第56回 麻雀牌販売店経営

第56回
麻雀牌販売店経営

 ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人 たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。
( 取材と撮影・武田信晃/月1回掲載)

店主のリサさん。UNOやモノポリーなどのゲームも販売

きっかけは父が作った麻雀牌

 中華系文化の代表的なものの1つに麻雀がある。日本でも香港でも楽しむ人が減っているが、根強い愛好家がいるのも事実だ。こと香港に関して言えば、結婚式、旧正月、隣近所の人が集まって…など、日本以上に「打つ」機会が高いのは間違いない。今回は、香港で数少なくなってきた麻雀牌販売店「永華麻雀象牙(Wing Wah Mahjong & Ivory Wares )」を紹介する。

 経営者のリサさんは「この店を始めたのは1999年。元々、私の父が麻雀牌を作る職人で、今の店から徒歩圏内のところで製作し、卸と販売の両方を行っていたのです」とその経緯を語る。

リサさんの父親が麻雀牌を作るときに使っていた道具

 今の麻雀牌は合成樹脂やアクリルを使ったものがほとんどだが、昔は象牙製の牌が多かったこともあり、箸や彫刻などの象牙製品の販売もしていた。象牙の輸出入にはライセンスなどが必要だが、89年になると香港から輸出することができなくなった。つまり、販売は香港内に限られることになったのだ。店の収益は厳しくなりながらも父親は経営を続けたが、年齢を重ねるうち徐々にリタイア状態になっていったという。99年にリサさんが家を買ったとき、麻雀牌の在庫を家に置くようになった。「せっかく父が作ったのですから販売しようと思いました」と店を始めた理由を話す。「えっ、私が作る? それは無理ね(笑)。というのは、麻雀牌を彫るという作業は、実は結構な力仕事でもあるの」と言いながら、父親が使っていたという麻雀牌を作る道具を見せてくれた。独特の形が印象的だった。

こちらは高価な麻雀牌(5000ドル)

 父親は2008年に他界。「店に出るといつでも父がそばにいる感じはしますね」と感慨深げに語る。麻雀牌は、今はほとんどを中国本土から輸入して販売している。素材の違いをはじめ、日本のマージャンでは使われない花牌や動物牌(シンガポールやマレーシアなどで使用する)など、国によっても使う牌が異なるため、価格も数百ドルから最も高い象牙の麻雀牌だと3万ドルと価格帯が広い。また、漢字が読めない外国人のために「数字のルビ」をふった麻雀牌もある。

 客層は5060代が中心で、常連さんと外国人客が半々だという。「店のロケーションもあるのでしょうけれど、外国人観光客がお土産用に買いに来るんですよ」と笑う。ただ、日本人は少ないそうだ。近年は毎日営業するのではなく、事前に連絡をくれた常連さんが来店する時間に合わせて店を開けることが多くなったという。

各種象牙製品

 このコラムで何度となく書いてきたが後継者問題について聞いてみた。「21年に象牙の域内での取引が全面禁止となる予定です。その時に、店をたたむつもりです」との答え。仮に子供に継ぐ気があっても、象牙を取り巻く時代の流れから、香港ならではの店がもうすぐなくなることになる。

店の外観

永華麻雀象牙
Wing Wah Mahjong & Ivory Wares
所在地 : Stall 2, Aberdeen Street,
Side of 166 Queen’s Road, Central,
Hong Kong
Tel9035-5848
営業時間:1400 ~ 1800(不定休)

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