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深圳市2018年政策と土地利用計画について
改革開放のモデル都市として発展を遂げて来た広東省深圳市。2018年の「10大主要工作」や第13次5カ年計画(2016〜20年)から今後の都市開発の方向性を見てみましょう。
(深圳NAC名南コンサルティング 浜田かおり)
⒈改革開放発展モデル都市の今後
深圳市は40年ほど前に経済特区として開発が開始されて以降、省レベルの行政権限を有し、全国第4位の都市、また珠江デルタ経済の牽引役として発展を続けています。市全体の土地面積は2000平方キロメートル近く、2017年度のGDP8・8%、常住人口1200万人(注1)は、2016年末に発表された昨年増加比4・7%と、人口流入が続く都市の1つです。
製造業で発展し人口が定着したことで、工業地域から商業地域への転換を上手く果たした深圳の今後の課題は、簡単に言えば経済発展の維持と、住環境の整備ということになります。
深圳市政府が「2018年十大主要工作」に掲げる中には「ビジネス制度改革と国際化・法治化によるビジネス環境整備」「供給側構造改革による経済高度化」「国際イノベーションセンター建設と発展推進」「粤港澳大湾区戦略の実施」といった、経済発展を強力に推し進める言葉が並ぶ一方、「都市の現代化」「住環境整備」「文化・ソフト建設」「民生事業の充実」など福祉分野の課題も記載されています。(図表)
⒉居住地域の中心を特区外(注2)へも拡大
市の「十三五」(第十三次五カ年:2016年〜2020年)計画の中には、市内10の行政区のポジショニングが明記されています。元の経済特区内である福田、羅湖、塩田は主に金融やサービス業種の中心としての都市機能を強化し、特に南山区は世界レベルのイノベーション中心区として位置づけられています。さらに、開発対象は元の特区外の街づくりにも向けられており、各区の位置づけは以下のように表現されています。(中国語原文内容を意訳)
宝安:大湾区の中心、智能(スマート)・創新(イノベーション)発信エリア
龍崗:深圳の東部中心としてハイレベル都市建設
龍華:現代化国際化イノベーション新都市
坪山:龍崗の製造基地として東部中心建設に協力
光明:イノベーション型・智能型製造強化エリア、緑化都市
大鵬:大湾区のオアシスとして環境保護・レジャー地域開発
「『3つの軸』強化と『2つのベルト』優良化」、元の特区内である、南山・福田・羅湖・塩田を結ぶベルトに加えて特区外の都心を開発するという計画が市の「十三五都市建設と土地利用計画」に図説されています。
街の広がりは、ショッピングセンターの相次ぐ開業でも理解できます。目下深圳市内には101カ所のショッピングセンターがあり、その内67カ所はここ5年間で開業したということです。2017年に深圳市で開業したショッピングセンターは16カ所です。
もう一つは地下鉄路線の広がりです。2017年11月中頃の深圳商工会における深圳市政府の政策交流会の席で、深圳市発展改革委員会による回答内容によると、現状で8本の路線(1 、2 、3 、4 、5 、7 、9 、11号線)286キロメートルが運行されており、さらに145キロメートルの6 、8 、10号線および既存路線延長の建設中(2020年完成予定)であり、2022年までに合計15路線、2030年までに快速路線8本を含む合計32路線を建設する計画があるということです。
⒊工業用地を確保して持続成長を図る
土地の有効利用を進める中で、広東省では都市・工場・村の古い建物を改造もしくは改築して新たな活用コンセプトを導入する「三旧改造」が進められています。これが都市計画と相まって、「城市更新」と呼ばれる都市の再開発が続々と実施され、工場地域が商業化されたり(「工改商」)、学校や病院等公共施設が建築されたりする中で、一定比率で工業用地を確保し、各コンセプトを備えた19の「産業園区」と呼ばれる産業集積エリアを形成しようとしています。
各園区にリストアップされる企業工業団地の不動産部門や、園区の所在行政区の誘致部門等が、投資誘致の窓口対応業務を行っているようです。
⒋日系企業への影響
再開発を含む都市・土地利用計画の実施により、従来製造業地域であったところが商業化される等のために、工業団地の所有者である家主に退去を迫られる地域が出てきています。政府の福祉事業計画のため、病院や学校建設のために用途変更される場合もあるかもしれません。また、現時点で退去の必要はないものの、発展計画のエリア内に所在する地域の賃貸契約には「政府計画により工業団地に再開発などが発生する場合、無条件で退去する」等の条件が記載される場合があります。このため、日系製造業で移転や組織再編を検討しなければならない企業も少なくないと思われます。
移転先の検討時、政府の土地計画を理解すると共に、優遇政策を知ることも重要です。製造業には研究開発費用の企業所得税加算控除政策があるほか、知的所有権により国家ハイテク認定、深圳市のハイテク認定を申請できれば、これからの産業園区への入区がしやすくなるといったメリットも享受できます。
政府の優遇政策は中国資本企業がより積極的に享受し投資や移転を進めていることから、深圳市の民営企業活動がより活発になり、結果として日系企業の調達や販売でもビジネスチャンスが広がることが期待されます。
※注1…深圳市の居住証を有する市民の数。「流動人口」を合わせると2千万人近くと言われます。
※注2…特区内/外:2010年より経済特区は、南山・福田・羅南・塩田区だけでなく、宝安区や龍崗区等を含む全市に拡大されました。
(2018年2月作成)
※各地の運用状況が異なる場合があります。各所在地にて再度ご確認ください。
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