観光、コンテンツを世界へ売り込む
ビジネスセミナー開催
13億人以上の人口を抱える巨大市場、中国。香港は人口が約740万人と市場としては小規模であるものの世界有数の経済機能を持つ親日都市だ。日本では世界で戦うためのビジネスセミナーがたくさん行われているが、今回は日本で開催された日本政府観光局(JNTO)と映像産業振興機構(VIPO)のセミナーを取材した。
(取材と文・武田信晃)
★珠江デルタの客を香港経由で日本へ
2017年、日本を訪れた香港人は約223万人と過去最高を記録した。実に香港人の3割が日本を訪れたことになる計算だ。JNTOは香港・中国本土のみならず世界中から観光客を呼び寄せようと努力している。去る1月31日は東京、2月2日は大阪で第19回JNTOインバウンド観光振興フォーラムを実施した。香港を含め、北米、欧州、東南アジアなど世界各地のJNTO事務所長が一堂に会して観光業に従事する人たちを対象に実情を説明した。このフォーラムは、各国・都市の良い点だけではなく、課題もしっかりと説明するため、旅行関係者からの評判も悪くない。
香港市場でみると、成熟している市場であるため、共感やインスタ映えなどがキーワード。そんな場所であれば地方へでも赴く身の軽さがあるという。高速鉄道と港珠澳大橋が開通すれば珠江デルタ西部から香港へのアクセスが向上することから、香港を日本への「発着」の場として視野に入れることが可能ではないかと提案した。また、ペット同伴が可能なプライベートジェットを利用したツアーも開催されたという事例も紹介するなど、多彩な旅行が香港人の間で行われていることが明らかにされた。
一方、中国本土からの航空旅客便は15年冬をピークに少しずつ減少傾向にあり、地方路線の新規開設が期待される。また、スキー市場が急成長しているが、観光体験型、地元住民向けといった比較的難易度が低いコースが中心。標高差のあるコース、宿泊もできるといったスキーリゾートは中国国内ではわずか3%しかないため、そこが狙い目という。
また、JNTOは2月7日、会議や展示会などを開催する「MICE」についてのシンポジウムも行った。15年の観光庁の調査によると国際会議参加者の1人当たりの消費額は平均で26万3732円。一方、16年の訪日外国人の旅行支出額が15万5896円であることから10万円以上高い。香港でも多くのイベントが開かれており日本と競合するが、日本で数多くのMICEを手がけるコングレの武内紀子・社長は「香港は英語が使えるので言葉の壁が少なく、終電も気にしなくても良いほど交通の便が発達しているのも強み」と語った。その正反対が日本の弱みとも言え、シンポジウムでも指摘されていた点だった。
★正規版ビジネス拡大、海賊版は減少
アニメ・漫画は日本が世界に誇るコンテンツなのは言うまでもないが、対中国という意味でのビジネスは海賊版の件があり躊躇する企業も少なくなかった。VIPOは2月19〜21日、中国のコンテンツビジネスの専門家を招いて攻略セミナーを実施した。ビジネス編、法律編、中国語ローカライズ編を3日に分けて行われたが、3日間合わせて150名以上と各回とも定員いっぱいとなり関心の高さをうかがわせた。
セミナーでは、騰訊(テンセント)などのIT企業が正規版のライセンスを購入し海賊版のサイトに対して警告をしたり、訴えたりすることで海賊版を追いやり、自分自身のサイトに顧客の囲い込み、しっかりした課金システムを持つコンテンツビジネスを展開していることなどを紹介。中国=海賊版がセットというのが日本人のステレオタイプとするならば、実態はかなり変化していると説明した。
法律面では、実際に認可を担当する政府部門の話、どういったドラマや映画が配信できるのか、合作映画を製作する場合、文化部によるブラックリスト(放送禁止)の作品などを紹介した。日本はアニメ、映画などは製作委員会をつくるため権利関係が複雑だが、中国は実は権利関係は明確で、かつ保有者も違うという産業構造があるなど、踏み込んだ説明がされた。
翻訳面では、Translation(翻訳)ではなくTrans—cultureが基本。つまり、文化的背景を含めて翻訳することがポイントという。中国には映像翻訳専門の企業がない事も紹介したほか、商習慣が違うため、細かい点までしっかり説明する事が重要と指摘した。
アニメ・漫画では依然として有利な立場にあるが、日本のドラマは韓国ドラマに風穴をあけられた。巻き返すにはどのようにするべきかについて、ビジネス編と法律編で講演した上海に本社を置くIP FORWARD HOLDINGSの分部悠介グループ総代表に聞いてみると、「韓国は中国人のことを『ここまでするか』というくらいかなり研究している。日本は全体としてもっと中国のことを知っていくということから取り組む必要がある」と語った。