香港・中国経済—今月のポイント
香港
①企業の投資拡大や観光業の上向きを踏まえ、弊行は香港の2018年の域内総生産(GDP)伸び率予想を2・8%から3・3%に上方修正する。
②目下、個人消費は力強いが、今年は徐々に鈍化する可能性がある。
③香港ドルと米ドルの金利差拡大に伴い、香港ドルは向こう数カ月は弱含み、1米ドル=7・85香港ドルまで下落すると予想される。
中国
①中国の李克強・首相が発表した政府活動報告では、経済の焦点が、数値目標から質の向上にシフトしていることをが示された。
②李首相は、より大規模な財政刺激策はとらず、むしろ中立的な金融政策を実施すると強調。これは、中国政府が経済成長率の鈍化を受け入れることを意味している。
③現在の中国経済は安定は、経済成長率が緩やかに鈍化するとの弊行の見方と一致する。
香港のGDPは3・3%増
17年10~12月期のGDPは前年同期比3・4%増。伸び率は市場予想(3%)を上回った。消費が力強かったことに加え、投資の伸びが回復基調にある。
同10~12月期の個人消費支出は6・3%増で、伸び率は過去2年半で最も高かった。固定資産投資は、同7〜9月期に1・3%減だったが、同10~12月期には4・7%増に回復。政府支出と併せると、同10~12月期のGDP伸び率への寄与は5・8ポイントに達した。これは、GDPを2・4ポイント押し下げている純輸出とは対照的で、中でも財貿易は輸入が輸出に比べて高い伸びを示している。
17年通年のGDP伸び率は3・8%で、政府予想の3・7%、16年実績の2・1%をともに上回った。
以前のレポートでは、個人消費は力強い伸びが続いているが、今年は徐々に鈍化する可能性があるため、18年のGDP伸び率は17年に比べて鈍化する可能性があると指摘した。しかし、その後、香港経済を見通すうえで複数のプラスの要素が出てきている。
1つ目は、世界経済が好転している状況が示されていることである。米国では、消費者景況感が徐々に改善し、製造業も約14年ぶりの高い伸びを記録。これは、最近の米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の米経済に対する楽観的な見方と一致する。
2つ目は、香港への旅行客数の持ち直しが続き、サービス輸出が好転していることである。17年10~12月期の観光サービス輸出は前年同期比で4・1%増。伸び率は、14年1~3月期以来の高さとなった。
3つ目は、過去4年にわたり累計で5分の1以上減少した民間機関の機械・設備・知的財産権の支出が17年10~12月期に前年同期比で13・7%増になったことである。これは、資本支出が底を打ったことを示しているといえる。
以上のことを踏まえ、弊行は18年通年のGDP伸び率予想を2・8%から3・3%に上方修正する。これは、政府の予想レンジ(3~4%)内だが、レンジの中位数(3・5%)は下回る。
最近の香港ドルの対米ドルレートの弱含みを受け、市場の焦点は外為市場にシフトしている。香港ドルの対米ドルレートは、3月9日に一時、1米ドル=7・8441香港ドルを付け、香港金融管理局(HKMA)による2005年の為替相場制度見直し以来、香港ドルは元も安い水準となった。3月20~21日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ予想を踏まえると、香港ドルと米ドルの金利差拡大で香港ドルが売られているとみられる。FRBは3月の利上げ後、6月にも利上げを実施する可能性があるため、香港ドルが向こう数か月の間に7・85香港ドルまで下落する可能性は否定できない。
米ドル金利上昇で香港から資金が流出すれば、香港ドルは引き続き下落圧力にさらされる。香港ドルが7・85香港ドルに触れた場合、HKMAは米ドル売り・香港ドル買い介入を実施するため、民間銀行がHKMAに持つ香港ドル建て決済勘定口座残高は減少することになる。同残高が極めて低い水準(例えば数十香港ドル)に減少した場合、目下ゼロに近いインターバンク市場の翌日物金利は顕著に上昇すると予想され、そうなれば、香港の銀行は最優遇貸出金利引き上げによって資金調達コストの上昇に対応するであろう。
目下、香港ドルが7・85香港ドルに触れるにはなお距離がある。香港の銀行が18年後半に最優遇貸出金利を引き上げる可能性は、同前半よりも高いだろうが、資金流出の速度や金利引き上げの具体的な時間の予測するのは極めて難しいといえる。
中国の経済成長は質重視
李首相は、3月に示した国家発展戦略の中で、経済成長の速度よりも質を重視し、金融緩和の刺激策よりも、負債圧縮(デレバレッジ)に重心を置くと表明している。
3月5日の政府活動報告では、18年の国内総生産(GDP)伸び率目標を6・5%前後に設定した。
経済成長率は鈍化する可能性があるが、李首相は、大規模な財政政策はとらないと表明。財政赤字の対GDP比率の目標は前年の3%から2・6%に引き下げた。実際の17年の財政赤字の対GDP比率は3・7%だったが、18年の赤字目標を低めに設定したのは、当局が経済成長を維持するにあたり高い代価を支払いたくないことを示唆している。工業分野の過剰生産能力や債務過多の問題に直面しているが、財政支出の引き上げは、一般的に投資と借入の増加を意味する。
李首相は、中立的な金融政策を維持すると表明。これは、GDP伸び率鈍化の可能性と消極的な財政政策と一致するものである。過去1年、中国経済は基本的に安定しているため、更なる金融緩和策はとられていない。
政府活動報告では、通貨供給量の目標を設定しなかったが、李首相は、広義の通貨供給量(M2)について、「合理的」な伸び率を維持すべきとの見解を示している。金融デレバレッジの進展に伴い、ここ数年、M2伸び率は鈍化している。実質GDP伸び率が6・5%前後、非食品インフレ率が2%との目標が設定されたことを勘案すると、M2伸び率は当面、8~9%の範囲内で維持できるとみられる。
18年1〜2月の経済活動は比較的力強かったが、これは、旧正月が2月と比較的遅い時期だった影響があるかもしれない。鉱工業生産高の伸び率は17年12月の6・2%から7・2%に加速。固定資産投資伸び率は同7・2%から7・9%になり、小売売上高の伸び率は17年同期の9・4%から9・7%に加速している。
以前のレポートでは、中国の経済成長の鈍化ペースは安定しているため、18年の経済成長率は緩やかな鈍化にとどまると予想していた。足元の中国経済の安定さは、弊行のこの見方を裏付けており、18年通年のGDP伸び率予想は6・6%で据え置く。
(恒生銀行「香港経済月報」2/3月号、「中国経済月報」3/4月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載します)