最近メディアを賑わせているのは米中間の貿易摩擦である。お互いに関税を掛け合い応戦する姿はとても友好国の間で行われている関係であるとは言えない。まるで子供の喧嘩、あるいはそれ以下である。ただ無視できないのは世界1、2位の経済規模を誇る両国による泥仕合が世界経済の減速をもたらす可能性も秘めていることである。(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
米中は「両者リングアウト」
もともと米国と中国の関係は冷え切っていたのかもしれない。米オバマ大統領時代の2016年の中国企業による対米投資額は460億ドル(米ドル、以下同じ)を記録していた。トランプ政権になってから17年には290億ドルに落ち込んだ。そして今年5月末までに、たったの18億ドルに落ち込んでいるのだ。
イスラエルと中国間のビジネスを仲介するイスラエルの重鎮であるアジアダイレクト社のガル・ディマントCEOは筆者に対して「中国経済の悪化が急速に進んでいる。今回の米中間の貿易戦争の激化は中国経済に決定的なダメージをもたらす」と語る。NY、北京、香港、イスラエルと年中飛び回っている同氏とは、定期的にイスラエルか香港でミーティングを繰り返す20年来の付き合いである。これまで中国経済に関して悲観的なコメントを聞いたことがなかった。しかし今回は違うという。中国企業による対米投資額の減少は、今年の春以降に激化した米中貿易戦争の前から既に起こっていた現象である。ディマント氏は「中国企業は資金が回っていない」という。
言われてみれば、そういう節がある。友人の企業家が上海郊外の工場を市政府に求められてベトナムに移転させることになった。立退料500万ドルが支払われるはずだが、これまでに支払われたのは200万ドル強のみ。市政府とは契約書を交わし、支払い期日も明記されているが、遅延している300万ドル弱の支払いは役人に尋ねても「もう少し待って欲しい」と言われて既に2年が経過している。
新興国からの人気低下
前述のように対米投資額がわずか2年で460億ドルから年換算43億ドル(5月まで18億ドル)まで10分の1以下に急減する状況は、国内で何かが起こっているとしか考えられない。鳴り物入りで発足した一帯一路構想もここにきて綻びが見え始めている。インド洋上に浮かぶモルディブは一帯一路に参加してプロジェクトを推進していくと、2021年における対外債務残高が対GDP比で51・2%に達すると国際通貨基金(IMF)は試算している。その80%が中国政府からの借款である。つまり将来的に返済しなくてはならない借金である。
もし一帯一路プロジェクトによる経済効果がない時はどうなるのか? 対外債務は残されたままで、プロジェクトによって建設された港湾や建物は中国政府が没収する可能性が高いと言われている。実際にミャンマーの発電所は中国政府による借款で賄われていたが、発電された電気がすべて中国本土に送電されていたためにミャンマー国民が激怒したことがあった。またインドネシアにおける高速鉄道も当初は中国主導で建設される予定であったが、どうやら採算が合わないことが明らかになり、インドネシア側が断念した経緯がある。
このようなプロジェクトの凍結や延期は、新興国からの信頼を徐々に損ねていっており、いわゆる「金の切れ目は縁の切れ目」に成り兼ねない状況にある。米国との貿易摩擦を尻目にこれまで借款で手なずけて味方だと思っていた他の新興国が中国の資金に対して懐疑的になっているのは間違いない。
返り血を浴びる米国
金融においては「大先輩」(英米アングロサクソン的資本主義)である米国はとにかく金融を利用して世界における自国のプレゼンスを死守してきたし、受益してきた。米国が利上げ局面になっても米国株が上昇を続け、中国株が年初から30%近くも下落しているところに米国の嫌らしさが垣間見える。利上げを行うことによってドル高を演出しながら、自国に資本を集める手法は長年にわたって行われた米国独自のファイナンスである。しかしファイナンスが米国に流れる分、割を食う国が出てくる。この半年間はそれが中国であった。人民元が米ドルに対して安くなり、国内の資本が海外に流出する懸念が広がった。
