鴨の血で作った赤い豆腐
35年以上前、私は日本の旅行会社の添乗員をしていました。2度目の海外添乗地が香港でした。ガイドさんと一緒に食事をした時に出てきたのが、酸辣湯(サンラータン)。白い豆腐とともに赤いのが中に入っていました。「なにこれ?」とガイドさんに聞くと、「香港にはね、白い豆腐と赤い豆腐があるんです」と言われ、「外国には知らんことがいっぱいあるなー」と思いつつ食べました。
赤い豆腐は、ゼリーを極限まで硬くしたような歯ごたえでした。食べ終えてからガイドさんが、「これは、鶏の血を固めたものです」と教えてくれました。一瞬ぞぞっとしたのですが、「添乗員はなんでも食べなあかんねん」と自分自身を鼓舞したのを覚えています。
「食在香港」を経験し続けてきた今では、「豬紅(じゅーほん=豚の血を固めたもの)」や、「鶏紅(がいほん=鶏の血を固めたもの)」は、ゲテモノ食いではなく、中医学の考え方、『以営補営』に基づいたもので、「血が足らない人は、血を食べるのが良い」と知った上でおいしくいただいています。「えーーー。気持ち悪い」と思う方もいるでしょう。でもね、きちんと作ったものなら、生ぐさい味はしないのです。
そして、今回ご紹介するのが、香港で大ブームになっている「嫩鴨血(りゅんあっぷひゅっ=鴨の血を固めたもの)」。5ミリ幅に切りそろえられたものが豆腐パックに入っています。まさに赤い豆腐。
鴨血の効果効能は、「血を養い、血を補う。解毒作用がある。精神を安定させ、体の余分な脂を体外に排出する。胃を養う」と、中国の漢方大辞典『本草綱目』にも記されています。
これを美容的に説明すると、「お肌の血色が良くなり、ニキビ吹き出物知らずのつるつる美肌に近づき、お腹の調子が良くなるのでスッキリし、ダイエットにつながるだけでなく、幸せな気持ちになる」です。
そして、食べ方ですが、初心者は、火鍋、できれば辛いのに入れる、もしくは、酸辣湯の具にする。おでんを作る時に大根と同じくらいの時に入れたら、味が染み込んでめちゃウマ! になります。今回は九龍城の台湾食材店「皇上皇」で購入しましたが、街市(公設マーケット)の豆腐店や肉店などでも見掛けます。
(このコーナーは月1回掲載)
筆者・楊さちこ
1961年大阪生まれ(国籍:日本)
南京中医薬大学・中医美容学教授・中医学博士
日本と香港・中国のアジアンコスメブームに火をつけた第一人者。大学では「高木祐子奨学金基金」を設立し、中医学の社会的地位の向上に尽力。「いつまでも美しく」 をモットーに美に関する商品開発をはじめとするトータルプロデュースを手がけている。著書は『綺麗はひとは、やめている。』(幻冬社文庫)、『昨日よりも綺麗になる魔法の習慣』(光文社知恵の森文庫)、『香港美人が教えてくれた美しさが永遠に続く6つの法則』(光文社)、『72時間で自分を変える旅 香港』(幻冬社)のほか、『世界一の養生ごはん』(小学館)、香港・台湾の書店で買える『世界一流的港式家傳雞湯』(積木文化)など。いろんな角度からの香港を伝えるブログ『香港のしきたり』もどうぞ。