コンサート・レビュー
Beyond the Barricade
〜ビヨンド・ザ・バリケード〜
去る9月4〜9日、湾仔の香港演芸学院（HKAPA）で英国の「Beyond the Barricade（ビヨンド・ザ・バリケード、以下BTB）」の公演が行われた。ミュージカル盛り合わせ。そんな言い方では雰囲気が壊れそうだが、お得でおいしいコンサートだった。ミュージカルの世界2大拠点、ニューヨークのブロードウェイとロンドンのウエストエンドでロングランしたミュージカルの名曲メドレー。古典『West Side Story』『Jesus Christ Superstar』から、『The Phantom of the Opera（オペラ座の怪人）』、そして最新ヒット作『Hamilton』まで9作品。曲目も豪華だが、このBTBのすごみは４人のメンバー全員がウエストエンドの『レ・ミゼラブル』主演俳優であることだ。Andy ReissとDavid Fawcettはジャン・バルジャン、Katie Leemingはエポニーヌ、Lydia Griffithsはコゼット。ミュージカル界の頂点にいるアーティストである。それだけに、大がかりな装置や衣装がなくてもたった１曲の歌でそれぞれの物語に聴衆を引き込み感情をかき立てる。すでに観た作品はその思い出がよみがえり、まだ知らなければ新たな興味が湧く。誰もがまんまとミュージカルの虜になってしまいそうだ。
BTBの始まりは、英国マンチェスターの『レ・ミゼラブル』初演メンバーとして出会ったAndy ReissとDavid Fawcettが1996年にチャリティーコンサートを依頼されたことに始まる。やがて女性メンバー2人を加えた４人編成グループを結成し、大好評の世界ツアーを続けている。香港公演は2年ぶり２回目だ。
グループ名 の「beyond the barricade（バリケードの向こうに）」という言葉は『レ・ミゼラブル』の代表曲『Do You Hear the People Sing?（民衆の歌）』の歌詞にある。物語の中では1832年の六月暴動でフランス政府軍に立ち向かう民衆の歌であり、また香港では2014年にこの会場APAのすぐ近くの通りを占拠した若者たちが歌っていた。コンサートのラストはもちろん『Les Miserables（レ・ミゼラブル）』メドレーだったので、『民衆の歌』で思いきり盛り上げてくれないかと期待したが、そこはさらりとかわされた。
ミュージカル曲の間にモンティ・パイソンの歌が登場したのには笑ってしまった。『Always Look on the Bright Side of Life』。客席も一緒になって、口笛パートまでちゃんと入れながら歌っていた。そんなひねりのきいた英国風ユーモアが懐かしく、まるで英国植民地時代にタイムスリップしたような大人の客席だった。あの時代はよかった…と、思わずつぶやいてしまった。またあの英国の空気を運んで香港に来てほしい。
（文中敬称略／写真と取材協力・PRO Marketing Services Company／文・綾部智美）
