注目される日本ワイン

注目される日本ワイン

 例年夏から秋にかけて開催される国際イベント「フードエキスポ」「レストラン&バー香港」「香港ワイン&ダインフェスティバル」などは商談会と同時に一般公開され試飲が楽しめるイベントとしても知られている。酒税が完全撤廃されて今年で10年。近年急増している中国本土のワイン消費量へのさらなる期待も高く、貿易・流通ハブの役割を担う香港は今後一層重要な位置づけになることだろう。こうしたなか、香港をはじめ、海外からの評価が高まっているのが「日本ワイン」だ。今回は、2016年より香港で日本ワインを専門に取り扱い、香港内のレストラン、ホテル等へ販売する「J-Vinifity Co., LTD」ディレクターの山田香織氏に、香港におけるワイン市場の動向、日本ワインの魅力と今後の可能性について伺った。

J-Vinifity Co., LTD
ディレクター
山田香織さん
1974年生まれ、愛知県出身。愛知淑徳大学4年生の秋に外資系航空会社に客室乗務員として入社(翌3月に大学卒業)。2007年に日本ソムリエ協会のシニアソムリエを取得し、その後英国Wine and Spirits Education Trust (WSET)のディプロマを2014年に取得。2016年より日本ワインを専門に取り扱うJ-Vinifityに籍を置き、2017年WSETのL3 Sakeの資格を取得。現在J-Vinifity Co., LTD ディレクターとして活動する傍ら、Institute of master of wineの生徒として2年目のプログラムに参加中。

 生産者、産地、品種の多様化が進み、2000年以降、日本国内のワイナリーの数はおよそ300軒にのぼる。なかでも特に急増しているのが、北海道と長野県だ。日本ワインの醸造には、日本独自の品種、甲州やマスカット・ベーリーA・シャルドネ、メルロなど、ヨーロッパ原産のぶどう品種も使われている。雨量が多く、多湿な日本の気候は、欧米とは異なる生育条件ではあるが、こうした風土をうまく活かし、独特の味わいに仕上がるのだ。今年1030日からは、日本のワインのラベル表示が一新し、日本産ぶどうを使い日本で醸造したワインを一括表示欄に「日本ワイン」と記載することが義務になる。こうしたラベル表示の改定は、日本食文化に根付き始めている日本ワインを地酒として世界に広めていく大きな役割を果たすことになるだろう。


インタビュー
J-Vinifity Co., LTD ディレクター山田香織さん

——香港のワイン市場の動向について聞かせてください。

 香港は場所柄、中国本土に近いこと、更にはアジア圏の中で関税や酒税がないことが大きくプラスに作用しています。そのため色々な種類のものが入ってきやすいことも有り、世界のワイン市場ではロンドン、ニューヨークに続いて香港は3番目の位置づけになります。オセアニア諸国からも近いことも有り、オセアニアのワインは特に日本に比べると豊富です。オークション市場も非常に活動的で、スーパープレミアムワインが集まってきます。これはワインだけではなく日本酒にも言えます。市場の流れはスピードが早く、都会でもあるから故新しいものを受け入れる許容範囲があります。

——国際的なワインイベントなども多く、とても身近なアルコールですね。

 香港では気軽にワイン生産者も招かれたワインペアリングディナーや試飲会が行われ、世界中から造り手が来港します。香港だと狭いからゆえ消費者が立地的に参加しやすいのはとても大きな魅力です。実際様々な産地の生産者からのお話や説明を聞ける事はとても貴重な機会だと思いますし、消費者にとって幅の広い選択肢があることは利点と思います。

——日本ワインが世界的に注目されていますが、どうみていますか。

 非常に嬉しいことです。ただ日本のワインはまだキチンとしたワイン法が定められていないため(今秋に法律制定予定)、特に外国人消費者にとっては分かりづらいことが問題です。試してもらわない限り良さは伝わりませんが、一過性で終わらないように業界にいる私達が正しい情報の提供や日本ワインの信頼を築いて行くことが大切と感じています。

——日本ワインの魅力について教えてください。

 良く言えば味が繊細、意地悪く言うならば薄いと言われがちですが、現在世界中で食事の傾向が軽めになってきていますので、これは日本ワインにとって追い風とも言えると思います。また日本の赤ワインは鉄分が少ないことも有り、他の産地であるならば組み合わせが難しい食材とも一緒においしくいただけます。例えば貝類は生臭さが出るためワインとの組み合わせが難しいと言われていますが、マテ貝や北寄貝などフルーティーな甲州に合いますし、メルローも魚料理と反発しません。海鮮食材のものが食べたいけれど、赤ワインが飲みたいときなどは非常に素晴らしい役割を果たしてくれていますね。

——なぜ世界的に注目されるまでに成長しているのでしょうか。

 新しいものを求めているソムリエたちの存在がありますね。今まで素晴らしいと言われていた産地が、気候変動によりこれからどうなるかが先行き不安な状態になってきていることが否めません。そこで新たな産地が注目され始めてきたことと、業界の中では日本ワイン=甲州というイメージがありますが、若い醸造家たちが国際主要品種に力を入れて品質が良くなったこと。情報化社会においての品質の良いものに関して情報が早く広がること等様々な要因が重なった結果だと思います。

——特に注力しているエリアなどがありましたら教えてください。

 今まで山梨がぶっちぎりで一番だったと思いますが、長野と北海道の追い上げに目を瞠るものがあります。両地域とも雨が少ないこと、気候が向いていることなどもあり、品質の向上が凄まじいです。小さなブティックワイナリーの数も多いですしね。ワインはその土地と風土を反映すると言われていますが、特に長野にはそのテロワールがワインにもよく出ており、長野のシャルドネはフレッシュな青りんごが特徴的ですね。

——日本ワインにおける課題、問題点についても教えてください。

 現在栽培している土地が狭いことからぶどうの収穫量が少ないので、人の手による作業がどうしても増え、生産コストがかかってきます。それ故最終的なワインの価格が高めになることが一番の課題ですね。土地が広くて収穫量が確保できたら、機械化をできるだけ進めることにより生産コストを押さえることもでき、生産量も増やすことができるので、多くの方々に広めることが可能です。最近、栽培地も増えてきていますので、長い目で少しずつコストダウンは可能ではないかと推測しています。

——様々なワインの資格を取得されているのですね。

 WSETはロンドンに本部を置く世界最大のワイン教育機関で、元々英国のワイン産業を支援するギルド、ワイン商組合Vintners Companyにより1969年に創設されました。現在では世界70カ国でWSETの教育組織が運営されており、国際的に認められている認定資格です。レベルは1から4まであり、私はそのレベル4のディプロマを2014年に取得しました。現在世界中でのディプロマの保持者は約8千人で、日本人は今は40人ほど。香港では私を含め日本人は2名です。

——英語での試験となるとハードルが高いですね。

 確かにソムリエの資格保持者に比べるとぐっと人数が減りますね。試験のスタイルが異なり、WSETはワインそのものに特化し、食事との組み合わせはあまり勉強しませんし、品質レベルの判断に最も重きをおいています。

——今後の目標を教えてください。

 日本ワインの情報発信をはじめ、日本ワインに特化したイベントを設けて、日本で高品質なワインを造っている事並びに日本ワインのブランディングを含めて販促していきたいですね。日本ワインだから日本食という組み合わせもありですが、もっと自由な発想で、中華料理との組み合わせ、点心との組み合わせなど香港ならではのアプローチのしかたがあると思います。

(このシリーズは月1回掲載します)

 


【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログ http://nararisa.blog.jp/

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