マカオ国際ドキュメンタリー映画祭
鬼才・原一男監督作も上映
第3回マカオ国際ドキュメンタリー映画祭(MIDFF)が7月14日から8月4日まで開催される。現代の混沌とした社会を反映しているのか、デジタル映像技術の急激な進歩と関係するのか、ドキュメンタリー映画の人気ぶりと注目度の高まりは目を見張るものがあり、近年ドキュメンタリー映画だけに焦点を絞った映画祭や上映特集が世界各地で開催されている。今回同映画祭で上映されるのは世界中から集められた優秀な作品約30作。その見どころを紹介する。
(文・綾部浩司/写真と資料提供および取材協力・疾走プロダクション、シネマテック・パッション<マカオ>、マカオ国際ドキュメンタリー映画祭)
日本にかかわる作品としては、2012年から5年間にわたりスティーブン・ノムラ・シブル監督が音楽家・坂本龍一の音楽制作と人生を追った『Ryuichi Sakamoto: CODA』(本紙4月27日号にあらすじ掲載)、ニュータウンの一角の平屋で暮らす建築家夫婦の生活を通して、日本人が諦めてしまった本当の豊かさを見つめなおす伏原健之監督の『人生フルーツ』(ナレーション担当は樹木希林)が上映される。
そして今回最も注目されるのは、ドキュメンタリーの鬼才、原一男監督(73歳)が制作したドキュメンタリー計5作の全てがこの映画祭で上映されることだ。当時映像にすることさえタブー視された障がい者を真正面からとらえたデビュー作『さようならCP』(1972年)、米国統治下の沖縄に暮らす原監督の元交際相手の生きざまを撮影した異色作『極私的エロス・恋歌1974』(1974年)、昭和天皇パチンコ狙撃事件など故奥崎謙三の名を世間に知らしめたあまりに有名な作品『ゆきゆきて、神軍』(1987年)、小説家「井上光晴」の晩年5年間を撮り続け、次第に彼の生い立ちや経歴の多くが詐称であることが明らかになっていく作品『全身小説家』(1994年)、そして大阪の泉南アスベスト工場の元労働者が国を相手取って訴訟する姿を8年間にわたって同行し、さまざまな人間模様が記録された20年以上ぶりの最新作『ニッポン国VS泉南石綿村』(2017年)など、決して原一男でなければ誰も取り上げないし作り得ない数々のドキュメンタリー作品の全てが体験できる。
今春に開催された香港国際映画祭でも原監督のドキュメンタリー特集が組まれ、デビュー作と最新作、そして『ゆきゆきて、神軍』の3作はいずれの作品も入場券完売につき映画祭期間中に追加上映が急遽決定。上映後やマスタークラスでは原監督と観客との間で活発なQ&Aが行われるなど、原監督の人気と注目の高さには目を見張るものがある。なおマカオ国際ドキュメンタリー映画祭でも7月15日の午後2時30分より原監督のマスタークラスが予定されているので、ぜひ注目されたい。
このほか、1927年に初公開、日本では翌1928年9月に上映されたという非常に貴重なサイレントムービー『ベルリン/大都会交響楽』も上映される。同作は戦前ドイツのアヴァンギャルド活動家と広く知られるヴァルター・ルットマン監督の実験的なドキュメンタリー無声映画だが、今回のマカオでの上映では台湾の音楽グループ「CICADA」が映像に合わせて生演奏を行う。まさしく時を経て同作品を通じて再び実験的な体験ができるという貴重な機会だ。
上映予定などは下記サイトにて確認のこと。
http://www.cinematheque-passion.mo/cn/Home