エレクトロニクスフェア
2018(春)レポート
今年で15回目となった香港貿易発展局(HKTDC)が主催する『エレクトロニクス・フェア』(春)と『インターナショナルICTエキスポ2018』は、4月13日から16日の4日間、香港コンベンション・アンド・エキシビション・センターで開催され、両展示会には世界各国から3546社・団体が出展、来場者数はのべ9万8000人に達した。今回はエレクトロニクス・フェアの出展者と「スタートアップゾーン」についてご紹介する。 (構成・編集部)
■深圳ブームと香港の関係
本紙では、今まで多くの展示会を紹介してきましたが、エレクトロニクス・フェアの取材においてまず感じたのは会場の雰囲気の違い…出展者と来場者の「タダならぬ熱気」を感じたことでした。
というのも、エレクトロニクス・フェアは「中国のシリコンバレー」「世界の工場」として注目を浴びる深圳に隣接する香港で開かれる大規模な国際展示会。出展者には深センを始めとする広東省の企業が多く、著名な大企業から、中小企業、スタートアップ企業が集まります。
最近は、日本でも深圳のハイテク企業の視察がブームとなっていますが、エレクトロニクス・フェアは、そうした「深圳系」のモノづくり企業の中から、国際市場を目指す出展者が集まるわけで、新しい商材や技術を探すビジネスマン、将来有望な企業を探す投資家や、パートナーを探す企業が集結します。ここで知り合って、すぐに深圳や広東省のオフィスや工場を訪問し具体的な商談へということも珍しくないそうで、ここはまさしく世界の電子産業の最前線…というわけで「タダならぬ熱気」を帯びているのでしょう。
そして、「深圳系」と言えば、ドローン、AI、VRなどの最先端の技術を盛り込んだイノベーティブな企業を思い浮かべますが、エレクトロニクス・フェアにはモチロンそういう企業も少なくないものの、会場を隅々見ていると、新たなビジネスチャンスを掴んでいるのは、必ずしもそうした企業だけではないというのが見えてきたのでした。
■なぜ今レコードプレーヤー?
会場を歩いていると、やたらとレコードプレーヤーを扱うブースが多く見られ、それらのブースに集まる客も多く、世界的にレコードプレーヤーの需要が復活しているのではないかと思うほどでしたが、それらの中で、どのブースに話を聞けば良いのやら…と迷っていると、民族衣装のような服を着た女子の集まるブースがありました。
せっかく香港の国際展示会に出展するのだから、みんなでおそろいの服を着よう…という話になり、中国人の伝統の服装である漢服になったそうです。近年、中国では漢服がブームになっていたので、いつかは着てみたいと思っていたのと、「レコードプレーヤー」という古い伝統のある製品を扱う企業としても相性がいいと社長が快諾してくれたそうです。
そして肝心の製品ですが、一見すると古めかしい形や色で、全くの「蓄音機」もありますが、よく見るとUSBメモリの接続口があり、MP3の再生が出来たり、CDの再生も出来たりする。もちろん、レコードの再生もちゃんとできて、ただの「懐古趣味」ではないのでした。
総経理の牛亜飛さんに話を伺うと、今のようなデジタル全盛の時代でも、全世界で、特に欧州や南米にはレコードが多く残っており、それらを再生するプレーヤーの需要があるそうで、日本にも輸出されているそうです。
■なぜ今DVDプレーヤーなのか?
最近、ノートPCやデスクトップPCでも、DVDプレーヤー非搭載のものが増えており、DVDというメディアも終わりなのかな? と思っていたら、ポータブルDVDプレーヤーをたくさん展示しているブースが…。しかも日本からの出展者。話を伺ってみると、DVDプレーヤーはすでにスローダウンしているマーケットで、大手の企業が扱わないカテゴリーとなっているため、現在も生産・販売しているのは「サードパーティー」と呼ばれる企業が中心で、ダイニチ電子さんは、そのうちの1社なのでした。
取材後に筆者の周囲でも聞いてみると、このタイプの製品は意外に普及しており、入院の際に病室へ持ち込んだり、車載テレビや、語学学習教材のDVDの再生などに使われており、DVDは「終わったメディア」というよりも、日本の隅々に普及したメディアとして根強く定着している…というのが真相のようです。
日本でDVDが深く浸透しているのは理解できるとして、エレクトロニクス・フェアに参加するということは、国際的にこの製品を販売するつもりがあるということ。その点を掘り下げて聞いてみたところ、今回の展示会でも欧州、オーストラリア、フィリピン、シンガポールの人から話しがあったそうです。
日本だと映像作品はすでにネット配信で見るのが当たり前になっているわけですが、発展途上国やネット環境が不十分な地域だと、まだDVDの需要が高い国や地域があるようです。
■炊飯器の再発明?!
