長毛
男性受刑者への長髪差別で勝訴した過激な政治家、梁国雄氏。その生い立ちも含め人物像を追った。
今年1月、「長毛」の通称で知られる社会民主連線(社民連)の梁国雄・立法会議員が刑務所に収監される際に髪を切られたことについて、男性受刑者への性差別だと主張した裁判で勝訴した。だが7月下旬に行われる別の裁判で被告の梁氏が有罪となり収監が確定した場合、また髪を切られる可能性が出てきた。
キューバの革命家、チェ・ゲバラのTシャツにロングヘアーがトレードマーク。民主化デモでは黒い棺桶の張りぼてを担ぎ挑発的な態度を取るなど、過激な行動で過去にもたびたび警察に検挙されている。今回の「断髪裁判」は、2011年に梁氏がフォーラム会場に乱入する騒ぎを起こしたことに端を発する。この裁判で2014年に有罪が確定し、梁氏は4週間服役したが、その際、入所時に80センチあった髪を懲教署職員に切られたという。
原告である梁氏は、懲教署が男性受刑者にだけ短髪にすることを要求し、女性受刑者は長髪が許されるのは男性べっ視にあたり、香港市民の一律平等を認める香港基本法と男女平等を認める性差別条例に違反すると主張した。
一方、懲教署は衛生と規律という観点のほか、毛髪の中に用具や武器を隠したり、長い髪を使って自殺や他人を攻撃する恐れがあるため、保安上の理由から短髪にする。過去の統計から、こうした行為は女性よりも男性のほうに多く見られると説明。公判で裁判官は原告の主張を認め、懲教署が男性と女性に一律に散髪を要求すれば差別は生まれないと述べた。しかし散髪によって尊厳が失われたという原告の主張は退けた。
法廷は懲教署に規則の撤廃や見直しを求めたが、移行期間が必要との見解を示し、6月1日までに実施するよう命じた。これに対し律政司が上訴し、来年1月に再審理が行われるため、今年1月の勝訴判決の履行はそれまで凍結されることになっていた。
だが、梁氏は壱伝媒集団(ネクストメディア)の黎智英(ジミー・ライ)前会長からの献金をめぐり「公職者行為失当」の容疑で廉政公署(ICAC)に逮捕・起訴されており、7月の裁判で有罪となれば収監される可能性がある。その場合、現行の規律に則って男性受刑者の1人として短髪にされる見通しだ。
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2004年に立法会議員に初当選した梁氏は今年61歳。1956年に現在の広東省広州市増城区で生まれた。父親は呑んだくれで家は貧しく、母親はそんな夫に愛想をつかし、まだ幼なかった一人っ子の梁氏を連れて香港に渡る。生活のため、母親は欧米人の家で家政婦として働き、梁氏は香港の親せきの家に預けられた。
子供のころから社会の不平等を肌で感じ取っていた梁氏は、マルクスやトロツキーの書物を読み、社会主義思想に傾倒していく。母親は香港最大の親政府派労働者組織、香港工会連合会(工連会)のメンバーで、梁氏も幼いころから母親に連れられて集会に出席した。中学時代は毛沢東派の学生運動に参加し、中学校を卒業するとバーテンダー、建設労働者、九龍バスの洗車などをして生計を立てた。
1975年、若き梁氏は革命マルクス主義者同盟に参加。仲間から「雄ちゃん」と呼ばれた。同盟は当時、中国共産党の政治はマルクス主義の理想から逸脱していると反発。梁氏は1979年に「四五行動」の三周年記念と中国の民主化運動を支持し、挑発的な行動に出たことで警察に逮捕された。1カ月の服役を終えて出所した梁氏を同盟は歓迎会を催してねぎらい、ある幹部は「革命家が刑務所に入るのは学校に行くようなもの。今日、雄ちゃんは幼稚園を卒業した」と語ったという。
警察の逮捕を恐れず、繰り返し過激な行動に出る梁氏の思想の下地は、このときに築かれたものかもしれない。ゲバラを崇拝する理由についても、権力を握っても、自身の理想のために官僚の厚遇も居心地の良い家庭も捨て革命の戦場へ赴いたからだと語っている。
梁氏が現在属する政治グループは「非建制派/泛民」(民主派その他の勢力)の中でも過激派に位置づけられる。「非建制派/泛民」は民主党などの「伝統民主派」(主流民主派)、梁氏の属する社民連と人民力量からなる「激進派」(過激な民主派/急進民主派)、セントラル占拠行動の学生リーダーを含む「自決派/左膠」(2047年以降の香港の前途は自主決定すべきと訴える勢力/サヨク)、極端な香港人優先策を唱える「本土派」(排他主義勢力)、「城邦派」(主流本土派)、「港独派」(独立派)などが時に対立し、時に協調して各々の主義主張を訴えている。
6月28日、梁氏は自決派とともに湾仔の金紫荊広場に居座り、一部が像によじ登り中国本土の作家で民主活動家の劉暁波氏を応援する横断幕を掲げ、警察に拘留された。その2日後の7月1日、香港は返還20周年を迎え、式典には習近平・国家主席が出席した。
(この連載は月1回掲載します)