一帯一路から大湾区へ(前編)


中国経済—今月のポイント
①中国経済がニューノーマルの時代に突入し、欧米の景気回復ペースが緩慢な中、一帯一路戦略は、企業の新市場開拓の一助になり、対外貿易成長を促すであろう。
②大湾区(ビッグベイエリア)計画は、香港経済新たな成長けん引力になる潜在性を秘め、一帯一路の黒子的存在である。
③政府は、この2つの計画において、主導的にインフラ設備建設を計画し、企業に関連設備を提供することが可能である。そして、インフラプロジェクトは他のサービス需要を喚起し、これに伴う経済効果も生じる。

粤港澳大湾区沿線都市

(注)データは2016年(出所)Wind、各地方統計局、ハンセン銀行

ニューノーマルと供給サイドの改革

近年、中国では過剰生産能力、企業・個人の債務負担増加が問題となっている。2008年から14年までの間に、粗鋼の生産量は累計で83%増加、セメントの生産量は66%増加し、その後は高水準で推移している。企業(金融機関を除く)および個人の債務規模を反映する社会融資総量は、10年前の国内総生産(GDP)の95%から足元では同213%にまで上昇している。このため、当局は「過剰生産能力の解消、在庫解消、レバレッジの解消」を提唱し、投資の伸びを抑えることで、過剰な生産能力や在庫、高レバレッジといった問題を解消したい意向である。

固定資産投資伸び率は、09年6月の33・6%から足元では8・3%にまで鈍化し、GDP伸び率は09年第3四半期の10・4%から同6・8%に鈍化。経済成長率が2桁から1桁台後半に鈍化し、「ニューノーマル」の時代となっている。政府は、投資と輸出主導から消費・サービス業主導の経済モデルにシフトさせると同時に、「供給サイドの改革」を通じ、長期的な経済競争力を維持する狙いである。

経済学上、投資は総需要の一部である。投資の伸び鈍化で、もう一方、すなわち供給サイドから景気を浮揚させるという当局の狙いを理解するのは難しくない。

供給サイドの改革からみる一帯一路

供給サイドの改革は、企業の経営コストの軽減や新市場の開拓を促進するのが目的で、企業の成長を促すことで景気の新たなエンジンにし、中期的に消費を促進し、雇用を支える狙いがある。

具体的には次の3つの部分に分かれる。

⑴税負担の軽減
ここ数年、中国政府は、営業税から増値税に変更する「営改増」を実施し、重複課税を軽減し、企業の実質的な税負担軽減に努めている。税務総局によると、「営改増」による昨年の減税額は5000億元超で、同年のGDPの0・7%に相当した。

⑵行政許認可の減少
李克強・首相は、今年3月の政府活動報告の中で、現政権は16年に行政許認可権限事項を3分の1減らすとの目標を前倒しで達成した点に言及したうえで、国務院および地方政府による審査・認可事項をさらに165項目減らすと表明。これにより、行政機構の簡素化、権限移譲、許認可減少により、公共サービス、ビジネス環境を改善させる狙いがある。

⑶新市場の開拓
企業の新市場の開拓協力という角度から見ると、一帯一路は中国政府の中心的戦略といえる。「一帯一路」とは、陸路の「シルクロード経済ベルト(一帯)」と海路の「21世紀海上シルクロード(一路)」を指し、中国政府としては、アジア、欧州、アフリカ大陸および付近の海洋国家との経済・貿易関係を強化し、インフラ建設や文化などの面で協力することで、中国の国有企業、民営企業の海外進出を促し、新たな市場を開拓させる狙いである。同時に、海外企業との協力を通じ、中国自身の産業転換・高度化、競争力向上を促す面もある。

「一帯一路」の意義

中国経済がニューノーマルの時代に突入したことで、政府は供給サイドの改革を推進している。このことは、一帯一路戦略を生み出した内部要因である。外部要因は、欧米の景気回復ペースが緩慢なことで、中国企業は貿易の持続的な成長を支えるため新たな市場を開拓する必要がある。

08年の金融危機前、03〜07年の間に世界の貿易は年平均7・4%成長した。しかし、過去5年はわずか1・9%にとどまる。世界的な貿易の伸び鈍化の一因は、欧米の輸入需要と中国を含むアジア主要国の輸出の伸びと密接な関係があると考えられる。近年、欧米の景気回復ペースは緩慢で、輸入需要が縮小。それに伴い、アジア諸国の輸出の伸びも鈍化している。

一帯一路は、アジア、欧州、アフリカ大陸をまたぎ、約70カ国・地域をカバーする。シンガポールや韓国、欧州諸国など比較的先進国と中国本土、香港を除いた場合、一帯一路のカバーする国は40を超え、全世界のGDPの12%を占める(図表1)。このため、一帯一路は、中国企業の対外進出を促すことが可能で、欧米以外の市場を開拓する契機になることができよう。

表1:GDP

(注)データは2016年又は最新統計(出所)Macrobond、ブルームバーグ、ハンセン銀行

新興市場で企業が発展しようとするのは決して容易ではない。特に、企業は新興市場におけるインフラなどのビジネス関連施設の不足や先進国に比べた投資リスクの高さを懸念している。このため、中国政府は、シルクロード基金、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立。また、新開発銀行(NDB)などの国際金融機関と協力し、一帯一路沿線国でのエネルギー、運輸、通信などのインフラプロジェクトにファイナンスを提供している。また、政府や国際金融機関の参画が増えるにつれ、民間や機関投資家が当該プロジェクトに資金を投じ、リスク分担が図られている。(図表2)

表2:一帯一路のファイナンス機関

(注)最新データ(出所)Macrobond、ハンセン銀行

(恒生銀行「中国経済月報」8/9月号、「従一帯一路到大湾区」より。このシリーズは2カ月に1回掲載します)

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