啓徳空港跡地の歩き方

啓徳空港跡地の歩き方

 かつて香港を象徴する「空の玄関口」であった啓徳(カイタック)空港は1998年7月5日を最後に閉鎖され、それから今年でちょうど20年目になります。九龍東再開発プロジェクトの一部である啓徳空港跡地の再開発計画は、今まで香港ポストでも度々お伝えしていますが、住宅や病院、モノレールが作られる…クルーズターミナルもすでに完成している…と色んな話を聞くものの、実際はどうなっているのか…それがどうしても気になってしまう…そんな香港マニアな皆さんに、主要な跡地の「行き方」をご紹介します。
(構成・編集部)


啓徳空港跡地とは?
 一般的に、「啓徳空港」と言えば海に突き出た滑走路の部分を思い浮かべます。特徴的な地形なので、地図上でもすぐに見つけられます。ただし、空港跡地全域…現在再開発の対象となっている場所は、総面積320ヘクタール(東京ドーム68個分)となります。毎回思うのですが、「東京ドームの何倍」ってイマイチわかりづらいですよね。そこで、外苑を含む皇居の面積を調べてみると230ヘクタールでした。啓徳空港跡地の面積は皇居(外苑を含む)の約1.39倍に相当します。

この広大な土地に1000億香港ドル(約1.4兆円)を投入し、地域内人口12万人、地域内就業人口8万6千人の都市を作ろう…というのが旧啓徳空港跡地開発計画なのです。

そんな広大な「跡地」を歩き始める際、一体どこからスタートするべきなのか。現在アクセスできる「跡地」は大きく分けると2つあり、クルーズターミナル(元滑走路)とそれ以外ということになります。


 啓晴邨と徳朗邨

【啓晴邨】かつて、啓徳空港が使用されていた時代、高層建築は離着陸の妨げになるので空港の周囲では作れませんでしたが、現在はこのように高層建築が立ち並んでいます
啓晴邨周辺は、まだこのような工事現場ばかり。中をのぞくと「皇居の1.39倍」というのも納得の広大な土地が広がっています。ここに12万人分の住宅、病院、4万5千人収容可能なスタジアム、8万6千人が働く商業施設・公共施設が作られる予定で、香港で最もクリーン/グリーンなニュータウンとして生まれ変わるこの地域は、今後の大湾区の開発モデルにもなるといわれています

啓徳空港跡地とは一体どの範囲なのか…最も簡単に調べる方法としてグーグルマップで「香港 啓徳」を検索すると赤線で囲まれた地域が出てきます。

現在だと、ここで「航空写真」に切り替えると、赤線の内側の多くが黄土色に変わるはずです。この黄土色の地域が現在再開発事業で建設現場になっている場所です。

徳朗邨には、啓徳空港と九龍城周辺の歴史を伝える古い写真がたくさん展示され、ちょっとした「啓徳空港歴史記念館」となっています。啓晴邨と徳朗邨には、啓徳空港の過去と現在が凝縮されているのです
啓徳空港は「世界一着陸が難しい空港」といわれ、九龍仔公園の丘の上に上空のパイロットから目印になる「チェッカーボード」が設置され、これが有名でした。場所的には全く別なのですが、啓晴邨にもそれにちなんで「チェッカーボード」が描かれています
啓晴邨では、空港や飛行機にちなんだ遊具がたくさん設置されていました

ただし、この赤線で囲まれた北端に高層建築が並ぶ2つの区画があります。北側が「啓晴邨」、南側が「徳朗邨」、いずれも2013年に完成した公共住宅です。MTRで行くなら最寄り駅は観塘線の「鑚石山」か「彩虹」になります。

