食文化に表れる本性⑴ 典型的香港人はなぜいい加減なのか


ケリー・ラム(林沙文)
Kelly Lam)教師、警察官、商社マン、通訳などを経て、現在は弁護士、リポーター、小説家、俳優と多方面で活躍。上流社交界から裏の世界まで、その人脈は計り知れない。返還前にはフジテレビ系『香港ドラゴンニュース』のレギュラーを務め、著書『香港魂』(扶桑社)はベストセラーになるなど、日本の香港ファンの間でも有名な存在。吉本興業・fandangochina.comの香港代表およびfandangoテレビのキャスターを務めていた

 今回は食事の文化から典型的な香港人の考え方を解説します。食事には典型的な香港人の仕事に対する大問題や目に見えない根性が全て反映されます。日本で食事するなら、レストランマネジャー、シェフ、ウエーター、ウエートレスもみんな料理をテーブルに出す順番について結構、気を遣っていると思います。お客をあまり待たせないように持って来ることが多いでしょう。食べ物はやはり新鮮なうち、熱いうちに賞味するのがベストですから、お客が料理をひとつ食べ終わった直後に次の料理を出す必要があります。これは一生懸命に作った料理をお客さんにおいしく食べてもらおうというシェフの誠意の表れです。もしこのやり方に賛成するなら、そのレストランの経営者やスタッフは良いポリシーを持つ人間だと思います。

 普通はお客のほうも同じようにベストタイミングで食べたいと思うでしょう。しかし、そう考える香港人は実は多くありません。料理を出すタイミングに対して要求や期待を持たないお客はあまりレベルが高くないお客だと思いますが、香港はそんな人がほとんどです。この香港の食文化から香港社会の持つ大問題、典型的な香港人の問題が見えてきます。

めちゃくちゃな料理の順番

 まず香港では高級レストランだとしても料理を順番通りやタイミング良く出すというポリシーはあまりありません。大半の香港レストランにはそんな考え方はありません! お客が注文したものをいつも何も考えずにいっぺんに出そうとするのが香港スタイルです。香港スタイルにも当然「守るべき順番」がありますが、それは注文された順に料理を出すことではありません。まったく逆のことです!

 厨房ではお客さんが注文した料理を次々作ります。例外はほとんどありません。例えばお客がデザートを先に注文して後からメーンディッシュを注文したら、日本だったら気を利かせてデザートを最後にテーブルに持ってくるかもしれませんが、香港ではそんなことは考えもせず先に出します。ゆっくり料理を作って、頃合いを見計らって順番にお客に出すなんてことは当然しません。

 このやり方は典型的な香港文化のひとつですが、大きな問題があります。料理を急いで作って、全部をいっぺんにテーブルに出したら、早く食べないと料理がすぐに冷めてしまいますよね? でも、これこそレストランスタッフ全員の希望なのです。なるべくお客に早く食べさせて早くお勘定すれば早く次のお客に入店してもらえますから、レストランにとって万々歳、最良のことです。レストラン側はお客が急いでいるとか、料理をすぐに全部出さないとお客が文句を言うからなどの建て前を語るけれど、お店の回転を速くしてもっと稼ぎたいというのが本音です。

回転速く、儲け重視

 また、急いで料理を出すもうひとつの理由は「時間のロス」をしたくないから。レストランのスタッフはいつも忙しいから、お客のためにベストタイミングで料理を出すなんて時間のロスになり、忙しくなってしまい、その結果、人手不足になります。もっとスタッフを募集する必要が出たり、いろいろな問題が発生します。

 たまたま1回だけ料理を順番に出してほしいと要求するお客がいたならシェフたちはまだ我慢出来るけれど、もしもレストランのポリシーとして常に料理を順番に出すことにしたら、シェフやウエーターは怒るでしょうし、レストランにとって大変面倒なことです。だから香港ではかなり高級なレストランじゃないと料理がタイミング良く順番に出てくるなんて期待はできません。

