独立派取り締まり、香港民族党を活動禁止へ

香港民族党を活動禁止へ
独立派取り締まり

特区政府保安局の李家超・局長は7月17日、「香港独立」を主張する香港民族党を活動禁止にすることを検討していると発表した。独立派勢力の撲滅に向けて政府が法的措置を取る中、香港外国記者会は民族党の陳浩天・召集人を招いた講演会を行い物議を醸した。(編集部・江藤和輝)

香港民族党の活動禁止検討に抗議するデモ行進(写真:瀬崎真知子)

言論の自由を絡めた抗議も

民族党は2016年3月28日に創設され、行動綱領として「香港共和国」の建国や香港基本法を廃止し独自の憲法をつくることを表明。議会抗争、街頭抗争、ストライキ、武力行使など、あらゆる抗争手段に訴える構えを見せている。

香港警察の社団事務主任補佐は先ごろ社団条例第8条(1a)に基づき国家安全または公共安全、公共秩序を維持する必要性から民族党の活動禁止命令を下すよう李局長に提案。非合法社団と認められれば幹事は最高で罰金10万ドルおよび禁固3年の刑となる。民族党には21日以内に書面での釈明が認められ、保安局局長が最終的に決定を下すが、この権力が行使されれば返還後初めてとなる。李局長は記者会見で「非合法社団への加入や集会への参加、資金援助はすべて犯罪となる」と付け加えた。

民族党の陳氏は7月18日、香港警察から受け取った約800ページに及ぶ資料をフェースブックで公開した。主に民族党が設立された16年3月から18年5月までに行われた記者会見、フォーラム、放送局の番組、街頭活動、日本や台湾での活動など少なくとも51件の活動詳細を記録。陳氏も自身の言論の大部分が一字一句記されていると認めた。国家安全への危害に関することとしては、設立記者会見で発表した綱領に「香港共和国」の建国や基本法の撤廃、武力使用などが含まれていることや、香港電台(RTHK)の番組で外交ルートで独立を達成することや最終手段として武装革命に言及したことなど20件余りを引用している。

社会民主連線(社民連)、工党、香港衆志などのメンバー約50人は18日、これを集会・結社の自由に対する弾圧として警察本部前で抗議活動を行ったほか、英国外務省が批判的な声明を発表した。

民族党を擁護する60余りの民間団体は19日に記者会見を行い、政府による結社の自由弾圧を譴責し、保安局局長の職権乱用と非難する共同声明を発表。政党では新民主同盟、社民連、人民力量が署名し、会見には新民主同盟の范国威・議員、香港本土の毛孟静・議員、人民力量の陳志全・議員が出席した。また公民党の梁家傑・主席は今回の件を「まさに言論で罪を問われる」と批判したが、行政会議メンバーの湯家氏はSNSで「一部政治家は何でも言論の自由と結びつける。社団条例はグループの行為に対するもので、個人の言行に対するものではない」と説明した。

民主派団体の民間人権陣線は21日、抗議のためのデモ行進を開催。デモ隊は「23条が近い、香港人は目覚めなければ!」とのスローガンを掲げ警察本部まで行進。主催者発表で約1200人、警察の推計ではピーク時に600人が参加した。民主党、公民党、工党、社民連、香港衆志、人民力量などが参加したが、非親政府派の立法会議員はわずか6人だった。「香港独立」を主張する学生組織「学生動源」「学生独立連盟」も参加していたが、当の陳氏は参加しなかった。一方、保衛香港運動は湾仔で香港民族党の活動禁止を支持する集会を行った。全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は今回の動きについて「香港独立組織に対する抑止力になる。彼らに法的な結果を理解させることで、長期的には香港独立を推進する団体はいなくなる」との見方を示した。

英国や日本で擁護の声

保安局は民族党に21日以内に書面での釈明を認め、期限は8月7日となっていた。陳氏は7月25日に弁護士を通じて保安局に書簡を送り、釈明の期限を10月2日まで延期することを要求。さらに7月28日には保安局と警察に5項目の追加要求を提示。陳氏に対する現在までの監視記録をすべて提出することなどが含まれていた。保安局は31日、検討を経て釈明可能期間を49日に延長することを決定し、9月4日までの釈明を認めるとの声明を発表した。香港法学交流基金会の馬恩国・主席は「適切な時間を与えなければ今後の法律プロセスの中で活動禁止に反対する論点に利用されてしまう」と指摘し、十分な時間を与えることで民族党が「手続きが不当」などと訴えるのを阻止する狙いがあるとみている。

香港外国記者会は8月14日の昼食会に陳氏を招いて講演会を行ったが、事前に外交部駐港特派員公署が再検討を要請するなどで注目を集めた。外国記者会は6日、講演会について「イベント開催は組織が講演者の観点に賛同または反対していることを表してはいない」として予定通り開催する意向を示した。AFPは同日、パッテン元総督が「本来、香港が自身で決定することに外交部が介入するのは間違いだ」と批判したことを報じたほか、陳氏が海外の反中勢力とともに設立した「自由インド太平洋連盟」の準備委員会日本代表である石井英俊氏はSNSで「できるだけ日本から声を上げる」と書き込むなど、海外で擁護の動きがある。

講演会の開催後、特区政府は声明を発表し「香港外国記者会が『香港独立』を鼓吹する講演者を招いて講演会を開催したことに遺憾を表明する。いかなる人も公に『香港独立』を宣揚・鼓吹することは不適切。同様にいかなる機関もこれら言論を散布する講演者にプラットホームを提供することは不適切」と述べたほか「特区政府は報道の自由と言論の自由を重視している。ただしこれら自由は絶対ではなく、法に基づいて行使しなければならない」と指摘した。

9日付『大公報』によると講演会は香港本土の毛孟静氏が提案したものだという。毛氏の夫であるフィリップ・バウリング氏は1985年と93年の2回にわたり外国記者会の主席を務めており、退任後も影響力を持ち、6月に行われた外国記者会財政委員会の会議にも出席した。バウリング氏は植民地時代の4代目総督であるジョン・バウリングの遠戚にあたる。バウリング氏は91年に毛氏に政治活動を奨励し、2012年の立法会議員選挙では毛氏に50万ドルを献金している。公民党創設メンバーだった毛氏は13年に「香港人優先」を主張する香港本土を設立し、16年に公民党を離党し自決派などと行動をともにしている。

「香港独立」は市民への支持が広がりにくいため、一部勢力は言論の自由の問題を絡めることで関心を喚起しようとしている。だが民族党を擁護する抗議活動や署名運動に主流民主派は積極的に関与しておらず、独立派勢力と一線を画す姿勢も見受けられる。

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