#110深圳、民間消費の一層の拡大に向けた支援策を発表

「華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。
(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)

今月の質問

 最近、深圳市において民間消費の一層の拡大に向けた支援策が発表されたと聞きました。具体的内容について教えてください。


11月1日、深圳市経済貿易と情報化委員会は、「消費拡大の一層促進に関する若干措置(意見徴収稿)」(以下、同措置)を発表した。同措置では、深圳小売業の大型化、消費環境のスマート化、および新しいビジネスモデルの導入による消費創出を狙った各種の支援策を打ち出している。 本稿では、同措置発表の背景とともに、深圳市民間消費の拡大に向けた具体的な支援策の中でも、特に補助金関連政策にフォーカスし、簡単に紹介する。

⒈背景

中国は近年、経済の近代化に取り組み、従来の輸出型経済から消費型経済へと方向転換した。その後、各地で中央政府の要請に応じ、国内消費の拡大に向けた関連措置の検討や相次ぐ刺激策を導入した。

輸出型経済の代表であった深圳でも、内需拡大に向け、2009年10月から3年間で、インフラ建設、環境保護と改善、産業イノベーション等多数の分野にわたる計242プロジェクトに対し、総額3879億元に達する内需拡大補助金を交付した。また、国内消費の持続成長を目指し、2013年から2015年にそれぞれEC事業、EC関連物流業、商業貿易物流業の一層の促進に関する措置を導入しており、内需拡大につながる産業成長の環境整備に注力してきた。この一連の政策により、深圳市の民間消費総額は、近年の輸出不振のなかでも年々増加し、同市のGDP成長に貢献している(図表1)。また、今年10月に開催された共産党大会においても、消費市場体制の完備による消費増強が経済の持続的発展へ大きな役割を果たすことが繰り返して強調された。

図表1:深圳GDPと輸出・民間消費の推移

【出所】深圳市国民経済と社会発展統計報告

このような背景の下、深圳市はEC取引を始めとする新たな消費手段の導入加速、および供給構造のレベルアップに向けた新たな支援策として、同措置を発表した。

⒉主な内容

同措置では、前海湾保税EC政策の市内の保税区にも同様に適用することによるアウトバウンド消費の国内還流、イミグレーション隣接地域の商業化開発による入出国旅客の消費促進、および食品や医薬品等、重点商品の追跡システムの構築による消費安全保証支援策等を掲げ、民間消費の押し上げを図っている。また、深圳市政府の企業に対する支援とサービス向上を目指し、資金面では、持分投資や再編促進等の市場化手段による小売の新形態・新業態での発展強化のため、総額20億元の「小売産業発展基金」を設けるとしており、小売業の大型化や小売大手の誘致、消費環境の整備等に対する各種奨励金や補助金が制定されている(図表2)。

図表2:同措置による補助・奨励金の内訳

⒊まとめ

深圳市は、消費市場の整備から新たな供給・消費制度の創出、消費潜在力へのアプローチに至るまで、資金面、サービス面で小売企業を支援し、さらなる消費市場の拡大と促進につなげることを目指している。

財政資金の具体的な配分と運用については、これから詳細な計画を作成する予定であるが、こうした政府の後押しが、品質やブランド力強化につながり、さらには、販路の工夫や拡大により、これまで海外に流出していた旺盛な購買力が深圳市に回帰することが考えられよう。

※注1…オンラインとオフラインの購買活動の相互連携を意味する。例としては、オンラインで商品価格や仕様を調べた上で店舗に赴き店頭で商品を購入する等
※注2…実店舗以外、PCモール、スマホモール、WeChat店舗、アプリ販売および第三方ショッピングサイト出店等の販売方式
※注3…最寄りの配送センターから顧客への商品受渡までの最後の区間における配達効率に影響する問題等を指す
※注4…別途支給額上限が設定されているケースあり

(執筆担当;多田 依真)

(このシリーズは月1回掲載します)

三菱東京UFJ銀行 香港支店
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