 では私ケリー・ラムがコツをひとつお教えしましょう。どんなレストランに行っても料理が出てくる順番を守りたければ、最初から気を付けて注文しなければいけません。

 例えば4つの料理を注文したいときは、わざと先に2つだけ注文します。そして注文する時に、ウエーターに「順番に出してください」と丁寧に頼みます。さらに、ひとつの料理を食べ終わる直前に次の料理を注文すること。これで大体の問題は解決できると思います。しかしこんなやり方は自分自身が面倒くさくなるし、当然お店のスタッフにも迷惑がかかるということを覚えておいてください。

契約後はどうでもいい

 こうした食文化は表面的には食事に限られるように見えますが、実は商売や仕事においても同じことなのです。それが普段は目に見えない大問題なのです。

 料理をタイミング良く順番に出すというやり方はあくまで相手の気持ちを思いやり、相手が楽しむことを大事にするということです。このやり方、考え方を持っていれば、商売でも仕事でも相手を尊重できます。なるべくがんばってクォリティーが高い仕事ができるタイプです。一言で言えば、料理をお客のために順番に出せないような人間は仕事でも相手の要求に対していい加減に対応するところが絶対あります!

 典型的な香港人なら、レストランのスタッフと同じように、仕事を契約したらすぐにその仕事を完成・履行させなければいけません。早ければ早いほどよいのです。すぐ終わらせればすぐ次の仕事に移れますから。だから典型的な香港人と仕事・商売するなら、「相手が一番重視するのは仕事を取る直前、契約書を結ぶ直前だ」と覚えておきましょう。

 仕事が決まって契約書にサインしたら、それはお客がレストランで料理を注文したことと同じ。要するに、その後はどうでもいいと考えているのです。これこそ一番心配なことです。クォリティーは守らず、スピードだけで仕事を完成させて、契約履行の義務だけ果たしてお金を取るのは、典型的な香港人が一番得意なことです。仕事を始めた途端に次の仕事をすぐ考える。すぐ次、他の仕事をもらいたいと考えるのも典型的な香港人です。仕事のクォリティーの保証はありません。気を付けないと、典型的な香港人と商売するときに損をします。

「次もある」と思わせよう

 レストランでもし優良なサービスを受けたかったら、その方法は1つしかありません。レストランの常連になれば、問題は全部解決できます。しかし初めてレストランに入ってどうやって常連のような関係になれるのか? 香港の英国植民地の時代の有名な言葉がひとつあります。「BORROWED PLACE, BORROWED TIME.」。香港は借りた場所、借りてきた時間であるという意味です。なんでも一瞬、なんでも長生きできない。つまり長年にわたってレストランの常連になる必要はありません。レストラン、スタッフにこれからどんどん来店するという印象を与えられればそれで十分です。このお客がまたすぐに来る、将来また戻ってくるならば、レストランは定期的に稼ぎが得られますから歓迎されます。

 ではどうやって常連のような印象を与えるのか? スタッフたちに挨拶すればサービスに違いが出ます。胸のバッジの名前を呼ぶのも有効な方法です。日常生活でも1回だけの仕事の関係、契約関係は一番危ないです。これは食文化と同じ。高級店以外、自分の店の名誉、口コミの評判まで大事にする店はめったにありません。だから仕事でも、契約するなら必ず一生懸命に相手に印象を強く与えて、必ず今後2回目、3回目の仕事をあげるチャンスがあると思わせなくてはダメ。そこまでの印象を与えれば、今回の目の前の仕事もなるべく高いクォリティーで完成させてくれる可能性があります。これこそ香港で自分の立場を守る一番の方法なのです。

ケリーのこれも言いたい
 1回で終わる仕事だと、相手はもう二度と稼げるチャンスはないからと考えて、いい加減に対応します。一生懸命にうまく完成させようなんて、典型的な香港人に期待してはいけないことです。

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