ドナルド・トランプ米大統領は4月6日、習近平・国家主席との会談後の会見で「会談の成果はまったくなかったが、今回は中国と仲良くなれたのが最大の成果だ」とのニュアンスで発言した。当然、米中の貿易摩擦だけでなく、習主席の米国訪問中にシリアへのミサイル攻撃を断行したことは、中国に対する大きなメッセージであったと思われる。(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
北朝鮮は必ず日本を攻撃する?
トランプ大統領は米テレビ局のインタビューで、シリアへのミサイル攻撃命令を下したのは習主席との夕食会でデザートを食べていた時だったと明かしている。その時の習主席の反応は「10秒間固まった」そうである。中国の国家主席の訪米中にまさかのシリア爆撃はこれまでの常識を覆すものであった。オバマ前大統領の外交は口先介入だけで、まったく相手国に恐怖感を感じさせたり威厳を感じさせるものではなかったため、間違ったメッセージを世界中に伝え各地の紛争につながっていったのだ。
トランプ大統領の外交政策はいよいよ方向性をはっきりさせてきた。シリア爆撃後もトランプ氏は「北朝鮮問題で中国が率先して核開発を断念させるよう説得できないのであれば、米国は単独で行動する用意がある」と習主席に北朝鮮問題の解決を迫った。
習主席の訪米は用意周到だった。日本の安倍首相の訪米時と同じように「VIP待遇」を要求し、フロリダ州パームビーチの別荘での首脳会談が実現した。またトランプ氏は企業経営者らしくお土産を渡すことも忘れなかった。この会談の前後に「中国は為替操作国ではない」と発言して中国側を安心させているのである。もし訪米中にシリア攻撃を仕掛けるならば、中国にとって「為替操作国に認定される」方がましだったのではないだろうか? 為替は既に安定しているし米ドル安傾向で人民元安の不安は消えているのだから。
かなり厄介な北朝鮮
トランプ大統領は大幅に軍事予算を増加させているが、そこには選挙時の公約の「公共事業の拡大」が頭にあるのは間違いない。米国のインフラ整備と言っても国内で鉄道網を整備するには経済効果を精査する必要がある。州と州を結ぶ鉄道網は採算性が疑問視される。そして道路や政府系の建物も基本的には老朽化しているものを補修するのがベースであることから、経済効果は限定的であるか、むしろまったくないと言っても過言ではない。もしそうであるならば外に目を向けて「他国への攻撃」という外需拡大の方が経済効果は覿面である。
北朝鮮問題で米国は韓国と日本を味方に付ける事に成功した。というよりは中国のヒューマンエラーによる得点であると言っても過言ではない。一時、中国経済の拡大を取り込もうと、朴槿恵政権は中国に擦り寄った。対日政策でも歴史問題を掲げながら上手に連携をしていた。ところが北朝鮮のミサイル発射問題で中国は消極的な態度を取り、何度も擦り寄って来た韓国を足蹴にしてしまった。韓国は中国は頼りにならないとばかりに米国の要請する迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備に乗っかった。中国が嫌がっていたTHAADの配備に乗っかることで、韓国と中国の友好関係に亀裂がはいった。その後、韓国企業が中国で不買運動を起こされたり、当局から店じまいを強要された事は記憶に新しい。
米政府も「北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に直面する中、米軍は米国と韓国国民を守るためのシステムを考える責任がある」と中国に真っ向から反論した。中国は韓国が近づいてきた時に北朝鮮問題で、韓国の後ろ盾になって助けることが出来なかった。残念ながら中国にとっては外交における大きな失点であった。
在日米軍が標的
豪州沖に滞在していた米国の原子力空母カールビンソンが北朝鮮をけん制するために朝鮮海域を目指している。当面は北朝鮮にプレッシャーを与えながら睨みを利かせる事になるが、北朝鮮も大陸弾道ミサイルが完成次第、小型化を仕掛けてくるはずである。トランプ政権が強硬な姿勢を崩さなければ有事が発生する可能性も否定できない。米国は既に北朝鮮の金正恩・党委員長を狙い撃ちする「金正恩氏斬首作戦」を準備している。
