〈86〉香港市場での上場規則の改正

〈86〉
香港市場での上場規則の改正

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。今回は、香港における上場規制およびその改正について述べたいと思います。

香港株式市場における上場要件

 香港株式市場には、メインボードおよび新興株式市場のGEM(Growth Enterprise Market)の二つがあります。GEMはメインボードと比較すると要件が緩和されており、メインボード上場のための足掛かりとなる二次的な市場となっています。

 しかし、現行の制度では、上場時点で利益を生み出す段階に至っていない会社や種類株式発行会社等のガバナンス構造が通常と異なる会社および香港でのセカンダリー上場を目指す中国の会社は上場が認められておらず、香港上場を希望していたアリババが種類株式の制限のために、NY上場を果たしたことにより超大型IPOを逃してしまったことがありました。

 そこで、香港証券取引所は、2016年6月16日にThe New Board Concept Paperを発表し、その後2カ月間に渡り行った意見聴取に基づき、2017年1215日にThe New Board Concept Paper Conclusionsを発表しました。

 当初は新たな市場の創設が期待されておりましたが、現時点では、一連の上場規制の改正により、既存の市場の枠組みの中で、新興・革新分野の企業を適切な保護措置の対象とするための変化が加えられています。

主な改正点

 2018年2月23日、メインボード上場規則の改定案(Consultation Paper)を公表し、2018年3月末まで意見聴取が行われた結果、多くの関係者からの意見が寄せられました。

 2018年4月30日には、香港の上場規則を拡大する新しい規則(Consultation Conclusions)を発効し、Consultation Paperで述べられていた通り、従前の課題を解決するため、メインボードの規定に以下の3つの章を追加しました。

⒈財務基準のいずれも満たさないバイオテック企業の上場ルールの緩和

 現行の制度上では、成長を遂げているバイオテック企業等は財務要件が厳しいために上場が認められておらず、資金調達ニーズに応えられていないという問題がありました。今回の改正において、バイオテック企業は、企画段階を終えて、少なくとも1つのコア製品を開発していなければならない等のいくつかの要件を満たす必要があります。また、上場時の時価総額は15億香港ドルを下回ってはならないとされます。これは、企業とその経営陣が研究開発活動の成功を達成する能力を持っているという確信に基づいて投資家から資金調達が可能な企業に限定するためです。

⒉ 議決権種類株式(WVR: Weighted voting rights)を保有する企業の上場を容認

 香港証券取引所は、1株1票の原則が、株主および企業の双方に利益をもたらす最適な方法であると考えているにもかかわらず、WVR構造を認め、上場制度を拡大する提案を受け入れた背景には、良質で成長性の高い革新的な企業を香港に上場させることが狙いとしてあります。

⒊香港でのセカンダリー上場を希望するグローバル企業のための新たな上場ルートを確立

 米国および他の主要な適格取引所(NYSE、NASDAQ等)にプライマリー上場していることを要件として定めています。これは、香港の株主保護の観点からも必要であると考えられます。

まとめ

 今回の一連の上場規則改正を受けて、より多くのバイオテクノロジー、ヘルスケアテクノロジー、IT サービス等の新興企業の香港上場を実現し、香港証券市場における上場企業の多様化および活性化を促進すると共に、香港の投資家に対し多様な投資機会を提供することが考えられます。日系企業にとっても香港上場は中国本土への足掛かりその他の大きなチャンスとなる可能性があるため、最終的にどのような株式市場の枠組みとなるのかは香港証券取引所の動向を引き続き注視していく必要があります。疑問点がある場合には、実行にあたり事前に専門家に相談されることをおすすめします。

(このシリーズは月1回掲載します)


筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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