アジアのリスクマネジメントの
実態調査の概略
アジアの事業開拓が企業の今後の成長力を左右すると考えられている中、筆者が勤務するデロイトでは、Asia Risk Survey 2017と称して、アジア(香港、中国、インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシア、およびインド)に進出している日本企業293社(うち、香港・中国は119社)に対して、「リスクマネジメント」の対応状況について、2017年11月から2018年2月にかけてWeb調査を実施しました。(デロイト トウシュ トーマツ香港事務所 竹内 裕一)
Asia Risk Survey 2017とは
本調査方法は、リスクの種類を以下の通りに挙げ、各項目を選択する方式を採用しています。本調査結果中の①〜⑩の番号は、当分類を意味します。(図表1)
今号の香港ポストでは、デロイトが実施したAsia Risk Survey 2017の結果のうち、優先して着手が必要と思われるリスクの日本本社・アジア拠点の比較、および、アジア拠点の不正の発生状況の二つについて簡潔に紹介したいと思います。
日本本社とアジア拠点それぞれの
優先して着手が必要と考える海外事業のリスクの比較
(日本の調査とAsia Risk Survey 2017)
日本本社とアジア拠点それぞれにおける、優先して着手が必要と考える海外事業のリスクの比較の調査結果は、図表2(Asia Risk Survey 2017から抜粋)の通りです。調査結果からは、日本本社とアジア拠点のリスク認識に差異があることが判明しました。
調査結果から以下の特徴がうかがえます。
・日本本社では、「子会社に対するガバナンス不全」が1位にランクされているが、アジア拠点ではガバナンス体制の確立・高度化についてはランク外となっている。ガバナンスする側である日本本社と、される側の子会社の認識の違いが浮き彫りとなった。
・「法令順守違反(④)」および「法改正や業界基準変更時の対応の遅れ(④)」は、日本本社よりもアジア拠点の方が優先度が高いリスクとして認識していた。
・アジア拠点においては、「為替変動(①)」、「原材料ならびに原油高の高騰(①)」および「人件費高騰(⑨)」といった市況や人材マーケットによりコスト上昇のリスクについて、日本本社と比べより重視していた。
・日本本社、アジア拠点ともに「人材流失、人材獲得の困難による人材不足(⑨)、「役員・従業員の不正・贈収賄等(⑥)」の4—6位と比較的高い順位で認識しており、アジアにおける高い人材流動性と贈収賄不正リスクを共通に認識していることが読み取れる。
アジア拠点の不正の発生状況の調査結果
今回のAsia Risk Survey 2017では、アジア拠点の不正の発生状況について調査を実施しています。
アジア拠点の不正状況の調査の結果、過去3年間に不正を経験したかどうかの結果、不正があったと回答した拠点は31・3%、なかったと回答した拠点は68・7%であり、比較的多くの拠点に不正があったことが判明しました。図表3は、過去3年以内に経験した不正の種類を示しています。在庫、その他の資産の横領、不正支出、現預金の窃盗といった、資産の横領が多くなっているといえます。
また不正が発生した部署は図表4の通り、営業部が38・2%と圧倒的に高い結果がでました。次いで、購買部、製造部と続きます。アジア拠点での、営業部門の不正リスク管理のハードルが高くなっている様子がうかがえます。
また不正が発生した手段としては、図表5の通り、内部通報が最も多く、次いで内部監査、業務プロセスによる統制活動が続きます。この3つの手段は、多くの同様の調査で、不正を発覚する手段としては有効であるとされており、会社組織の運営にあたっては留意が必要です。
2018年1月から中国で施行されている「改正不正競争防止法」下では、従業員の実施した「キックバック」や「バックリベート」は、工商局の調査対象であり、経営者の責任となる旨明記されており、特に留意が必要です。
おわりに
現在の国際政治の不安定さ、自然災害の頻発、イノベーションとディスラプションが絶えず起こりえる世界では、企業のリスクの状況は日々変化しており、リスク管理に関する過信は禁物であると考えます。リスクと機会を適切に把握し、リスクへの対応計画および体制を日々モニタリングすることが極めて重要です。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
竹内 裕一(たけうち ゆういち)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所
リスクアドバイザリー部門
アソシエート・ダイレクター。日本国公認会計士の有資格者。
日本、香港、インドでの会計事務所での勤務を経て、2014 年3 月より現職。海外子会社のオペレーションリスクへの対応、不正対応、内部監査支援やS O X 法への対応支援を専門として、香港、中国華南に進出する日系企業に対してサービスの提供を行う。
連絡先: yuitakeuchi@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn
※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。