7.1デモは過去最低、政治対立に嫌気差す

7.1デモは過去最低
政治対立に嫌気差す

返還から21周年を迎えた7月1日、民主派団体の民間人権陣線による7・1デモが開催された。参加者数は警察の推計で過去最低となるなど、政治的対立が下火になるにつれて民主派の勢力退潮が顕著となっている。だが一部では裁判官への人身攻撃や違法行為の美化が見られるなど、香港社会が重視する法治精神が脅かされている。(編集部・江藤和輝)


7・1デモの参加者数は警察の統計で過去最低となった(写真:瀬崎真知子)

2003年から行われている7・1デモは従来、ビクトリア公園のサッカーコートを起点としてきたが、今年も昨年同様に香港各界慶典委員会が返還記念イベントで使用する申請が認められたため、7・1デモは芝生地を起点にするしかなくなった。芝生地は雨が降ると足場が悪くなるため、民間人権陣線は2回にわたり警察と会議を行い、銅鑼湾東角道(そごう前)を起点にすることを要求。だが6月15日に警察が出した許可通知ではビクトリア公園の芝生地を起点とすることになった。このため民間人権陣線の葉志衍・召集人は警察の指示を無視する「市民的不服従」を行う考えを表明した。

民間人権陣線は警察が指定した起点を不服として公衆集会及遊行上訴委員会に上訴した。上訴委員会は25日に審問を行い、民間人権陣線は「現在、香港の民主化運動は低迷しているためデモの参加者数は過去に比べ少なく、今回は3000人で申請した」として東角道と摩頓台バスターミナルで参加者を収容できると主張。だが警察側は過去2年のデモでも出発時に1万人余りだったとして「3000人との見積もりはミスリード」と批判。東角道に大勢の人が集まれば人身の安全に危険が及ぶと指摘した。この結果、上訴委員会は起点を2カ所に分けると安全に支障を来すとの見方で一致し、警察の提案を維持した。だが民間人権陣線は水面下で参加団体と銅鑼湾、湾仔で10カ所以上の集合地点を取り決め、ゲリラ式に群衆をデモに途中参加させることを狙った。

果たして参加者数は主催者発表で昨年より1万人少ない約5万人、警察の推計ではピーク時で約9800人、香港大学民意研究計画の推計では2万6000〜3万3000人。警察の推計では03年の開始以来、初めて1万人を割り込み過去16年で最低となった。デモ隊は「一党独裁の終結、香港陥落を拒絶する」をスローガンに政府本庁舎前まで行進。ただしその横断幕は出発時には掲げず、警察の指定した起点への不満を表す横断幕を掲げた。警察は途中から多くの参加者が加わって混乱するのを警戒し銅鑼湾そごう前では二重の鉄柵を置くなど厳戒態勢が敷かれた。

時事評論家の郭中行氏は今回のデモが不振だった要因として①デモの矛先を中央に向けた②デモを「市民的不服従」にしようとした③市民は政治対立に嫌気が差している——の3つを挙げた。従来のデモでは普通選挙の実現を掲げ、多くの市民に異論はないため参加者を呼び込みやすかったが「現在の民間人権陣線は中央に矛先を向け、ひいては国家の政権転覆を趣旨とする極端なテーマを掲げ、中間派はもとより民主派支持者の多くも賛同しない」と説明。あくなき議会闘争や民主派があらゆることを政治化する状況に市民の不満が高まっているため、民主派の大規模な政治行動に多くの市民を動員することが難しくなったと分析している。

新政権の発足後、政府への不満が低下していることも背景にある。香港電台(RTHK)が香港中文大学香港アジア太平洋研究所に委託した世論調査(6月8〜20日に1004人を対象に実施)によると、特区政府の実績に対して「満足」との答えは26・1%で、昨年の17・1%から上昇。「不満」との答えは31・4%で、昨年の47・8%から低下。政府への満足度は過去11年で最高に達した。

裁判官に人格攻撃も

高等法院(高等裁判所)が6月11日、16年春節(旧正月)に発生した旺角暴動について元「本土民主前線」スポークスマンの梁天琦氏ら3人に禁固刑を下した後、SNSでは彭宝琴・裁判長をののしるメッセージが多数掲載された。『りんご日報』の報道を引用して彭氏の写真や個人情報を載せ、亡夫が警官だったことから暗に警察寄りと批判したほか、夫の死に重ねて嘲弄する書き込みが見受けられた。このため弁護士団体の香港大律師公会と香港律師会は7月4日、「最近、電子媒体で1人の裁判官が旺角暴動について下した判決をめぐり根拠なく人格をおとしめる人身攻撃を受けたことを厳しく譴責する」との共同声明を発表。裁判官やその家族に対する理由なき侮辱は判決文や量刑が妥当であるかどうかの議論と全く関係ないとして「これら批判は司法機関、司法プロセス、司法の公正に対する大衆の尊重と信頼に影響し、法廷べっ視を生む」と指摘した。

林鄭月娥・行政長官は6月12日の記者会見で旺角暴動の被告に対する判決に触れた。パッテン元総督が「公安条例の定義があいまいなため、容易に政府に乱用される」と述べたことについてコメントを求められ、「個人的意見や刑罰への不満から、裁判所が政治審判を下したとか、法律が政治利用されて社会運動家に重い刑を下したと非難することは絶対にすべきでない。その言い方によって香港の法治社会としての核心的価値と法治精神は損なわれている」と批判。「違法行為を犯したならば法律の審判を受け入れなければならない」と述べ、「違法行為による正義達成」や「市民的不服従」を鼓吹したり、ひいては違法行為を美化する者に対し反省を促した。

警察官団体の香港警察隊員佐級協会が19日に行った新執行委員会の就任式典でスピーチした林志偉・主席は「近年いわゆる『違法行為による正義達成』という思想が鼓吹されたために若者が法律・規律を破壊し、一部若者はそそのかされて前途を失ったことに痛惜を感じる」と批判。同協会の創設会長である譚惠珠氏(基本法委員会副主任)も「違法行為による正義達成」の問題に触れ、「象牙の塔に身を置いている学者が他人の子女に罪を犯させ、ひいては刑務所に送り込み、自分は手を汚さない」と非難した。「セントラル占拠行動」発起人らがいまだ法の裁きを受けていないことへの不満がにじんでいる。

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