香港は『漂流教室』か?
香港独立がいよいよ本番へ
ケリー・ラム(林沙文)
(Kelly Lam)
教師、警察官、商社マン、通訳などを経て、現在は弁護士、リポーター、小説家、俳優と多方面で活躍。上流社交界から裏の世界まで、その人脈は計り知れない。返還前にはフジテレビ系『香港ドラゴンニュース』のレギュラーを務め、著書『香港魂』(扶桑社)はベストセラーになるなど、日本の香港ファンの間でも有名な存在。吉本興業・fandangochina.comの香港代表およびfandangoテレビのキャスターを務めていた
日本人読者の多くが、私の友人である楳図かずお先生の代表作『漂流教室』を読んだことがあると思います。この漫画の内容は子供たちが突然、大爆発に遇って学校ごと未来の世界に飛ばされてしまうというストーリーです。生徒たちはやがて争い始め、最後は殺し合いにまで発展します。この大作を通して人間の本性がすべて表現されていると私は感じました。もしも突然、国や政府、学校の存在がなくなったら、法律の束縛も突然になくなってしまったら、人間はやり放題になってしまうのです。
漂流教室はケリー・ラムのコラムとまったく関係ないじゃないか? と思うかもしれません。いいえ、非常に関係があります。最近ブームになったスローガン、活動と関係があるのです。私は今、香港に漂流教室のような時代がやってきたと思います。それは「香港独立」です。前回のこの連載では、陳浩天(アンディー・チャン)氏が「香港民族党(Hong Kong National Party)」を設立し、「香港共和国」の建国や香港基本法を廃止し独自の憲法をつくることを掲げていることについて書きました。陳氏が香港外国記者会(FCC)で香港独立に関する講演をしたとき、視聴率がすごく高く、メディアが全面的に取り上げました。また公共ラジオ局の香港電台(RTHK)で陳氏が、必要であれば独立のために武装蜂起する可能性があるという驚くべき発言をしました。
無政府状態と同じ
中央政府を代表する幹部やスポークスマン、学者、香港特区政府の首長もみな、基本法に違反する過激な言動を続ける陳氏を非難するけれど、陳氏はその後も毎日平気で活動しています。これは香港独立を応援・利用して反中国、反政府活動をする人たちにとってはすごくうれしいニュースです。陳氏が公然と香港独立を宣言してもOKならば、おれたちが勝手にしてもOKだよ! と喜んでいます。
香港は漂流教室と違って今は中央政府、香港特区政府が存在しているけれど、香港民族党を創り、反政府というメッセージをはっきり示した陳氏の行為に対して、両政府は何もできなかったです。香港には法律があっても、香港独立運動に対して何もできないのです。まるで漂流教室のように無政府、無法律の状態・状況になっています。例えば、セントラル占拠行動や旺角暴動のようなひどい行為を応援、提唱、扇動しても、現場で暴力行為をした証拠がなければ、誰でも罰せられません。国際ニュースで報じられるような反政府メンバーのヒーローになりたければ、香港独立運動に参加し、宣言すればいいのです。何の処分、処罰もないから。漂流教室の世界に警察がいないように、香港に警察がいても誰も逮捕できません。警察まで陳氏を保護する姿勢が見えます。陳氏が親政府派に襲撃される心配があるからです。
学生会のヒーロー
また、反中国、反政府派にとって良いタイミングがやって来ました。大学の新学期が9月に始まり、香港大学、香港中文大学、教育大学の学生会代表たちが大胆に香港独立についてコメントしたのです! 香港中文大学の学生会会長は「独立は香港の出口のひとつ」(選択肢のひとつという意味)と発言し、「香港独立研究学会」を発足しました。香港大学学生会の会長も「香港の未来は危ないから、我々は反乱する勇気を持つべきだ」と言ったそうです。香港大学、香港中文大学、理工大学、城市大学、教育大学、樹仁大学なども民主の壁(校内の掲示板)に「香港独立」「独立提唱は無罪」「学術・言論の自由を尊重」などのスローガン、ポスターを張ったりしています。教育大学の学生会代表は学校側がスローガンを外すことに激怒し、校長先生に公開質問しました。香港独立のような発言はどのように基本法に違反するのか? と聞いたそうです。
