学生リーダーの実刑に反発
法治精神揺るがす
2014年の「セントラル占拠行動」の学生リーダーだった3人が特区政府本庁舎前の広場に突入した事件の量刑見直しで禁固刑が下された。これに抗議するデモが約2万人を集めたことなどから、特区政府や法曹界は市民の誤解払しょくに努めている。占拠行動発起人である教職者の免職要求も上がる中、各大学では相次ぎ「香港独立」のスローガンが掲げられる騒ぎとなっている。(編集部・江藤和輝)
高等法院(高等裁判所)上訴庭が8月17日、新たに下した量刑は香港専上学生連会(学連)の周永康・元秘書長が禁固7カ月、香港衆志の羅冠聡・主席(学連前秘書長)が禁固8カ月、黄之鋒・秘書長(元学民思潮召集人)が禁固6カ月。先に下された社会奉仕令や執行猶予付きの量刑に不満を訴えた特区政府律政司の主張が認められた。律政司側は「本件の規模は小さくなく、当日は100人が参加。警備員10人が負傷。突入過程は暴力がかかわり、3人は事前に計画していた。若者だからということで寛容的に処理すれば社会に間違ったシグナルを与える」として3人の即時収監を要求していた。
裁判官は判決文で「香港社会では近年、ゆがんだ空気がまん延し、理想や法的権利の行使を口実に故意に違法行為を犯す人もいる。一部識者は違法行為により正義を達成するとのスローガンで他人に法を犯すことを鼓吹。これら人々は公然と法律を蔑視し、間違いを認めないばかりか意義ある行為とみなしている。不幸にも一部若者は影響を受け、集会、デモ、抗議活動の際に公共の秩序と公衆の安寧を破壊する行為を招いている」と述べ、同様の罪を抑止するため厳しい判決が必要と判断した。
「一部識者」と暗に指摘を受けた「セントラル占拠行動」発起人である香港大学法律学院の戴耀廷・副教授は「社会にはその『ゆがんだ空気』が必要で、それでこそ本当の文明であることが裁判官には分かっていない」と批判。非親政府派は20日、学生リーダー3人と立法会突入事件の13人の収監に抗議するデモ行進を行った。参加者は警察の推計でピーク時に2万2000人となり、今年の7・1デモの1万4500人(主催者発表では6万人)を上回った。デモ主催者は統計をとっていなかったが、14年の占拠行動以降に行われたデモとしては最大になったと認めた。
デモを受けて林鄭月娥・行政長官は21日に記者会見を行い、上訴庭が判決文で「言論、集会、デモの自由と権利は無制限ではない。意見表明やデモの際に違法行為があれば法律の制裁を受ける」と述べていたことを挙げ、今回の2件の量刑見直しは違法行為にかかわるものであるため、「政治迫害」「政治犯」との呼称は正確ではないと強調。さらに一部の者が判決に対する不満から上訴庭を攻撃していることは「香港の司法独立とわれわれが最も重視する法治精神に影響を及ぼしている」と述べた。
袁国強・司法長官は24日付香港各紙に寄稿し、判決に対する批判的な論評について「本件の基本事実と香港の法律制度に対する認識が不足していることを反映している」と指摘。3人の被告に対する起訴内容は違法集結であり、重点は参加者らの行為が違法であるかどうかであるため「被告3人は彼らの主張と政治理念によって起訴されたのではない」と説明した。
親政府派の立法会議員で弁護士でもある何君堯氏は21日、セントラル占拠行動発起人である戴耀廷氏の免職を要求する書簡を香港大学に提出すると表明した。戴氏は法律学部で青少年に害を与え、違法行為への参加を鼓吹・煽動していることから「もはや教べんを執る資格はない」と述べた。さらにフェースブックで戴氏の免職に賛同する市民に署名を呼び掛け、29日〜9月5日に8万623人の署名が集まった。目標の4万人を上回ったことで香港大学条例12条に基づき戴氏の内外の言行を調査する委員会設置を要求するという。
大学で再び「香港独立」
香港中文大学では9月4日、「香港独立」と書かれた横断幕が校内の複数の場所に掲げられているのが見つかった。横断幕は少なくとも5カ所に掲げられていたほか、最寄り駅であるMTR大学駅前に設置されている「民主女神像」には「香港政治犯リスト」と銘打ち起訴または収監された非親政府派関係者の名前が列挙された布が巻き付けられていた。大学側は「香港独立」横断幕は申請・許可を得ずに掲げられていたため即時撤去したことを明らかにし、「大学側の一貫した立場は『香港独立』に絶対賛成しない」とあらためて表明した。
だが5日朝、校内の広場に再び「香港独立」と書かれた横断幕が掲げられ、掲示板は「陥落拒絶、独立しかない」と書かれたチラシで埋め尽くされていた。中文大師生中心管理委員会は同日、学生会に対し「関連の言論は香港の法律に違反し、学校側は一貫して香港独立の立場には賛成しない。学生会に関連の横断幕とチラシの撤去を求める。さもなくば委員会が不適切なものを撤去する」との書簡を送った。だが学生会は「広場に座り込み、学校側による強制撤去を阻止する」と不満を表した。
ほかに香港大学、香港城市大学、香港教育大学などでも掲示板に「香港独立」を盛り込んだスローガンが掲げられた。特に教育大学では7日、特区政府教育局の蔡若蓮・副局長の息子が自殺したことが明らかになった直後、掲示板には「香港独立」などに混ざって蔡副局長らを嘲弄する文字が張り出された。これに対し教育大学の張仁良・学長が遺憾の意を表明し、同大の学生によるものか定かではないとしつつも「道徳の一線を超えた恥ずべき行為」としっ責した。8日には林鄭長官も「道徳をはずれた冷血な言論である」「言論の自由は無制限ではない」との譴責声明を発表した。
監視カメラの映像から張ったのは若い男性2人であることが分かった。張学長は2人が同大の学生であることが証明されれば既定プロセスに沿って処理すると説明。だが学生会の黎暁晴・会長は大学側が監視カメラの映像を基に張り紙した者を追究するのは「白色テロだ」と批判した。これに対し教育局の楊潤雄・局長は「言論の自由には越えてはならない一線がある。大学側が行動をとるのは白色テロと思わない」と強調した。同大では9日、今度は故・劉曉波氏とその妻を嘲弄する張り紙が張られた。簡体字でプリントされた張り紙は言葉遣いや字形からみて中国本土の学生の仕業に見せかけようとした意図があり、悪質といえる。
学生会は言論の自由を盾にこれらの行為を擁護している。だが弁護士で行政会議メンバーを務める湯家驊氏は刑事罪行条例9条の「煽動意図」や10条の「煽動文字の発表」を挙げ禁固刑に当たると説明した。教育現場では学生らの法治や道徳に対する認識をめぐり深刻な問題に直面している。