経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。(インタビュー・楢橋里彩)
六國酒店・広東料理レストラン
「粤軒(Canton Room)」
エグゼクティブシェフ 馬榮徳さん
【プロフィール】
1958年香港出身。1974年香港漢宮酒樓夜總會でシェフの道を歩み始め今年で43年。95~98年に北京凱莱大酒店で中華料理レストランの料理長を務めるなど数々の高級ホテルで料理長を歴任。現在は六國酒店中菜行政總廚、香港中廚師協會委員。その創作料理はこれまでにおよそ20もの賞を受賞し高い評価を得ている。
——湾仔にある六國酒店の老舗広東料理レストランとして地元の人にも観光客にも人気の高い店ですね。
1933年創業の老舗ホテルで今年84年目を迎えます。弊店はホテルの創業時からあるんですよ。昔からの馴染みのお客様も多いです。私が2001年に入るまでは伝統的なスタイルを中心に作っていましたが、少しずつ流れを変えており、昔ながらの料理とともに創作料理を提供しています。
——なぜ創作広東料理を作るようになったのでしょうか。
様々なレストランのコンテストに参加してきたことが大きいですね。料理のコンテストの会場にはあらゆる世界観をもつシェフが競い合います。私自身、毎回現場で刺激を受け学んできた場所でもあるんですね。有難いことにこれまで20近い名誉ある賞をいただいていますが、常にモチベーションを高める場でもありました。また創作料理を作るようになったもう一つの理由は、国際都市・香港としての位置づけですね。香港には多国籍料理レストランが多くあり、特に若い世代を中心に人々は伝統的な味より今流行の味、スタイルを求めるようになりました。また従来は大皿料理を大家族で食べるというのが定番ですが、今では変わりつつあり、少人数で食べやすい量を求められており、コースを充実させて一人前の量で楽しめるようにしています。
——まさに時代の流れですね。
時代の流れととともにかわったのは「人材育成」も同じです。かつては一人前のシェフになるにはコツコツ地道に取り組み、あらゆる段階を踏んできましたが、今は違います。昔と同じ経験を積ませようものならすぐに辞めてしまいます。苦戦するところですね。私がかつて様々なことを吸収していたように、若いシェフにも他店のシェフと競いあい「料理に対する情熱」と「学び」を得てほしく、コンテストに積極的に出るように促しています。
——馬さんが作られる料理はとても繊細で上品な味わいですね。
ありがとうございます。オープン時から人気の高いのが伝統的な広東料理の代表的な「化皮乳猪(子豚の丸焼き)」や「招牌蜜汁叉焼(蜂蜜で味付けしたローストポーク)」です。外側のかりっとした食感と柔らかいお肉を秘伝のソースに絡めていただく料理はリピートされる方も多く、自慢の料理です。歴史の長いホテルなので創業当時からご愛顧いただいているお客様も少なくありません。三世代の家族でお越しになる方もいらっしゃいます。
——老舗レストランならではですね。
香港が中国に返還された頃、海外に移住したお客様が年に数回香港に「里帰り」される際に弊店にいらっしゃることもあります。皆さん「ここに来ると香港に戻ってきたと実感する」とおっしゃいます。嬉しいですね。様々な国籍、年齢、背景をもつお客様が多い香港にあるレストランだからこそ、伝統と創作の料理のバランスを考慮します。
——馬さんは日本の食材も多く取り入れているのだそうですね。
私自身、日本食、日本の食材は大好きです。最近では特に日本の食材にもこだわって取り入れたメニューも増やしているんですよ。今後、検討しているのが青森のナマコや北海道の百合の根です。これまでも日本の食材は使ってきましたが、青森県産のナマコはとてもおいしく、ナマコ料理を以前に試食した時に一口食べてすぐにメニュー化しようときめたほどです。白身魚の料理には日本の醤油を使っています。深みと味わいを出すのには日本の食材・調味料を使う機会は増えています。日本食を好きな香港人が増えているからこそ、日本の食材・調味料をどう使うか意識し、こだわっていきたいですね。
——来年には還暦を迎えられるということですが、今後の展開や目標などありますか。
季節ごとのメニューを増やし、いつ行っても新しい味を楽しめるよう、今後も斬新でユニークなメニューの開発に取り組んでいきたいです。また自身のプライベートキッチンを立ち上げたいなどやりたいことは沢山あります。(この連載は月1回掲載します)
【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログ http://nararisa.blog.jp/