香港コンベンション&エキシビション・センターで8月17〜21日(一部19日まで)に開催された「美食博覧(フードエキスポ)」。会期中はおよそ50万人が来場した。香港貿易発展局が主催する同イベントは今年で28回目を迎え、29カ国・地域からおよそ2000もの企業・団体が出展した。日本はパートナーカントリーとして位置付けられ、今回は過去最多となる338社・団体が出展した。日本貿易振興機構(ジェトロ)が主催するジャパンパビリオンは213企業・団体が出展、7年連続の出展となった。主に畜産品、水産品、 調味料、日本茶青果物、日本酒、 菓子関連など種類は多岐にわたり、出展面積は1350平方メー トル(合計150コマ)と広範囲に及んだ。
香港は日本の農林水産物・食品の輸出額全体の約4分の1を占め、その総額は1853億円。昨年、輸出額は過去最高を記録している。輸出重要市場としてさらに販路拡大が十分に期待されているなか、後編は、千葉県と佐賀県から出展した酒造会社に話を伺う。
インタビュー①株式会社ドレイコ カヤマ醸造所 代表取締役社長 香山成哲氏(千葉県)
水と米と麹に酵母を加え、発酵させた日本古来より伝わる伝統的なお酒「どぶろく」。醪(にごり)を一切濾さない為、米に含まれる食物繊維や栄養素を摂取ができ、「健康酒」として近年注目されている。この「どぶろく」を健康志向の高い香港の人々に飲んでもらいたいと出展したのは株式会社ドレイコ カヤマ醸造所(以下カヤマ醸造所)。ジャパンパビリオン内に設置された「ニューチャンレンジャーブース」に参加した。
これは過去5年間輸出経験がない企業・団体を対象にした枠で、出展料を通常の4分の1程度に抑えることが可能なほか、専属アシスタントの1名無料手配など、費用サポートも含まれる。初めて輸出に取り組む企業に、チャレンジする場をつくることで事業拡大に繋げてもらいたいと日本貿易振興機構(ジェトロ)が2015年から始めているものだ。
今回出展した千葉県茂原市にあるカヤマ醸造所は、2015年に設立、茂原市で初めて製造許可を取得した醸造所だ。出品した「スパークリングどぶろく かやま」は、昔ながらの手作り製法で千葉県産米と麹を発酵、熟成させて製造しており、人工甘味料、添加物、薬品等を使用せず、自然の味を生かしている。また「スパークリングどぶろく かやま」は、シャンパンなどにも用いられる「瓶内二次発酵」により、生どぶろくのような出来たてのおいしさを3カ月間長期間保存することにも成功した。
「本来、どぶろく自体は『生もの』なので1、2週間くらいしかもたない。それを瓶詰して1日発酵を進めて炭酸を閉じ込め火入れをして発酵を止めている。3カ月保存できるように改良を重ねてきた。どぶろくというと度数が高いイメージを持たれるが、アルコール度数を10%に抑え、微炭酸にすることで、より飲みやすいものを実現させた」と香山氏。
今年6月に商品化以降は、瞬く間に話題となり、「2017年度モンドセレクション」では品質、技術水準などが高く評価され金賞を受賞した。そして今年8月の香港での「美食博覧(フードエキスポ)」への出展と続く。「商品が出来上がってからは、一気に様々なことが動きはじめ、何がなんだか分からない状態でここにたどり着いた」と戸惑いながらも焦りは全くない。「特にダイエットや健康美容に関心のある方にも飲んでいただきたい。お酒のつまみいらずでおいしく楽しく飲める『美酒』として海外で販路を拡大していく」
「飲みにくい」と思われがちだったどぶろくの概念を覆した新たな挑戦。香港、そしてアジアから世界展開をすでに構想中だ。
インタビュー② 鳴滝酒造株式会社 代表取締役 古館正典氏(佐賀県)
およそ300年間酒造りを営んできた太閤酒造を中心とした企業合同で1974年に設立された鳴滝酒造株式会社。今回、香港のイベントには初出展だが、アジアへの輸出は6年前から始めている。同会社代表取締役 古舘正典氏は「香港は競争が厳しい市場なので継続的な輸出はなかなか…」と話しながらも、情報基地であり、中国本土への消費をたかめていくためにはベンチマークは香港と言い切る。現在は主に香港のレストランに卸している。
こだわりは何といっても「仕込み水」。新たな蔵を建てる際、さらに良質の水にこだわろうと、今から40年近く前に、探し直したそうだ。そこで選ばれたのが、かつて豊臣秀吉が杉の根元から湧き出る水で茶をたて、千利休に差し出したという云われが残っている場所だったのだそう。「たおやかで、滑らかな口当たりの水質。思い切って蔵を移転させる価値があった。おかげで酒質は一気に上がった」と古舘氏。その後は、主に吟醸酒造りに注力し、これまで福岡国税局鑑評会吟醸酒の部第一位局長杯を3回連続で獲得、さらに全国新酒鑑評会において九州で初めて、6年連続の金賞受賞を果たした。
昨今のアジア圏からの訪日客が右肩あがりのなか、佐賀県の日本酒の認知度は徐々に高まっている。「ここ数年前から唐津にもアジア圏からの観光客が増えてきた。酒蔵見学に来られて、様々な質問を受けることが多くなった。特に香港から来られる人は、事前に勉強してきているのか、そこまで知っているのかと思うほど、詳細にわたった知識を持っていることにこちらが舌を巻くほど」
日本酒とともに、400年以上の歴史を誇る地元の焼き物「唐津焼」の発信も精力的だ。「外国人の訪日者が増えているのは嬉しいが、地方への旅行が一時的なブームで終わらず、それぞれの土地の伝統的な料理とともに飲む地酒の素晴らしさ、価値を知ってもらえたら嬉しい」
一方で日本国内と海外の評価はは多少なりともズレは感じるそうだ。「香港では、味がしっかりした料理に合う酒の評価が高い傾向があるような気がする。様々な風味と香りと味わいのある日本酒とともに、こんな料理にもあうという、提案を出していきたい。積極的に伝えていくことで、よりおいしさの幅を広げていけるようになればと思う」
(このシリーズは月1回掲載します)
【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログhttp://nararisa.blog.jp/