《特別企画》松田邦紀大使インタビュー


出会いの場・香港、実りある3年

 201510月の着任以来3年間、様々な分野で日本と香港・マカオとの関係促進にご尽力された松田邦紀・大使兼総領事がまもなく離任する。香港、マカオ、中国本土の経済動向や日中関係の見解とともに3年間を振り返って話を伺った。
(インタビュアー・楢橋里彩)

——香港・マカオの経済動向についておきかせください。

 一言でいえば2017年の好調な経済状況を持ち越し、好調な状態が続いています。香港は経済成長率3・8%、過去5年間で最も高い数字となりました。今年第1四半期は4・6%、第2四半期は3・5%の経済成長率を保っています。ひとえに外需および内需が安定していたことが挙げられます。またマカオに関しては2017年は9・1%の成長率で、4年ぶりにプラスに転じました。特に2017年はマカオへの訪問者数(観光客、カジノ客含む)は過去最高の3261万人です。中国本土における腐敗対策、汚職取り締まりの影響を受けてカジノ収入が2015年までは激減していましたが、今では一般のお客さんが中国本土から戻ってきています。その延長上で今年第1四半期は9・2%、第2四半期は6・0%の成長率となり、カジノ収入だけでなく、カジノ以外のファミリー層による消費が増えており、失業率は低下しています。

——2019年はいかがでしょうか。

 香港・マカオともに中国経済に依存しているなか、中国経済はかなりの部分が米中経済摩擦による影響を受けざるをえない状況です。今年下半期ですでに米中間で3度にわたって関税合戦が繰り広げられましたが、その影響が中国経済に表れ、それを受けて香港経済にも影響がでてくるのが第4四半期から来年にかけてと思いますので、注目する必要があります。特に香港に関しては、香港の貿易に占める再輸出、すなわち香港を通じて中国本土と世界を結ぶ貿易が98%を占めています。これは世界の貿易トレンドによる影響を受けざるをえないと思います。また中国経済に依存しているので、ネガティブな要因は香港の貿易、投資、不動産、観光、小売りなど幅広い分野に直接的な影響、あるいは間接的に心理的な影響を及ぼす可能性があります。

 香港、マカオ、広東省に通ずる粤港澳大湾区構想のインフラのひとつ「広深港高速鉄路」(広州—香港間高速鉄道香港区間)が9月に開通しました。これまで以上に香港と深‮&‬`、広州、そのほかの中国本土各地との間で人と物の流れにプラス要因を与えると思います。さらに2019年1月からは香港と東南アジア諸国連合(ASEAN)とのあいだで自由貿易協定(FTA)が発効されるので、香港とASEAN10カ国との間で貿易、投資、人の流れがより活発になることでしょう。

——今後の日中関係の動向について見解を教えてください。

 日中双方の努力によって、日中の関係は正常な軌道に戻ったと思います。昨年秋にベトナム・ダナンで行われた日中首脳会談、それを受けて今年行われた李克強・首相の訪日、今年10月に予定されている安倍晋三・総理の訪中、その後は習近平・国家主席の訪日とハイレベルの対話を通じていくなかで、正常な軌道に戻った日中関係をさらに強化していきます。具体的な成果を日中双方が努力してつくりあげていくこと。強い政治的な意志と日中双方の官民の協力が今後大いに期待されると思います。

——米中貿易摩擦をめぐって日本企業に対してはどのような対策を講じていますか?

 米国が日本やEU、メキシコ、カナダ、中国との間で行っている様々な経済的な協議という視点で見た場合は、いくつか政府がやらなければいけないことがありますし、民間主導で行われていることもあるかと思います。日米関係は双方の経済にとってプラスになるような新たな経済関係を構築していくために様々な協議が行われており、今後成果が上がることを期待しています。日本はTPP、日EU間の経済連携協定をはじめとして、多国間貿易体制を基本として世界全体の貿易・投資のさらなる自由化を推進していくことが方針ですので、国内においては新しい産業をつくっていく、イノベーションや科学技術分野の振興を行っていきます。

——「一帯一路」戦略に呼応した動きとして、日本企業の参入などを促しているのでしょうか。

 日本として世界全体をみた場合、必要なのは経済・社会分野でのインフラ整備における需要と供給のアンバランスに対する視点です。それが個別の国における経済発展を阻害したり、社会の安定を阻害しているので、こうしたアンバランスな部分を解消していく必要があります。日本としては一方で世界銀行やアジア開発銀行、他の国際機関と協力し、またもう一方で中国をはじめ関係国と協力して、今後ともギャップを埋める努力が必要となります。こうしたなか日本はインフラ整備自体に加えて、金融、保険、紛争解決分野でどのように協力できるかがポイントですね。日本企業が大いに活躍するチャンスがあると思います。

——11月1日には香港への進出、投資などについての国際シンポジウム「Think Global, Think Hong Kong」が東京で開催されますね。

 9年ぶりに行われる香港行政長官の正式訪日にあわせて大規模に開催されます。日本と香港との関係が今後5年、10年を見通して幅広い分野で今以上に密接な関係を築くための極めて重要な行事であり訪日だと思っています。香港は昨年まで13年連続で日本の農林水産加工物の最大輸出先であり、今年もこの記録を更新する見込みですが、今のままでいけば早晩頭打ちになっていくでしょう。こうしたなか関りをもつ日本の団体・企業と我々が協力して、さらに深堀するために未開拓市場を開拓しています。また年内には、香港、マカオ、珠海市をつなぐ「港珠澳大橋」が開通することで、これまで以上に市場が一体化していきます。これまではマカオ市場に十分に日本の食材を売ることができなかったのですが、今後はマカオにおいても日本の食品、農林水産物を売り込む可能性が広がります。

 一方で、新たな分野、今まで開拓できてなかった分野としては、インフラ整備、科学技術におけるイノベーションでの協力、介護や医療分野などがあります。特に介護医療問題は新しいモデルを模索しているなか、香港の企業とともに新しいタイプの介護サービス、医療サービスをつくることが考えられます。香港からさらに少子高齢化に向き合う中国本土でも展開していく可能性が高まります。


——今年3年目を迎える「秋祭り」ですが、初の試みのイベントもあるようですね。

 今年は香港と日本の関係者がゼロから一緒に協力してつくっていくということを軸において準備しております。初の試みとなるのが香港が誇るアミューズメント施設「海洋公園(オーシャンパーク)」で、サンリオキャラクターが一堂に集結し、10月1日から31日にサンリオが全面協力してハロウィンフェスティバルを行います。ほかにも11月には昨年と同様「蘭桂坊(ランカイフォン)ジャパンカーニバル」も開催します。

——11月中旬に離任されますが、振り返ってみて香港の生活はいかがですか。

 香港は、一言で言えば「出会いの場」でした。香港に来たおかげで多くの方と出会うことができました。音信不通だった人と香港で再会したこともあり嬉しかったですね。外交官としてアメリカに3回、ロシアに2回、イスラエルに1回滞在しましたが、人との出会い、再会が最も実りある感慨深い3年間になりました。香港に来たおかげで文句なしに私の人生は豊かになったと思います。

Share