亡父の跡継ぐ若き2代目
ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人 たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。 ( 取材と撮影・武田信晃/月1回掲載)
今や数えきれないほど日本のラーメン店が香港にあるが、新界粉嶺にある「爵士拉麺(Jazz Ramen)」はブームに先駆け1999年に創業。日本の味を長年、香港に伝えてきた。現在、店を切り盛りしているのが23歳の小村美樹さん。創業者で父の小村由樹さんから跡を継いだ2代目だ。
美樹さんは日本人の父、香港人の母を持つ。「2014年に1年間住んでいた日本から戻ってきました。これから仕事を探そうというときに、父親が閉店後に疲れている姿を見て、何か助けることができないかな?と手伝い始めたのがきっかけです」
当初は店を継ぐつもりはなかったそうだが、まずはラーメンのトッピングの仕方などから学び始めた。スープの作り方なども徐々に習っていきラーメンを作れるように成長していった。しかし、予期せぬことが起こる。16年9月に父が急逝。しかし、2カ月後には店は再開した。「店を閉めて就職することは一切考えませんでした。店に出ればお父さんをいつも思い出せるし、私が継げばお父さんが喜んでくれると思ったからです」と父への思いを語る。
自分が作るラーメンについて「一度も自分の味に満足したことはないです。毎日、試行錯誤を重ねながら改善する努力をしています」とすでに職人気質のコメント。「常連さんからは面と向かって、『お父さんの味には及ばない』と言われることもあります」と、直接的にモノをいう香港らしいエピソードだが、いくら香港育ちであれ、まだ若い美樹さんにとっては大きなプレッシャーだ。一方で「ある常連の子どもさんは家ではいつも食べ残しがあるのに私のラーメンだけは完食してくれるのです。そういう話を聞くと1週間くらいうれしさが続きますね」と笑う。料理人としての至福の時間だ。
2代目としての自覚も高く、ウエーターの接客態度がおかしいと感じたら、何が悪いか理由を説明しながら注意していた。
お父さんの味を忠実に守ろうとしている美樹さんだが、彼女独自の色も出始めている。ラーメンのスープに使う豚骨は使い終わればゴミとなるが、それを無料でペットオーナーに提供していることだ。「毎日15キロ位の使用済豚骨が出ます。捨てるのはもったいないと思ったのです。そこで友人にあげたら喜ばれて…。現在十数人がSNSに登録して、豚骨が欲しい日に来店してもらっています」
今後については「次は支店ではなく、丼物が好きなのでそちらをやりたいですね。自分で料理して友人などを招いて試食会を開きました。あとラーメンの配達はやるつもりはないです。どうしても麺が伸びて、スープが冷えてしまいます。やっぱり出来たてを食べてもらいたいから…」とラーメンにかける思いが伝わった。
【爵士拉麺(Jazz Ramen)】
所在地:Shop 6, 2A Luen Choeng Street, Fanling, New Territories, Hong Kong
電話:5178-9788
営業時間:11:30〜15:00、17:30〜21:00(月・火曜定休)