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ストックオプション課税
月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。今回は香港におけるストックオプション課税について概要を解説致します。
株式報酬取引とは
株式報酬取引とは、企業が自らの財・サービスの対価として取引の相手方に自社株(またはそのオプション)などを交付する取引をいいます。代表的な例として、企業が従業員に対して継続的な勤務の対価として、自社株購入の権利を与えるストックオプション取引があります。
株式報酬取引は、会計基準上はIFRS第2号および、企業会計基準第8号「ストックオプション等に関する会計基準」およびその適用指針第11号に定められており、財務諸表上は一定の要件に基づき認識することが求められています。香港の税法上は、IRD(香港内国歳入庁)の公表しているガイド等(https://www.ird.gov.hk/eng/pdf/pam47e.pdf)に従い認識することとなります。
香港における税務申告上の手続
IRDに提出しなければならない情報は、雇用主側はIR56シリーズ (IR56B雇用主支払給与明細書/56E雇用開始通知書/56F雇用終了通知書/56G出国通知書)の申請書類における記載事項となっています。また、従業員及び取締役はBIR60(個人所得税申告書)の4・1の部において、ストックオプションから得た利益を報告します。
⒈赴任時
香港に赴任した従業員および取締役に対し、香港到着前に条件を設定したストックオプションを付与された場合、雇用主は、各従業員および取締役のIR56Eの13番に記載すると共に、以下の事項を記載したリストを添付する必要があります。
ⅰオプションの対象となる株式の数および種類
ⅱオプションの付与について支払われた対価(該当ある場合)
ⅲオプションを行使するために必要な対価
ⅳ権利行使期間
⒉赴任中
雇用中に利益が実現した場合、IR56Bの第11⒥項において、雇用主は、雇用中の従業員および取締役によるストックオプションの行使または譲渡により実現した利益を報告する必要があります。
⒊帰任時
従業員または取締役が帰国する際、香港にて1カ月以上勤務した場合、雇用主は、その従業員または取締役がストックオプションの権利行使または譲渡により実現した利益を、IR56Gの第11項⒢に記載します。また、従業員または取締役が香港を離れる際に従業員または取締役がまだ権利行使していない場合、雇用者はIR56Gの19番に以下の情報を報告しなければなりません。
ⅰまだ行使されていない株式の数
ⅱ付与日
⒋.帰任後
従業員および取締役の退職後や帰任後に、彼らのストックオプションが権利行使され利益が発生した場合、雇用主は、IR56Bにて利益が実現した評価年度に報告する必要があることに注意が必要です。
まとめ
株式報酬制度は近年多くの企業で採用が拡大されてきていますが、会社により付与体系は多種多様となっており、財務・税務・労務面で複雑な理解が必要とされます。個別ケースについては早い段階で専門家に相談の上、税務当局へ直接問い合わせる等の対応が望まれます。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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