米国は昨年までは対北朝鮮において「作戦計画5015」を用意してきた。北朝鮮の核・軍事施設など約700カ所をピンポイント爆撃し、同時に米海軍特殊部隊(ネービーシールズ)などが金氏を強襲・排除するものだ。だが斬首作戦は特殊部隊の単独作戦となる。国際テロ組織アルカーイダの最高指導者ウサマ・ビンラーディン殺害時と同じで特殊部隊が文字通り金氏の首を取りに行く。
しかし問題は北朝鮮が自暴自棄に走った時である。韓国政府系のシンクタンク、韓国国防研究院(KIDA)によると北朝鮮には化学・生物兵器が豊富に存在する。化学剤は25種類を保有すると推定されており、VXなどの神経剤だけで6種類、マスタードやルイサイトという、びらん剤6種類の保有が確認されている。生物兵器においても病原体は13種類以上の保有が推定されている。炭そ菌、ブルセラ菌、野兎病菌、ボツリヌス菌といった病原菌を保有しているようだ。それらが米国本土ではなく、韓国や日本を標的としているのだ。3月に行われた北朝鮮のミサイル実験では、4発の中距離弾道ミサイルが発射されている。この時の3発は秋田県の男鹿半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾しているが飛行距離から換算して「米海兵隊の岩国航空基地」を想定した実験であったと推測されている。
金氏の行動は誰にも想像がつかない。片やトランプ大統領も予測不可能という点では負けず劣らずだ。常識で物事を考えているととんでもない不測の事態になり兼ねない。米国軍が斬首作戦で北朝鮮を追い込んだ時は、北朝鮮は米国本土を狙うのではなく日本本土の米国軍基地を狙ってくるはずだ。トランプ・金氏の行動一つでいかようにも動いてしまうのが最も大きなリスクと言えよう。韓国も日本も大変な運命を背負ってしまったものだ。
トム:北朝鮮情勢はどんどん悪化しているのだろう? このまま放置していていいのか?
ジェリー:でも仕方がないんじゃない。戦後レジームからの脱却って言っていた安倍第一次政権が懐かしいわよね。安倍第二次政権では「戦後レジームの再確認」だからね。
トム:戦後レジームの再確認では困るよな。対米追随が当たり前になるってことだろ?
ジェリー:だってその方が安倍さんにとっては好都合なわけでしょ。東京五輪までは首相を続けたい訳だから、2020年まで大統領でいるトランプ氏に追随していればいいわけよ。
トム:しかし北朝鮮のミサイルも精度がだんだん増しているらしいぞ。94年に核実験が有った時に当時のクリントン米大統領が北朝鮮への先制攻撃を決めた事があったけど、本当は正しい判断だったのかもね。あれから20年余が経過して、まさか日本がこんな状況に追い込まれるとは。
ジェリー:北朝鮮だけでなく、中国と国境を接するイスラム諸国、ロシアと旧ソ連邦諸国、中東ではシリアとトルコの微妙な関係も無視出来ないよね。
トム:まったく同感だ!!
ジェリー:でも北朝鮮の金正恩・党委員長もトランプ大統領も相手に対して同じ事を言っているらしいわよ。お互いに「あのならず者を消せ」だって。
トム:「思考回路がバラバラ」ともお互いに言っていたよな。
ジェリー:心配ご無用! たった2人の異常な男性に過剰反応するんじゃないよ。地球上に男が「35億」もいるから。
トム:えっ? ブルゾンちえみじゃないんだから。
【斬首作戦】
米軍部が想定している対北朝鮮用の『斬首作戦』とは、米特殊部隊が金正恩氏の身柄を直接狙う作戦である。ただしその場合、狙われた金氏が錯乱状態に陥ったり、理性を失った場合に多くの不測の事態が予想される。韓国や日本の米軍基地への報復攻撃が心配されており、同時に一般庶民への被害の拡大が大いに懸念されている。現在の日本の迎撃システムでは、北朝鮮のミサイル発射に対して80%程度は撃ち落とす事が可能と言われているが、残念ながら100発発射されると20発程度は日本本土に着弾すると言われている。米軍は「限定空爆(司令系統を中心にピンポイントで攻撃)」という選択肢も残しているようだがいずれの作戦も金氏の逆鱗に触れることは間違いなく、功を焦るトランプ氏による攻撃で有事になれば日本や韓国が巻き込まれる可能性が高い。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URL: http://www.icg-advi sor.net/)
※このシリーズは月1回掲載します