上海総合株価指数が年初の1月22日の高値3558ポイントから、ほぼ株価の反発らしい反発もなく右肩下がりをたどり7月6日には2747ポイントまで下落した。下落幅は22・8%の下落となった。一般に言われている高値から20%以上の下落は「弱気相場入り」ということになるのだろうか?
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
チャイナクライシス来るか?
今後も中国株は急回復は見込めないと香港のエコノミストやアナリストは一様に口にしている。背景にあるのは、これまで抑えてきた中国の構造上のリスクがいよいよ表面化するのではないかとの不安からだ。もともと中国には経済構造上の問題があった。競争にさらされない国有企業群、そして債務残高も多い。また貿易大国であるが故に通貨・人民元をやや割安に誘導する傾向があった。それが今日の巨大な貿易黒字の蓄積となった。
米国のドナルド・トランプ大統領は「その被害者は米国である」というのがの持論で「中国が貿易黒字を自国で削減する努力をしないのであれば、米国が独自の貿易政策によって中国の貿易黒字を削減する」と言い、一方で米国の貿易赤字も同時に削減するという実力行使に出る。
思い返せば中国株は近年、何度か株価急落に見舞われる事があった。2015年6月から9月に掛けて、上海総合株価指数が5100ポイントの高値圏から2800ポイント台まで、約半値まで指数が急落した。この時は株価バブルの後の調整的な急落相場であった。また15年末から16年初に掛けても同指数が3600ポイント台から2600ポイント台まで25%以上の急落場面があった。ところがこの2つの急落局面では、前者は米国の量的緩和政策が継続しており、金融市場へ潤沢な資金が流入していた。後者もようやく0%から0・25%に利上げを実行した局面であった。
従って中国政府・金融当局は独自の政策を施すだけで、株式市場をサポートする事が出来た。大口投資家の売りを抑制したり、上場企業に対しては自社株の買いを求めたり、株価の下値のストップ幅を制限したりして急場を凌ぐことが出来たのだ。しかしそのたびに中国の構造上の問題は放置され、改革に着手する様子は一切見られなかった。そこには中国政府や金融当局の慢心があったに違いない。というのも当時の米国のオバマ政権は中国の行動を見て見ぬふりをしてきたからだ。南沙諸島に島を「建立」し軍事施設を建設した。今になってベトナムやフィリピンが慌てて米国の関与を求めるも遅きに失した感がある。だから米国による対中貿易問題や為替市場の開放への関与をそれほど心配する必要はなかった。現に人民元相場も株式相場も自国でコントロール可能であったのだ。
トランプ対習近平
しかしこのところの上海株価急落は近年の二度の急落時とはまったく違う環境である。まず米国は政治体制が大きく変わった。「アメリカファースト=国益」と考えるトランプ大統領であることから莫大な貿易赤字を抱える対中貿易政策を変更してきた。中国製品に掛かる関税を大幅に引き上げ、更に輸入規制も導き出した。もちろん米国の貿易量も大きく落ち込み、米国経済も返り血を浴びることは覚悟しなくてはならない。従って米国政府がどのレベルまで関税や輸入規制を用いて中国に対抗するかは未知数である。ただし中国の金融市場を動揺させるのには十分な程の対中政策であることも間違いない。
先の二度の株価の急落局面では国内問題と位置付けることが出来たが、今回の急落局面ではトランプ政権が絡んでいる対外問題と捕らえることも出来るのではないだろうか? そういう意味では同じ株価の急落でもその質はかなり違ってくる。中国政府や金融当局による様々な政策の実行でこの急落局面を鎮静化することは困難である。背景には両国のトップも政権は安定していない事が挙げられる。トランプ大統領は側近の国家安全保障担当補佐官を就任2年足らずで3人も変えているし、中国の習近平・国家主席もかつての自分の仲間を追い落とす形で権力を掌握している。
敵は利上げとトランプ
