韓国台湾石油化学メーカーの投資戦略の変化

韓国台湾石油化学メーカーの投資戦略の変化

 SMBC経済トピックスでは、アジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは韓国台湾石油化学メーカー(以下、韓台石化メーカー)の投資戦略の変化です。韓国、台湾の石油化学産業では、輸出市場での勝ち残りを前提に90年代より大規模なプラントによる一貫生産体制が構築され、それぞれがアジアを代表する石化製品輸出拠点となっています。ここ数年は良好な汎用品の収益環境も寄与し、韓台の石化プレーヤーは高水準の利益を確保してきました。もっとも、中長期的には収益環境が変化する見通しであることから、近年では各社とも投資戦略を変更しつつあります。具体的には、汎用品分野では生産規模を維持しつつ、収益源を機能品にシフトさせるよう投資の配分を進めています。機能品の展開に際しては、主力ユーザーである自動車・電機業界のサプライヤーとのネットワーク構築などが必要となるため、足元では技術提携やM&Aを通じ事業拡大を図るケースも増えてきました。かかる動きは機能品分野で先行する日米欧石化メーカーにとってもビジネスチャンスとなる反面、中長期的には脅威ともなり得ることから、韓台石化メーカーの動向に注目が集まっています。 (三井住友銀行 企業調査部<香港駐在> 貫井 孟)

汎用品事業の拡大

 韓国と台湾の石油化学メーカーはいずれも、輸入するナフサを原料とし、日本などから技術を導入しつつ石化産業を発展させてきたほか、内需が然程大きくないため輸出市場での勝ち残りを前提に域内で大規模プラントによる一貫生産体制を構築した、という共通の特徴を有しています。また、近年では、事業規模拡大と生産部門の効率化を重視した人材・投資配分等によりコスト競争力を高めてきました。この結果、夫々アジアを代表する石化製品輸出拠点となったほか、アジア石化トップ10社に韓台メーカーが3社ずつ入るなど、アジア石化業界において強い存在感を示しています。また、近年では原油安などに伴う石化製品需要増に伴い、エチレンなど汎用的な石化製品を中心に多くの製品でマージンが拡大するなか、各社高水準の利益を確保しています(図表)

図表:韓台石化大手6社(注)合算営業利益

近年の投資動向

 足元好調を維持している韓台石化メーカーですが、主な輸出先であった中国や東南アジアなどにおいて自国産業育成に向けたナフサクラッカーなどの新増設が進みつつあるほか、北米における安価な原料を使うエタンクラッカーなどの立ち上げに伴いコスト競争力の相対的な低下が進むとの見通しを踏まえ、近年は投資戦略の方向性を変えつつあります。すなわち、多くのプレーヤーが、汎用品事業の規模は維持しつつも機能品事業に収益源がシフトできるよう、投資の配分を進めています。

 現状、韓台ともに機能品セクターの産業規模は小さく、収益貢献は限定的となっています。この背景には、自動車部品や電子部品などに利用する機能品のR&Dや生産技術では日米欧のメーカーに一日の長があるほか、韓台メーカーは機能品メーカーとしての知名度を構築していないケースがあります。また、主力ユーザーである自動車・電機業界のサプライヤーなどとのネットワーク構築が必要となるものの、日米欧と比較するとユーザーサイドの産業規模が小さく、機能品事業拡大に際してのネックとされています。

 ただし、最近では、台湾政府が環境規制を強化し汎用品の生産能力拡大および稼動を制限する一方、補助金支給等を通じた石化産業の高付加価値化へのサポートを打ち出しています。また、韓国でも政府が16年より石化業界で自主的な生産能力調整を促す一方、R&Dへのサポートなどを通じた機能品の競争力強化を図っています。

 かかる中、メーカー各社も技術提携やM&Aを通じた積極的な投資により機能品分野に参入する動きを強めてきました。一部のメーカーは既にブランド知名度や販売網を有する海外メーカーの協力を得て高付加価値品の生産計画策定や設備の新設を進めており、韓台内において今後の産業規模拡大に対する期待感が高まっています。

先行石化メーカーへの影響

 アジアでは自動車、電気製品など多様な製品市場の拡大が見込まれており、その材料である機能品の需要も堅調に増加する見通しです。韓台石化メーカーが同市場において積極的に投資・提携戦略を打ち出し、自社の戦略実現に向けたパートナーシップや技術協力ニーズを示していることは、日系や欧米石化メーカーにとっても、不足しつつある石化原料確保などを通じて機能品事業拡大を図る好機になり得るとみられます。一方、将来的には、機能品の輸出戦略を軸とする日米欧石化メーカーにとって直接の競合となる可能性もあります。

 韓台石化メーカーが機能品の事業領域においてどのような戦略を打ち出して行くのか、海外メーカーとの連携策も含め、今後の動向が注目されています。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

〈筆者紹介〉
貫井 孟(ぬくい はじめ)
三井住友銀行 企業調査部 香港駐在:
2010年より企業調査部(東京)で石油・ガス業界等を担当。2015年より香港に赴任し、現在は主に台湾・韓国・中国(華南地域及び香港)素材・消費財業界の調査や情報発信を手掛ける。

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