林鄭長官の施政報告、土地供給と経済多角化

林鄭長官の施政報告
土地供給と経済多角化

 林鄭月娥・行政長官は10月10日、就任後2回目となる2018年度施政報告(施政方針演説)を立法会で発表した。「堅定前行 燃点希望(前に進もう、希望の火をともせ)」と題し、住宅・土地供給、経済の多角化、人材育成、民生改善、住み良い街づくり、青少年問題などに関する政策を柱に240項目余りの新措置を打ち出した。特に住宅問題の解決、米中貿易摩擦に対応した経済発展の多角化に重点が置かれた。(編集部・江藤和輝)

施政報告の発表後に記者会見を行った林鄭月娥・行政長官

施政報告では特に土地不足の解消、住宅難の解決を第一に掲げ、今期政府はより多くの土地を公共住宅の建設用地に回し、戸数として70%を公共住宅に充てると提唱。「長期的住宅戦略」で示されていた公共住宅と民間開発の住宅の6対4となっている割合を見直すことも言及している。

さらに「明日のランタオビジョン」と銘打ち、港珠澳大橋によって粤港澳大湾区の他の地域とつながるランタオ島での土地供給拡大やインフラ建設、セントラルと九龍東に次ぐ第3の核心ビジネスエリアの建設などを展開。ランタオ島の東側に1700ヘクタールの人工島を建設する計画の検討も含まれている。2025年からの埋め立て開始を目指し、26万〜40万戸の住宅を供給、70万〜110万人が居住できるようにする。うち70%は公共住宅とし、早ければ32年から入居が可能。総建設費は5000億ドルに達する。また工業ビルを改装して過渡的な住宅を供給することも盛り込まれた。

労働・福祉では強制積立年金(MPF)オフセッティングの撤廃、法定産休を14週まで延長、医療・衛生では電子たばこなどの新型たばこの輸入・生産・販売・宣伝の禁止を立法化する提案が盛り込まれた。林鄭長官はMPFの積み立てを解雇手当や退職金に充てるオフセッティングの撤廃を宣言。解雇手当や退職金を支払う力がない中小・零細企業が政府の補助を受けられる期間を当初案の12年から25年に延長し、補助予算も172億ドルから293億ドルに拡大。林鄭長官はこれを最終案として譲歩しない姿勢を示した。

施政報告では、不安定な貿易環境への対応として経済発展の多角化によって外部要因による打撃を相殺する方針を示した。経済多角化の理念として第13次5カ年計画(2016〜20年)によって示された香港への支援や「一帯一路」と粤港澳大湾区が香港経済の発展にチャンスをもたらすことを挙げ、香港の特長を生かし国の必要に応じることを提唱。「一帯一路」建設に全面的に参画・協力し経済発展の新たな原動力を取り込むほか、「粤港澳大湾区建設督導委員会」を設置して粤港澳大湾区建設への参入を統括する。またイノベーション・科学技術の推進に注力するため、研究資助局研究基金に200億ドルを注入するほか、20億ドルを拠出して再工業化助成金スキームを提供、香港科技園公司に20億ドルを拠出して先進製造業の施設を建設する。物流業、保険業、映画産業を支援・推進する措置も打ち出した。

普通選挙より23条が優先

林鄭長官は施政報告の2章目で統治の改善に触れ「香港独立」の問題に言及した。林鄭長官は「中央と特区の関係」の部分で「香港社会で近年出現した複雑な状況と新たな問題に対し、私と特区政府は香港独立を鼓吹し、国家主権、安全と発展の利益に危害を及ぼすいかなる行為も容認しない」と述べ、各界に憲法と基本法と国家の安全に対する理解を広める意向を示した。

基本法23条に基づく立法について「特区政府は立法によって国家の安全を守る憲法責任がある」としながらも「時機をうかがいながら慎重に事を行うため、引き続き立法に有利な社会環境の創造に努める」と説明。ただし国家分裂の企てや国家の安全に危害を及ぼす行為を座視するわけではなく、保安局が先に社団条例に基づいて取った行動を挙げた。併せて基本法45条に基づく行政長官の普通選挙化にも触れ、現実的な観点から政治体制改革に再度着手すれば社会が発展に集中することが難しくなるとして慎重な姿勢を示した。

民主派はかねて普通選挙を実現してから23条の立法推進を提言しているが、林鄭長官は記者会見でこれを「論理的でない」と一蹴。23条は「自ら立法すべき」と書かれ、返還後すぐにやるべきことであるのに対し、45条は「最終的に普通選挙を実現する」としか書かれていないことを挙げた。23条に基づく立法は20年の立法会改選後に着手するとの見方もあるが、社団条例に基づく香港民族党の活動禁止の件でうかがえるように、現行の法律で独立派勢力を十分に封じ込められれば23条の立法を促す圧力も緩和されるとみられている。


施政報告の主な内容

①住宅・土地供給
・より多くの土地を公共住宅の建設用地に回し70%を充てる
・「長期的住宅戦略」で示されていた公共住宅と民間開発の住宅の割合を見直す
・ランタオ島の東側に1700ヘクタールの人工島を建設し70万〜110万人が居住する計画を検討
・工業ビルを改装して過渡的な住宅を供給

②経済の多角化
・より多くの二国間、多国間協定を締結し、香港の国際商業貿易センターとしての地位を強化
・「一帯一路」建設に全面的に参画・協力
・「粤港澳大湾区建設督導委員会」を設置して粤港澳大湾区建設への参入を統括
・研究資助局研究基金に200億ドルを注入
・20億ドルを拠出して再工業化助成金スキームを提供
・香港科技園公司に20億ドルを拠出して先進製造業の施設を建設
・海運・航空人材訓練基金に2億ドル注入
・仮想銀行ライセンスを年末または来年初めに発給
・映画発展基金に10億ドル注入

③住み良い街づくり
・認可業者が運営するバスに対するトンネル・道路通行料を免除し、運賃値上げ圧力を緩和
・今後5年に政府施設や公共オープンスペースに最低1500台分の駐車場を増設
・25億ドルでエレベーター改善助成金スキームを提供

④労働・福祉
・強制積立年金(MPF)オフセッティング撤廃の法律改正を今期政府の任期中に可決
・法定産休を14週まで延長。男性の法定産休を5日に延長することを速やかに実現
・高齢者向け生活保護を広東省と福建省に拡大し、香港市民が両省で老後を過ごすのを利便化

⑤医療・衛生
・電子たばこなどの新型たばこの輸入・生産・販売・宣伝を禁止
・葵青に初の地区医療センターを設置し、これをモデルに他の地区にも拡大して基礎医療サービスを強化

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