話を株価急落に戻すと、中国人民銀行は今年3回目となる銀行の準備率引き下げを7月5日に行った。どうしても後手に回っている感が拭えない。なぜ中国の金融政策が後手に回ってしまうかと言うと、株式市場は米トランプ政権との貿易摩擦を危惧しており、足元の経済がしっかりしているだけに早急に金融緩和を行う理由が見当たらないからだ。しかしながら株価は経済の半年から1年先の先行指標である為、周囲の不安や批判をかわす必要があったのだろう。しかしそれでも株安が止まらない理由は、やはり過去2度の急落場面と比較して金利水準が高くなってきたからだろう。米政策金利は1・75〜2・00%であるが、これは数年前のゼロ金利と比較しても何十倍もの金利負担となる。
中国は国内における流動性を確保すべく銀行の準備率を引き下げて16%としたが、恐らく今後も引き下げると思われる。為替で人民元安を誘発しようものならば今度はトランプ政権による「報復」を食らうからだ。中国が取れる政策は限られる。また安易な人民元安政策は自国へ流入していた投資資金を再び海外に流出させてしまう。そうなると中国経済が好転するのは大胆な構造転換と債務残高の縮小であるが、国有企業改革はこの数十年叫ばれているが一向に進んでいない。一方で金融市場はその矛盾を見逃してくれない。中国経済の「構造転換催促相場」となると中国にとっては政権を揺るがせかねない代償を支払うことになるかもしれない。最近はあまり話題にならないが、中国本土におけるデモや衝突はまだまだ頻繁に起こっている。中国の情報操作が行き届いている為に我々はそれを目にする機会を失っているだけである。米国のトランプ政権誕生は中国にとって一番の脅威になり続けるはずである。
トム:西日本の記録的豪雨。被害の拡大が心配だよなあ。
ジェリー:しかしすごい被害よね。床下・床上浸水はもちろんのこと、土砂災害や建物の崩壊、多くの死傷者も出してしまったよね。
トム:こういうのは人工知能(AI)を使って事前予測できなかったのかね〜? 日本の天気予報を見ていると、平井さんや半井さんのように気象予報士がいても被害までは流石に適格に予想できないんだなあ。
ジェリー:気象予報士の平井さん、半井さんってふる〜。今は手塚さんと穂川さんでしょう? ただいずれにしても日本の気象予報士のレベルは高いわよね。ほぼ確実に晴れ、曇り、雨を当ててしまうからね。
トム:いや〜、一方で香港の天気予報にはいつも参るなあ。朝、雨の予報で家を出たら1日中カンカン照りって、なんだよこれ?(怒)大きな雨傘を一日中、持ち歩いて恥をかいてしまったわい。
ジェリー:そうよね。1日だけなら許せるけど、もっと許せないのは週間予報ね。向こう1週間が「晴れ」の予報だったのに、翌日がいきなりの雨、それでも「まあ1日ぐらい外れることもあるよね」って週間予報見たら、昨日まで向こう1週間晴れとなっていた天気予報が手のひら返しで「向こう1週間雨の予報」って、何それ?
トム:ほんとに香港の天気予報はよく分からないんだよ。どうやってしてるんだ。
ジェリー:昔、やったでしょ。くつを飛ばして、表なら晴れ、裏なら雨って。
トム:あんたも言うなあ。
【対中貿易赤字】
2017年の貿易統計(通関ベース)によるとモノの貿易赤字は7962億ドルと前年比8.1%増えた。08年以来9年ぶりの大きさだ。全体の約半分を占める対中赤字が3752億ドルとなった。日本は0.1%増の688億ドルで米国の国別貿易相手国では3位に後退した。2位はメキシコで10.4%増の711億ドルで拡大中。米国の対日貿易赤字は決して看過できる水準ではないが、貿易赤字の拡大が鈍化していることと、中国、メキシコといった貿易赤字が高水準にあり、かつ急拡大している国々との貿易問題の解決を優先すると思われるし、実際これら2カ国に対する米国の貿易政策は厳しいものとなっている。日米間の貿易摩擦の緩和は日本政府の外交努力というより、中国、メキシコの台頭によって救われていると言えそうだ。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URL: http://www.icg-advi sor.net/)
※このシリーズは月1回掲載します