中国の歴史小説『水滸伝』には、宋朝と対抗・反乱する民間勢力の108人のヒーローがいます。現在それぞれの学生会の代表、会長がみんなで言論・学術の自由、民主、人権を盾にして、「香港独立」の言論を推しています。彼らの名前もまるで水滸伝のヒーローと同じように有名になってきました。これに対して、政府側は相変わらずの対応です。各大学は戦々恐々として「言論の自由は尊重するが、香港独立については不賛成、不支持だ」と回答。特区政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官も遺憾とコメントするだけ。中国国務院香港マカオ弁公室の代表は「ゼロ我慢」と発言しました。遺憾だ、ゼロ我慢だと言っているのに、「香港独立」の言論行為に対して制圧できる法律はないようです。こんな光景は世界ではおそらく前代未聞のことでしょう。「香港独立」というブームは完全に政府のせいだと思います。
基本法23条のなぞ
香港返還から20年来、特区政府は政府への反逆罪を罰する基本法23条の立法化を実現していません。林鄭長官は中央政府からすでにプレッシャーをかけられていますが、相変わらず立法は見送っています。ではなぜ立法しないのか? その法律をつくるとなぜ、香港人の気持ちを制限することになると言われているのか? これは最大の謎です。
香港独立もセントラル占拠行動と同じように、弁論すればするほど、合法か違法なのか曖昧になってくるのはもう時間の問題…ではありません。だって、もう時間です! すでにその時間がやってきました。過去20〜30年の間に、学生の中には中国に対してかなり厳しい勢力がすでにできあがっています。もしこのまま言論、学術の自由を建て前にして香港独立を提唱し続ければ、政治家、議員、学者、教授、メディアの大半が一心同体で香港独立を応援するなら、2046年に一国二制度が終わるよりもずっと前に実現できると思います。
お楽しみはこれから?
万が一、香港独立にかかわって刑務所に入ることになっても大問題にはならないでしょう。すぐ英雄になれます。刑務所はどうせそんなに怖くない場所です。すべての人権、民主は塀の中にもいっぱいあるから。セントラル占拠行動の前に、立法会の政府の公民広場に武力侵入した事件に参加した十数人の反中国、反政府派の議員ならびに弁護士が、有罪判決になっても人生はもっと素晴らしくなると言っていました。現在、怖いヤクザでも証拠があればすぐ逮捕できますが、彼らが暴民だろうと野次馬だろうと、人権、民主の名目を出せば、警察はすぐ戦々恐々として誰も手を出す勇気はありません。民主、人権はすでに法律の上にある力強い武器になりました。
今では学校、特に大学は警察にとって立ち入り禁止の場所になってきました。理由が十分にない限り、警察がもし大学の範囲に入ればすぐ学術・言論の自由を侵害する行為だと学生会に非難、批判されます。今後2046年までの30年間に、香港は必ず人権・民主の主張がもっと流行し、学術・言論の自由の名目で反中国、反政府派は香港や学校を戦場として政府と決戦することは間違いないでしょう。言うまでもなく米国は当然この決戦を応援して、結果的に成功しようと失敗しようと香港がメチャクチャになってもいいと考えると思います。香港が中国の最大の悩みになってもいい、もうひとつの台湾になっても、それは米国にとって好都合なことになるでしょう。要するに、中央政府の放任と、長年にわたる香港特区政府の優柔不断が「香港独立」という問題を生んだと言えます。
「星々之火、可以燎原」という中国のことわざがあります。ほんの少しの花火でも野原を焼き尽くすという意味です。これは完全に現在の香港の状況を表しています。香港独立の小さな火種が燃え広がり、めちゃくちゃになった香港で、今後どのように「香港独立」という大問題を解決できるのか? これは中央政府の知恵を試すことになります。中国の皮肉なことわざで言うなら「好戯還在後頭」。お楽しみはこれからだ、ということです。
ケリーのこれも言いたい
セントラル占拠行動を扇動した香港大学の副教授の戴先生は反政府活動をしても引き続き教鞭を取っています。基本法に違反し、あいまいな形で香港独立を支持し政府に真正面から挑戦しても、香港で「法律」を教えていられるなんて、皮肉な言い方をすれば『世にも奇妙な物語』のようです。