⒈「回答」第9条
問題:企業の住所移転(引越し)により生じる労働契約の履行に関する問題はどのように処理されるか。
回答:企業がその成長・発展のために住所移転する場合、「労働契約締結時に根拠としていた客観的な状況に重大な変化が生じた」状況に当てはまるため、雇用者は労働者と協議の上で、労働契約の内容を変更すべきである。労働契約の変更が合意に至らず、労働者が労働契約の解除およびそれによる経済補償金の支払を雇用者に要求する場合、裁判所はこれを支持する。
ただし、企業の住所移転が労働者に大きな影響を与えず、かつ雇用者が通勤バスの手配・交通手当の支給などの合理的な処置を取っており、労働者の労働契約の解除理由が不十分である場合、雇用者は労働契約の解除による経済補償金を支払う必要はない。
解説:「労働契約法」第40条によれば、「労働契約締結時に根拠としていた客観的な状況に重大な変化が生じた」状況に当てはまる場合、雇用者は労働者と協議の上で、労働契約の内容を変更しなければなりません。労働契約の変更が合意に至らない場合、雇用者は30日前に書面通知するか、または1カ月分の給与を支払うことで、労働者と労働契約を解除することができます。また、広東省人力資源・社会保障庁「企業高度化における労使争議の予防処理に関する意見」(粤人社規「2013」3号)は、「企業の体制改革、移転、持分変更、高度化(来料工場の法人化)などにより、企業が同市内で移転し、従業員が本市の公共交通機関を利用し通勤する、若しくは企業が交通手当を支給したり無料交通手段を提供したりする処置を取り、従業員の生活に大きな影響を与えない場合、労働契約は継続して履行する」と定めています。深圳市中級法院の「深圳労働争議裁判手引」第80条には、「深圳市の会社が同じ深圳市内で住所移転を行い、労働者がそれにより経済補償金を要求する場合、裁判所はこれを支持しない。深圳市外へ移転を行い、労働者が経済補償金を要求する場合は、これを支持する」と規定されています。
当該「回答」第9条は、企業の住所移転による経済補償金の支払に関する問題をさらに明確にしており、住所移転による労働契約の変更について、まず「労働契約法」第35条の規定に基づき協議の上で書面にて労働契約を変更しなければならず、合意に至らない場合は経済補償金を支払わなければなりません。ただし、労働者に大きな影響を与えず、かつ雇用者が合理的な処置(通勤バスの手配・交通手当の支給など)を取った場合を除きます。すなわち、企業の住所移転により労働契約が履行不能な状況が生じたか、若しくは労働者の労働契約の履行に大きな影響を与えるかどうかが、経済補償金支払の必要性に関する判断基準になると思われます。
⒉「回答」 第11条
問題:非合法雇用者の負傷・死亡人員が、雇用者への一時金賠償支払の要求を直接裁判所に提訴することは可能か。
回答:非合法雇用者の負傷・死亡人員(遺族を含む)により関連行政部門が発行した非合法雇用処理意見に基づき、雇用者に一時金賠償を要求することを支持する。非合法雇用者の負傷・死亡人員が関連行政部門が発行した非合法雇用処理意見を提出出来ない場合、裁判所は調査を経て判明した事実及び「非合法雇用者の負傷・死亡人員の一時金賠償弁法」の規定に基づき、非合法な雇用関係の成立を認定し、それにより非合法雇用者の賠償責任を確定する。
解説:「非合法雇用者の負傷・死亡人員の一時金賠償弁法」によれば、非合法雇用者の負傷・死亡人員とは、「営業許可証を有しないまたは法的に登記・備案していない会社、および法により経営を取り消された会社において、事故または職業病により傷病を被った従業員、もしくは雇用者の雇用した少年労働者で負傷または死亡した者」を指します。この場合、雇用関係の主体(雇用者と労働者)が「労働契約法」に定められた資格要件を満たさないため、そもそも労働関係を有していると見なされず、「労働契約法」の適用対象にはならないことが分かります。「労災保険条例」第66条には「非合法雇用者における負傷・死亡人員の賠償金額に関係する争議は労働争議の関連規定に基づき処理する」と定められております。ただし、賠償金以外の非合法雇用の認定、賠償責任の有無などに関する争議を労働争議として取扱うかどうかについては明確には定められていません。
今回「回答」第11条により、非合法雇用の認定、賠償責任の有無に関する判断も労働争議の範囲に入り、裁判所が直接処理することができることが明確にされました。
⒊「回答」 第12条
問題:「労災保険条例」中にある「前年度」はどのように認定されるか。
回答:従業員の労災保険待遇(労災待遇)を計算する際、「当該地区の前年度従業員平均給与」、「当該地区の前年度従業員月平均給与」を参照して計算する必要がある場合、当該従業員の労災発生時の前年度従業員平均給与により認定する。
解説:「労災保険条例」および「広東省労災保険条例」において、前年度従業員平均給与が補助金等の計算基数とされていますが、この「前年度」の基準となる日は、事故発生日なのか、労災認定日または障害程度の評価日であるかについては、法律上明確な規定がありません。また、前年度従業員平均給与は年末・年初に公表されず、通常統計局より毎年6月に公表されるため、6月以前の前年度給与は実際には2年前のものとなり、6月以降が前年度のものとなります。実務上、6月以前に発生した労災事故について、まず公表済みの前年度給与(実際には前々年度の平均給与)に基づき計算し、6月以降前年度平均給与の公表後、その差額を追加で支給すべきという見解が散見されます。認識を統一し、訴訟案件を減少させるため、「回答」第12条は、この「前年度」が労災発生時の前年度従業員平均給与であることを明記しています。(2017年9月作成)
(このシリーズは月1回掲載します)
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