離島に住む有名犬スワンピー
風来坊の白き犬。1年のほとんどは薄汚れた灰色の体をし、まれに元来の毛色である白い体に戻る。日課としてお気に入りの場所、お友達のみを訪ねるというスワンピーは筆者の住む離島では有名犬だ。13歳くらいで、7割がた野良犬、残りの3割は飼い犬という不思議な生活。子犬のころ虐待された記憶が深く、数軒たらい回しにされた後、10年以上も面倒を見てくれているご家族の家にすら足を踏み入れない。台風の日も、どんなに寒い日もその家の外に突っ立っている。びしょ濡れになっても全く気にしない。家の外に雨よけのある寝床を作ってもらって、そこに定時になると戻ってくる。
最近、オスのスワンピーの腹が膨満しているのに気付いた。彼はヨレヨレと村を散歩している。私は末期ガンか何かの影響で腹水が溜まっているのかと思っていたが、半飼い主さんに「獣医に行った方がいいと思うが」と伝えると、「連れて行きたくても捕まえられるかどうか…。どうやって引きずっていくか分からない」という返事。そこで、私のドッグカートで連れて行こうと提案した。
その夜、計画を半飼い主さんたちと話し合っていると、その横でなにやら私たちの会話を聞いている薄汚れたスワンピー。「医者に行くのだよ、お願いだから協力してね」と半飼い主の奥さんは彼にお願いする。すると、翌朝7時ごろに大興奮した奥さんから「スワンピーが家に入った!」と電話があった。私は急いでカートを持って行き、息子さんがスワンピーを捕獲! 「昨日の私たちの話を聞いてくれたのね」と大喜びした奥さんは、うれしくて3回も汚い体を洗ったそう。
早速、動物病院へと向かう道中、私のカートは逃げようとしたスワンピーにベキベキに破られてしまった。獣医に診てもらうと、やはり末期の心臓病で、帰路の途中で亡くなっても不思議ではないと。薬を試すか、安楽死かと問われ、もちろん薬を試すことに。しかし野良犬は強い。あれから1カ月経ったが、スワンピーは少し小さくなったおなかで毎日の日課をこなしている。
さて、この半飼い主さんたちは、なぜスワンピーを獣医に診せないのかと、島の犬の飼い主フェースブックで悪口を書かれ炎上していたそう。政府職員を突然連れてきて犬を引き渡せという人もいたという。だが、半飼い主さんは、悪口をいうだけで誰も助けに来てくれた人はいない、誰もスワンピーと私たちの微妙な関係を分かってくれないと嘆く。人間は口が達者になる前に実行することが大切なのだ。命を守るとはそういうことであると思う。