「非煮不可/FitCooker」という家電も見つけました。単に炊飯器を2つくっつけただけの「アイデア商品」的な製品ですが、炊飯と調理、さらに保温が2つできるため、コンパクトで香港の住宅事情にも合っており、部屋が油まみれになることもないので、一人暮らしや、最近高まる「自炊志向」の人たちにもピッタリなわけです。
スーパーカーをモチーフにした富裕層向けデザインの炊飯器もあります。フタがフェラーリのバタフライドアのように斜めに開くのです。本体は空気抵抗に配慮したような曲面のデザインで(炊飯器が走ることはありませんが)、立食パーティーの際に使うチェーフィングディッシュ(金属製のフタ付きの保温容器…重くて開閉が面倒なアレです)のような使われ方をすることも。炊飯だけでなく、ヨーグルトやケーキなども作れて、欧州にもすでに数万台を輸出しているそうです。
「高級炊飯器」と言えば、日本の独壇場とばかり思い込んでいたのですが、日本の炊飯器は「ご飯をたくこと」に特化しすぎているのですね。FitCookerは炊飯器を「コンパクトで油を使わない多目的調理・保温器具」として見直し、デザインも改め、欧州市場に売り込んで成功したわけです。
■小スペースでも可能な水耕栽培器
最近は香港でも家庭菜園が流行していますが、耕せる土地がなく、ベランダもなく、広いスペースを確保できない香港や最近の中国の都市の住宅事情に合わせて、このようにLED照明付きの小さな水耕栽培器を開発した出展者がありました。中国ではこれの大きなものを店内に設置した火鍋屋さんがあります。店外からよく目立って美しい上に、新鮮なとれたて野菜をすぐ食べられるため、設置するレストランが増えているそうです。
先述の炊飯器やスピーカーもそうでしたが、注目される出展者の特徴として、特別スゴイ技術だけを売りにしているのではなく、香港や中国での流行や、住宅事情、生活スタイルの変化をよく理解した上で、的確に製品をアピールしています。日本も同様の住宅事情や生活スタイルの変化があったりしますので、そこに着目すれば、香港や中国で売れる商品が見つかるのかもしれません。
スタートアップゾーンとは?
『エレクトロニクス・フェア』では、「スタートアップゾーン」と呼ばれるスタートアップ企業だけを集めたスペースがあり、こちらは条件さえそろえば(詳しくは香港貿易発展局にお問い合わせください)1ブース800米ドルで借りられます。本来は香港のスタートアップ企業を支援する目的でしたが、今は香港以外の国や地域からでも参加可能となっており、今回集まった約100社の多くは深圳などの大陸系企業。その内、日本からは2社が参加しておりました。
エレファンテック株式会社の技術は、インクジェットプリンタで電子基板を印刷することでコストを大幅に削減し、必要なパーツの数も減らせたり軽量化もでき、基板を作る際に出てくる廃液も従来の10分の1ぐらいになるそうです。清水さんはこの技術を売りに来たのではなくて、この技術を用いた基板製作のお客を探しに来たのですが、欧米の企業とアジアの工場を橋渡しする会社が香港に多かったり、深圳やアジアの工場に発注する欧米や日本の企業にアプローチする際に、香港は便利なこともあり、香港で行われるエレクトロニクス・フェアに参加できるのは大きなメリットがあったようです。
合同会社エイサムテクノロジーでは、「オフィスのIoT」をテーマにした製品開発に取り組んでいますが、創業当初から世界を目指し、2016年の秋にエレクトロニクス・フェアを初視察。2017年の春からスタートアップゾーンに参加し、今回で3回目。参加費の800米ドルに加えて、ポスターやチラシを用意して2人分の往復の交通費や宿泊費を合わせても1回の参加費用は30万円程度。スタートアップゾーンは小さなブースではあるものの、香港の各界の協賛も得て、大きく注目されており、石尾さんはこの期間だけでも世界20カ国以上の来場者と知り合えて、現地のメディアやHKTDCからの取材なども受けることが出来たそうです。同社は秋のエレクトロニクスフェア(10月13〜16日)にも出展を予定。Bluetooth5版無線照明の新システムを展示するそうです。
HKTDCの取材動画は以下のURLからご覧ください。
【エイサムテクノロジー:香港を通じスマート照明を世界に】
https://youtu.be/hZLqVF7ub-A