香港の取締役の責任

香港の取締役の責任

 一般的には、取締役の責任は、定款、会社法や過去の判決などの様々な方面に由来されます。取締役の責任を果たさない場合は、民事、刑事、更には取締役の資格を取り消されてしまう可能性もあります。そう聞くと、取締役を務めている方は不安に思われるかもしれませんが、以下の原則を守ると、不安なしに堂々と行動できるでしょう。

原則1:行動の前提は会社の全体的な利益のために行う

 取締役は、会社のベスト利益の前提の下、誠実な行動を取る。会社の全体的な利益というのは現在および将来の株主のためである。この原則を守るために会社の諸株主に公平かどうかを常に心がけなくてはならない。

原則2:会社の全体的な利益および適当な目的を達成するために、権力を行使する

 ここで権力を行使するのは必ず「適切な目的」のためである。つまり、権力の行使は権限の目的以外に一切使わない。基本的には会社の全体的な利益のために使う。例えば、1名あるいは数名の取締役の利益のために会社をコントロールすると該当権力の行使は無効になるかもしれない。

原則3:与えられた権力は他人に移さず、独自に権力の行使を判断すること

 会社の定款や会社決議で認可されない限り、取締役が与えられた権力は他人に移すことができない。自分で権力を行使した時に他人に左右されるのではなく、自分の独自の判断で権力を行使するべきである。なお、専門家にアドバイスを求めるのはもちろん他人に左右されるには当たらない。ただし、判断するのは取締役となる。

原則4:慎重、かつ、スキルや努力を高め、取締役を務める責任がある

 今までケースローであった注意義務(duty of care)は新会社法(香港法律第622章)の第465条で正式に明文化された。この条件を満たすために以下のことが必要となる。
・該当会社の取締役の職務を履行するために合理的に予想できる一般的な知識、スキルと経験をそろえること
・該当取締役本人が、実際に一般常識、スキルと経験を持っていること

抽象的な話であるが、一流の学歴ではなく、基本的なことである。465条の基準を満たさない事例を挙げる。
・会社のビジネスすら不理解
・常に会社の管理をしていない
・書類(不正確、偽造書類)を確認せず平気でサインする
・最低限の会社の財務状況も把握していない

原則5:利害相反

 言うまでもなく取締役個人の利益が、会社の利益と相反するのは避けるべき。

原則6:利害関係がある取引をできる限り控える(ただし法律や定款で許される場合は例外)

 ある取引の中で取締役自身が重大な利害関係があった時には新会社法により、会社に利益の性質や利益の範囲の報告義務が発生し、会社の定款とルールにより、該当取締役は取引から外れされ、該当取引は会社の取締役会と取締役からの許可も必要となる。

原則7:取締役の職位で個人的利益を取らない義務

 直接的であれ、間接的であれ、取締役の地位により、個人のためあるいは他の人のために利益を取ってはいけない。

原則8:会社の資産・資料を承認された目的以外に使用しない

 会社の許可がない限り、会社の資産や資料を会社目的以外に使用したり、第3者に漏らすことは、当然、取締役責任違反となる。

原則9:取締役の地位で第3者から個人的利益を得ることの禁止

 会社の許可がない限り、あるいは、取締役としての正当な報酬を除き、取締役の地位で第3者から個人的利益を得るのは禁止である。

原則10:会社の定款、決議の規定、ルールを守る

原則11:会社の会計資料を適切にキープする

 取締役は会社の財務状況を十分理解し正確な資料をキープする義務がある。例えば、会社の債務過剰や返済不可能であることが分かっているにもかかわらず、新規に融資を受けた場合、清算時に、詐欺取引という責任は個人まで行く可能性がある。

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表

米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能。
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