前述のディマント氏は言う。「このまま際限のない貿易戦争に突入すると中国にとっては非常に分が悪い」。つまり金融政策でボディーブローのように叩きながら、実態経済は貿易戦争でさらに追い込む政策である。そんな中、貿易という行為は相手国が存在してこそであるが、当の米国は無傷でいる事が出来るのであろうか? もちろんそんな事は不可能である。米国も当然、不利益を被る事になる。そのあたりは中国政府もかなりしたたかで、「少ない制裁で、効果絶大」を狙う。トランプ大統領が掲げる「アメリカファースト政策」はもろ刃の剣でもある。政策が奏功しているうちは支持率が高くなるが、そうでない場合は、期待が大きかった分、不支持率が高くなる。大統領選挙ではトランプ氏は米中西部の州で悉く勝利を収めてきた。特に農民票が大票田で、大豆、とうもろこしの輸出は中国が最大の市場である。米中間では関税導入と報復関税によって関税対象商品はすでに2000億ドルにまで拡大しているが、米国から中国への農産物の輸出は年間200億ドルを超える。これら農家への大打撃は避けられない。
アップルのティム・クックCEOが面白い事を言っている。「この貿易戦争に勝者はいない。どちらも負ける」そして「負けが分かりきっているのだから、米中両国は問題を解決できるはずだ」と。しかし両政権共にそれを回避できる材料は何一つ持ち合わせていないというのはなんとも皮肉である。この血まみれの勝負はプロレスでいう痛み分け、両者リングアウトの引き分けというのが妥当な見方なのかもしれない。
トム:日本のテレビを見ていると、パワハラ全盛時代はまだ続いているんだよな。昭和の悪しき習慣がまだ色々なところに残っているよな。女子レスリング、日大のアメフト問題、ボクシングの山根会長など例を挙げたらキリがない。
ジェリー:私達の時代で既にそういうパワハラは終わったと思ったのにね
トム:でも、ある中小企業のオーナーが「部下や従業員を飲み会に誘っても全然ついて来ない」って笑っていたよ。一緒に飲みに行ったとしても二次会など有り得ないそうだ。
ジェリー:やっぱり時代は変わっているのよ。
トム:わしらの時代に飲み会を断ったり、お先に失礼しますって受け答えは有り得なかったよな。まずは駆けつけ3杯で、コップに溢れんばかりに注がれた日本酒を3杯飲んでから、部下はやっと食事に入ることが出来た。
ジェリー:7月下旬、日本からドラゴンゲートプロレスの選手が香港興行で来ていたのだけど、ベテラン選手はさすがにお酒も強かった。でも若い選手はあまり飲んでなかったわ。飲酒を強要する先輩もいなかったし。
トム:昔は「スポ根」と呼ばれていて、特訓、トレーニングと言う名のもとに「しごき」が実践されていた。高校野球でも練習の途中に水分補給など考えられなかったよ。今ならすぐに熱中症になってしまうぞ。
ジェリー:パワハラを実践している人達もある意味、「仕返し」という意味もあったじゃないの。自分達が理不尽な仕打ちを受けていて、その怨念みたいなものね
トム:「怨念?」幽霊の話か? 幽霊の話なら半端ないぐらいいっぱいあるぞ。次回からはこのコラムは幽霊の話をしようか? これが本当の「ミステリーゾーン」だ、な?
【対外債務】
一つの国の外国に対する債務額(借金額)のこと。公的債務と民間債務に分けられるが、公的債務は他国やIMF(国際通貨基金)など国際機関からの債務であり、民間債務は外国の民間銀行や信託銀行、投資信託などからの債務で、これらの合計額が対外債務残高となる。通常、世界の基軸通貨である米ドル建てで借り入れが行われる為、自国通貨が対米ドルで下落するとドルベースで見た借金が増加する。最近の例ではトルコの通貨リラが急落。インフレ懸念があるにも関わらず利上げを躊躇したために、利上げを継続している米・トルコ間の金利差が拡大することで、リラ売り・ドル買いとなり、ドル建てベースで見たトルコの債務が膨らんだ。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URL: http://www.icg-advi sor.net/)
※このシリーズは月1回掲載します