 8633
◆博物館 [開放時間]日によって異なるので予約必須
[予約] HKチケッチング:電話31 288 288、
ウェブサイト www.hkticketing.com