▶129◀ 日本と中国の会計基準の相似点・相違点②


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日本と中国の会計基準の
相似点・相違点②

 日本と中国の会計基準の相似点、相違点を比較解説するシリーズ2回目の今回の論点は減損会計です。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをあらかじめお断り致します。
NAC名南広州会計事務所 堀西健夫)


 最初に日本の基準をもとに、固定資産の減損の基本的な考え方から論じたいと思います。事業用の固定資産は通常、市場平均を超える成果を期待して事業に投入されるため、市場の平均的な期待で決まる時価が変動しても、企業にとっての投資の価値がそれに応じて変動するわけではなく、また、投資自体も、投資の成果であるキャッシュ・フローが得られるまでは実現したものではありません。そのため、事業用の固定資産は取得原価から減価償却等を控除した金額で評価され、損益計算においては、そのような資産評価に基づく実現利益が計上されています。

 しかし、事業用の固定資産であっても、その収益性が当初の予想よりも低下し、資産の回収可能性を帳簿価額に反映させなければならない場合があります。そのような場合の固定資産の減損処理は、棚卸資産の評価減、固定資産の物理的な滅失による臨時損失や臨時償却などと同様に、事業用資産の過大な帳簿価額(資産の過大計上)を減額し、将来に損失を繰延(損失の先送り)ないために行われる会計処理とされています。そして、減損処理は、金融商品に適用されている時価評価とは異なり、資産価値の変動によって利益を測定することや、決算日における資産価値を貸借対照表に表示することを目的とするものではなく、取得原価基準の下で行われる帳簿価額の臨時的な減額であり、ここに減損処理の大きな特徴があります。(『固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書』、以下『意見書』)

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 次に、減損処理の具体的な手順は、

⒈資産のグルーピング
⒉減損の兆候の把握
⒊減損損失の認識の判定
⒋減損損失の測定

 という流れで実施されます。資産のグルーピングとは、複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合に、減損損失を認識するかどうかの判定および減損損失の測定に際して、合理的な範囲で資産をまとめることを言います。毎期実施するのではなく、事業開始時・再編時に実施します。そしてこのあと資産グループごとに、減損の兆候を把握しますが、兆候として考えられるのは、

① 資産または資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること

② 資産または資産グループが使用されている範囲又は方法について、回収可能価額を著しく低下させる変化が生じた、あるいは、生じる見込みであること

③ 資産または資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること

④ 資産または資産グループの市場価額が著しく下落したこと

 とされており①の「継続してマイナス」とはおおむね過去2期がマイナスである場合を指し、②の「回収可能価額を著しく低下させる変化」とは、社内環境の収益性の低下につながる事象とされ、③の「経営環境が著しく悪化」は、社外環境の収益性の低下につながる事象を、そして④の「市場価額の著しい下落」は、市場価額が簿価から50%以上下落することとされています。

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もし減損の兆候が認められた場合は、⒊減損損失の認識の判定を実施して、資産または資産グループの帳簿価額と当該資産が将来産出するキャッシュ・フローを比較して帳簿価額が上回った場合に減損損失を計上します。留意すべきは、この段階での将来キャッシュ・フローが割引後のものでなく、割引前のものである点です。その理由は算出の手間がかからないことと同時に、割引前キャッシュ・フローであっても下回る状態であれば、減損の存在が相当程度に確実であると判定できるためです。(『意見書』四⒉⑵①)この段階で減損の存在が相当程度に確実だと判断できてはじめて⒋減損損失の測定を実施しますが、これは資産に係る回収可能価額と帳簿価額の差額を減損損失として計上します。

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中国の古い会計準則である企業会計制度(いわゆる「旧準則」)では、資産のグルーピングが明確に規定されていません。一方で、中国の2006年制定の企業会計準則(いわゆる「新準則」)では、資産グループとは、企業が識別できる最小単位の資産の組合せであり、それが産み出すキャッシュ・フローは、他の資産または資産グループが産み出すキャッシュ・フローから基本的に独立している必要があると規定しており(第二条)、日本基準と似た規定となっています。

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減損の兆候の把握は、旧準則では、長期投資、固定資産、無形資産は科目毎に期末時点で調査をし、市場価格が下落したことにより、被投資企業の経営状態が悪化しあるいは技術の陳腐化、損壊あるいは長期放置などが原因で、回収可能金額が帳簿価額を下回る場合、長期投資、固定資産、無形資産の減損引当金を計上しなければならず、各減損引当金は、科目ごとに見積計上しなければならない、としており、割引前将来キャッシュ・フローによるテストは規定されていません。(第56条)一方新準則では、以下の兆候が存在する場合、資産に減損が生じている可能性があることを示していると規定しています。

⑴資産の市場価額が当期において大幅に下落し、その下落幅が時間の経過または正常な使用を前提に予測されたものより明らかに大きい場合

⑵企業経営を取り巻く経済、技術または法律等の環境、および資産を取り巻く市場に、当期あるいは近い将来重大な変化が生じ、それにより企業に不利な影響が生じる場合

⑶市場金利またはその他の市場の投資収益率が当期において既に上昇しており、その上昇が資産の見積将来キャッシュ・フローの現在価値の計算に用いる割引率に影響を及ぼし、資産の回収可能価額を大幅に低下させる結果となる場合

⑷資産の陳腐化または資産自体が既に破損していることを示す証拠がある場合

⑸資産が既に、或は間もなく遊休状態となる、使用が中止される、または予定より早期の処分が計画されている場合

⑹企業内部の報告による証拠により、資産の経済的成果が計画より低下している、または低下する見込みであることが明らかな場合。例えば、資産が創出する正味キャッシュ・フローや実現する営業利益(または損失)が計画金額を著しく下回る(あるいは上回る)

⑺その他の事項が、資産に既に減損の兆候が生じている可能性があることを示している場合(第五条)

ただ、旧準則と同じように割引前将来キャッシュ・フローによるテストは規定されていません。

将来いったん認識した減損損失が回復した場合、日本基準と新準則ではその戻入れを禁止していますが(『意見書』四⒊⑵、新準則第十七条)、旧準則では戻しいれることが求められています(旧準則第62条)。

(このシリーズは月1回掲載します)


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