クルーズターミナルには、MTR九龍湾駅から86番のミニバスに乗れば簡単に行けます。ちなみにこの路線で採用されているのはトヨタ製19シートの新型車両。帰り道の時に利用しましたが(クルーズターミナルの1階にバス停がある)、車内は清潔でシートが立派、乗り心地も素敵でした。
徒歩でクルーズターミナルへ行く際は、MTR牛頭角駅から歩いた方が近いでしょう。大業街花園(公園)の近くに、ちょっと変わった形状の陸橋があります。正式名称は「横跨大業街的行人天橋」ですが、映画『志明與春嬌』の撮影地として有名になり、通称「志明橋」と呼ばれ、映画やドラマの撮影によく使われているそうです。地元の人に聞くと、近くに空港があったので旅客機をモチーフに作ったのではないか…とのこと。啓徳空港跡地へ徒歩で行くならぜひ見ておきたい「香港歴史遺産」の1つです
徒歩でクルーズターミナルに行く際のルートはネットで検索してください。工務中央試験所大楼の前で曲がって承豊道を進み、香港児童医院の前を通るとこんな光景が見えてきます。周囲は工事中で大型車両がよく通り、歩道は広くありません

クルーズターミナル

【啓徳クルーズターミナル】 面積:7万6千平方メートル/バース1:455メートル、バース2:395メートル/延べ床面積:18万4千平方メートル/うち5600平方メートル商業エリア/4階建て/2009年着工、2013年竣工、開港/総建築費:72億香港ドル(約1008億円)。地上に降りた宇宙船のような…巨大なオブジェみたいな建物で、間近に見ると非現実的な形と大きさに圧倒されます。それにしても何処かで見たような、HSBC本店や香港国際空港になんとなく似ているような、と思って調べてみると、どれも同じくフォスター&パートナーズの設計なのでした  https://www.fosterandpartners.com/

香港島側からクルーズターミナルを見かけることがありますが、あれってどうやって行けばいいんだろうか? そもそもちゃんと使われているの? という疑問がありましたが、クルーズターミナルのウェブサイトを見ると来航スケジュールの掲載があり、かなり頻繁にクルーズ船が来航しています。

香港児童医院を通り過ぎて道なりに角を曲がると突如視界が広がって「元滑走路」へ渡る橋があり、その先にはクルーズターミナルが! 海風が気持ち良く、ランニングをする人、ロードバイクを走らせる人、釣りをする人がチラホラといて(長年手付かずで人が来ないためか魚影が濃い)、香港の市街地とは思えない光景が見られておもしろいです。クルーズターミナルにはぜひ徒歩で行きましょう
旧滑走路の脇にある今は使われていない啓徳空港の消防署。この左手が小さな波止場になっていて、啓徳空港跡地には船で行き来することも可能(日・祝のみ運行)。興味のある方は富裕小輪のサイトhttps://www.fortuneferry.com.hk/ をご覧ください

九龍半島東側で海に突き出るように造られた「元滑走路」ですから、地理的に何かのついでに立ち寄るような場所でもなく、香港居住者でも行ったことのある人が少ないため印象が薄いのでしょうか。

かつての滑走路の離陸側の端っこ。かつてここからビクトリア湾をかすめて飛行機が飛び立ったわけですが、今はその横にクルーズターミナル…よく考えてみると、かつての「空の玄関口」は「海の玄関口」に生まれ変わったわけです
クルーズターミナルの屋上に上がってみると、大きな公園になっていました。花壇や噴水、池には魚が泳いでおり、海のそばで見晴らしも爽快で、ゆっくりくつろげる場所でした。どこに行っても人が多い香港にしては珍しく人影はまばら。静かにノンビリ過ごすには最適な場所です

クルーズターミナルにはMTR九龍湾駅からミニバスで行けるのですが、せっかくなので行きは歩いて行くことにしました。大体1時間ほどかかります。

クルーズターミナルのそばに本物の飛行機が…機体をよく見ると「B-HRS」と書かれています。こちらは「政府飛行服務隊」で使用されていた英国BAEシステムズのジェットストリーム41型機。レーダーと高空撮影機を搭載し、1999年から気象観測や測量、救援活動、密輸・密入境の偵察などにも使用され、総飛行時間が2万時間を越えたため2016年に退役。今年から啓徳空港跡地で展示されることになったようです
元・滑走路に降りてその端っこまで行ってみると、「1998-”Goodbye Kai Tak, and Thank you”」の文字が。啓徳空港は香港人に愛された空港だったのだなぁ…と改めて感慨を深くしたのでした
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