好調な経済成長、懸念は米国要因

好調な経済成長
懸念は米国要因

観光業の回復や低失業率、資産価格の上昇などを受けて個人消費は好調

特区政府は5月11日、2018年第1四半期の経済統計と通年見通しを発表した。同期の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比で4・7%となり、11年第2四半期以降の過去7年で最高。貿易や観光業の好調を受けて高い経済成長を達成したものの、米国の保護主義政策や利上げが不確定要素となっており、先行きは予断を許さない状況だ。(編集部・江藤和輝)

第1四半期GDPは4・7%増

GDP伸び率は17年第4四半期の同3・4%から拡大し、6期連続で過去10年の平均伸び率2・7%を上回った。前期比伸び率は2・2%で、前期の0・8%から拡大した。世界の投資・貿易が上向いたことで輸出は前年同期比5・2%増の伸びを見せたほか、観光業の回復、世界の金融市場の活性化などが追い風となった。良好な雇用・収入状況と資産効果で消費マインドが楽観的であるため個人消費は同8・6増と好調だ。

政府は今後の展望として、中国本土の経済が安定的な成長を維持するほか、米国経済も積極財政を受けて成長することによる恩恵を見込んでいる。ただし米国とその貿易パートナー(主に中国)との間の貿易摩擦、米国の利上げなど外部の不確定要素も増えており、その影響に対する留意が必要と指摘した。このため通年のGDP伸び率予測は2月に発表した3〜4%に据え置いた。

第1四半期の経済状況を受け、大手金融機関は相次ぎGDP伸び率予測を上方修正している。スタンダード・チャータード銀行は今年のGDP伸び率予測を先に発表した3・2%から3・8%に修正、来年についても3%から3・4%に引き上げた。またバンクオブアメリカ・メリルリンチは3・5%から4%に、JPモルガン・チェースは3・3%から4%にそれぞれ引き上げた。

米中貿易摩擦が取りざたされる中、特区政府商務及経済発展局の邱騰華・局長は4月4日に5大経済団体の責任者と会議を行い、香港への影響について具体的に討議した。邱局長は「米国が関税引き上げを発表した1333項目は本土から香港を経由して米国に再輸出される商品の22・1%を占め、再輸出総額は約610億ドルに上る」と説明。さらに多くの香港企業が本土での生産活動に投資していることを考慮すれば影響は深刻で、特にデータ処理、電子製品、電器、撮影機材や関連部品などにかかわるため、政府は香港系企業の生産ラインに影響しないか注視しているという。経済団体の責任者からは、本土で家電製品を生産する香港企業にとって米国は主要市場であることなどが指摘された。米中の貿易摩擦が悪化するならば特区政府が工業貿易署や香港按掲証券の中小企業融資スキームを通じて香港企業に対する支援を講じるよう要請した。

香港貿易発展局(HKTDC)は4月25日、インドネシアのジャカルタで「インドネシア—香港『一帯一路』商務貿易協力シンポジウム」を開催し、インドネシア投資協調委員会(BKPM)と経済貿易関係の強化に関する覚書に調印した。調印に立ち会った邱局長は「米国が保護主義政策を取る中で地域的な経済協力の重要性が高まってきた。香港は米中の貿易摩擦の中で沈黙の被害者にはならない」と述べたほか、「東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済貿易協力の強化は単に短期的な貿易摩擦への対応だけでなく、ASEANを『一帯一路』推進の橋頭堡とみなした長期的な戦略」と強調した。

国際通貨基金(IMF)は5月9日、アジア太平洋地域の経済展望リポートを発表し、香港のGDP伸び率予測を今年3・6%、来年3・2%に上方修正した。IMF駐香港分処の陳方楠・代表は記者会見で「中国経済の安定的な成長を受け、香港経済の見通しは明朗。だが今後、世界の金融環境が引き締められる傾向にあるため、香港の不動産市場には一定の圧力となる」と述べた。

不動産バブル崩壊は?

IMFは過去にも香港の不動産相場は高過ぎると度々警告していたが、最新リポートでは「昨年の香港の金融環境は緩和を維持したため資産価格の急騰をもたらした。住宅価格は16年3月から昨年末までに25%余り上昇したが、今後は世界の中央銀行が続々と引き締めを図るため、香港の住宅市場には一定の圧力がかかる」と指摘。「不動産バブルが崩壊する可能性があることを意味しているのか」との問いに対し陳代表は「今後の利上げによって家庭の債務負担が高まる可能性があるが、銀行のバランスシートは良好で緩衝の余地を与えられるため利上げによる香港経済への影響は大きくない」として住宅市場が危機に陥る可能性は低いとの見方を示した。

香港ドルと米ドルの金利差拡大による資金流出で香港ドル相場が対米ドル・ペッグ制の許容変動幅の下限(1米ドル=7・8500ドル)に触れたため、香港金融管理局(HKMA)は4月12〜19日に13回にわたって米ドル売り・香港ドル買いの市場介入を実施した。香港ドル買いは05年5月以来、13年ぶり。累計介入額は計513億3300万ドルに上った。08年の金融危機以降に1兆ドル以上の資金が香港に流入しているが、市場では資金流出が始まったとして1997年のアジア金融危機の再来も懸念されている。星展銀行(DBS)のエコノミストは、銀行間金利(HIBOR)が引き続き上昇し香港各行は今年3回利上げするとみる。現在おおむね5%となっている大手行のプライムレートは年末に5・75%にまで上昇すると予測している。

過去最高に達している不動産相場は香港経済にとって大きな懸念要因だ。不動産評価を行う特区政府差餉物業估価署が4月30日に発表した3月の住宅価格指数は368・4(速報値)で、修正値で見ると2年連続の上昇となり、過去最高を更新。前年同月比では14・69%上昇、2年間の累計では35・7%上昇した。米デモグラフィアが1月に発表した「世界住宅価格負担能力調査」によると、香港は世帯年収の中位数31万9000ドルに対し住宅価格の中位数が619万2000ドル。住宅を購入するには年収19・4年分を必要とし、前回調査の18・1年分から6%増。8年連続で世界首位となり、市民の住宅難に拍車がかかっている。

香港の代表的なデベロッパーである長和実業の李嘉誠・会長が5月10日の株主総会後に引退したが、記者会見で住宅問題に触れ「住宅相場は世界最高に近い。金があるならば住宅を買って自分で住むべきで、住宅を投機するのはよくない」と指摘。長和実業が住宅を安く販売することはできないのかと問われると、「安い住宅を売るだけなら株主は私をいらなくなる」と笑いまじりに答えた。香港の住宅問題の根本原因がこの言葉に表れているようだ。

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