《127》行き場がない動物を救いたい
最高に素敵な大工のイップさん
忙しい世の中、同情はするが共感という言葉が失われつつある現代。人は自分の生活を守るのに必死で弱いものへ手を差し伸べることを忘れている。しかし、イップ師傳は違う。「シーフー」とは職人さんという意味。料理人、コンピューター修理人などを例に挙げたが、特別なスキルを職業にしている人の総称だ。
イップさんはランタオ島に住みながら筆者の住む離島で大工さんとして働いている。島民からは彼の技術、そして人柄が大人気で、家の補修などをお願いしても何カ月待ちということも多い。しかし、イップさんが動物ボランティアであることは2人くらいしか知らない。もちろん彼はそんなことを自分から話す人ではない。私もイップさんと親しくなったのはここ数年だが、自宅の修理をお願いした時に、動物の話で盛り上がった。
我が家の多頭動物が玄関に「お前、誰だ!!!」と吠えながら集まってきても、イップさんはあわてず彼らを無視。全く怖がらない。彼が動物たちに自分の匂いを嗅がせる姿を見て、話題は動物の話に移った。なんと彼の家にも犬猫が多い時では20頭もいた時があるそう。毎日朝から晩まで仕事をして、家に帰ると野犬にご飯を与えるために山に入る。「前は娘が手伝ってくれたけど、最近は忙しくて俺一人だよ(とほほ)」と満面の笑みを浮かべるイップさん。誰かが助けてあげなければ犬たちには行き場がない、食べ物もない、だから少しでも助けになればと思い、ボランティア活動をするという。
ついこの前も、餌代がすごいことになっていると話してくれた。「いい餌を買っているんだよ、あんな小さな袋なのになんでこんなに高いんだ」と呟く彼は、今かかわっている建築現場に現れた2匹の子猫ちゃんに餌を与え続けていた。猫もイップさんがご飯をくれる優しい人間とわかり、最初は怯えていたが、なれると出てきてご飯をくれとニャーニャー騒ぐまでに。ある日、子猫がけがをしていると聞く。そして私の友人とイップさんで捕獲した。けがをしていない子は里親が見つかり、もう1匹はイップさんが引き取った。
先日、私の8歳の犬が病気で亡くなったことをイップさんに伝えたら、今何匹家にいるのか? と聞くので、私は8匹と答え、私もイップさんに聞き返した。彼の答えは猫8匹と犬1匹。「痴心!(狂っているの意味)」と彼に言うと、イップさんも大声で「君も狂っているよ、お互いさまだね、また明日ね!」と言いながら日焼けした素敵な笑顔を見せてくれた。