危機は違うところから来る
6月12日の史上初めての米朝会談は、ひとまず昨年来の核実験に伴う北朝鮮有事は回避された形である。今後、北朝鮮は期限を決めて不可逆的な核廃棄に向かう予定だ。北朝鮮が本当に不可逆的な核廃棄を行うことが出来るかどうかは不透明だが、当面は核実験も控える事になると見られている。
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
核絡みの危機は当面回避出来たと思いたいが、世界には様々な危機が存在する。少し視点をずらして金融に目を移すと、静かであるが確実に危機の芽が増幅している。それが新興国における通貨急落である。
例えば今年に入ってトルコの通貨トルコリラが急落した。年初から1米ドル=3・70トルコリラ台で安定していたが、5月下旬には4・7トルコリラ台にまで下落。主因は米ドルの利上げに伴う高金利トルコリラと米ドルとの金利差縮小、そしてエルドアン大統領と国民の関係悪化 。それを受けて他の新興国市場からも資金の流出が発生した。
アジアではベトナム、フィリピンでも資金流出が見られた。ただこれまで新興国危機の際に事ある毎に心配されていた新興国大国の中国やインドからの資金流出が認められていないことから、目先不安が拡大している訳でもない。例えばベトナム株式市場では4月9日、高値の1204ポイントから一時5月28日には931ポイントと2カ月弱の間に22・6%の急落。フィリピンも1月29日の高値9058ポイントから5月30日には931ポイントと7470ポイントまで17・5%の大幅下落に見舞われた。今のところ両国共にファンダメンタルズは良好で、2018年の経済成長率見通しも政府予想の7%前後の成長を懐疑的に見る専門家は少ない。ただ若干心配されるのが、経験豊富で的確な見通しを持つ投資業界の重鎮や著名な経済学者たちがこぞって新興国に対して不安視している点だ。
新興国株のカリスマファンドマネジャーで元テンプルトンのマークモビアス氏は「トルコの状況悪化が波及する恐れがあり、アルゼンチンとブラジルもうまくいっていない。新興国市場にはまだ一定の下振れがありそうだ」と語っている。同氏は現在モビアス・キャピタル・パートナーズを設立しているが「相場値下がりに伴い好機が生じる可能性に着目。インドの金融株は魅力的に見える」と述べ、中国のテクノロジー株にも興味を示している。ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授は「現在の様相は1990年代後半のアジア金融危機に類似した点がある」と指摘した。当時は新興市場株が59%下落、各国当局は異例の高水準まで金利を引き上げた。そして「悪循環に陥り傷口が広がった1997〜98年型の危機を思い描くことが可能になった。新興市場通貨が下落し企業債務が破裂、景気が圧迫され、一段の通貨安につながった」と説明している。
危機は中東にも波及
とどめはヘッジファンドの総帥ジョージ・ソロス氏で「ドル相場の急伸と新興市場からの資本逃避は、次の『大規模な』金融危機をもたらす可能性がある」と警告している。欧州連合(EU)に対しては「存続の危機」が差し迫っていると警鐘を鳴らした。
これにはもう少し説明が必要となる。ソロス氏はイランとの核合意「破棄」と 米欧の同盟関係「破壊」を挙げている 。この関係破たんが欧州経済に深刻な悪影響を及ぼし、新興市場通貨の下落など一連の混乱をもたらすだろうと以前パリの講演で語っている。さらに「間違った方向に動きかねないと恐れていたことはすべて、間違った方向に動いた」とし、難民問題やポピュリスト台頭につながった財政緊縮、英国のEU離脱決定が示す「領土上の分裂」を指摘。「欧州が存続の危機にあるというのは、もはやただの言葉ではなく、厳しい現実だ」と語っている。そのユーロ圏危機の指摘についてだが、イタリアの政治が過去3カ月にわたって紛糾していたが5月末、マッタレッラ伊大統領はようやく、法学者のジュセッペ・コンテ氏と会談し、次期首相に指名した。今後この「コンテ内閣」が発足する見通しで、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」と極右「同盟」が次期首相候補として推薦していた。閣僚人案を変えて、連立政権をつくることで意見が一致したことから当面、ユーロ危機が回避された形である。
ユーロにも波及する?
しかしイタリア、スペインの株式市場にも動揺が走り、スペイン株式市場も5月11日の直近高値の1039ポ イントから、5月末時点の959ポイントまでわずか数週間で7・6%も下落した。(イタリア株は同時期に13%下落)。かつてイタリアもスペインもポルトガル、アイルランド、ギリシャと並んで、過剰債務を抱えていることからまとめて頭文字をとってPIIGS(ピーグス)と呼ばれていた。もう10年ぐらい前の話になるが、その頃と比較してアイルランド以外の国々は決して財政収支や債務状況が改善されているわけではない。ECB、米FRB、日本銀行が同時に大規模な量的緩和を行い、これら債務を多く抱える諸国に潤沢に資金提供してきたから、危機が収束に向かっただけであって、これら諸国の財務状況が改善していない事を認識するべきなのだ。つまり前述のソロス氏は、単に米ドル金利が上昇して新興国市場から先進国市場(米国)に資金が逃避・回帰する事を意味しているだけでなく、実際には量的緩和が終焉して資金の供給が減少すると、先進国の中でも財務体質の脆弱な国々は危機に陥ることを指摘しているのである。
トルコ中銀は6月上旬、政策金利を1・25%引き上げ17・75%にすると発表」した。これは米利上げに対抗して、通貨トルコリラを防衛する為に手段であった。つまり米利上げが新興国通貨安となり、大きな危機の要因となるのだ。今後の継続的な利上げは近い将来、必ず香港、シンガポール、東京の不動産相場にも大きな影響を及ぼす。
トム:米朝会談が終わったけど、これから実務協議なんだよな。期限を設定してロードマップに従って、非核化を実践するって訳だろ。。
ジェリー:もし北朝鮮が期限設定出来なければ、金正恩・委員長の体制危機になってより不安定になるでしょ。アメリカは空爆を仕掛ける口実をずっと探しているから、大喜びよ。
トム:ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーーン(運命)どこに向かって撃ってくるの?
ジェリー:やっぱり横田基地でしょ。米軍基地へ打ち込めば大義名分が成り立つでしょ。「日本攻撃をしている訳ではない」って。中国の習近平・国家主席とあれだけ何度も会っているのだから、それぐらいの話はしているわよ。
トム:いや〜金委員長も考えてるね。悪知恵の働くこと。
ジェリー:違うわよ、「悪知恵」じゃなくて中国の「入れ知恵」でしょ。そんなこと金委員長が思いつくわけがないでしょ。
トム:やっぱり核保有国は立場が強いよな。国家間における交渉力が全然違うからなあ。脅しが利くわ。
ジェリー:何を寝言言ってるの。金委員長も相当、身の危険を感じているのよ。きちんと合意しておかないとイラクのサダムやリビアのカダフィーと同じ運命を辿ることを知るっているのよ。
トム:ということは金委員長は、原油を掘って、アラビア語を話すということだな。
ジェリー:どう解釈すればそういう話になるの。(怒)
【PIIGS】
10年前の世界金融危機時に金融・財政部門の改善が自国の力では達成出来ない可能性のある欧州の国をまとめて表現するために、該当する国家群であるポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインの英語の頭文字からつくられた頭字語である。南欧諸国がほとんどを占めている事から、欧州における南北戦争とも言われていた。確かに今となっては北欧に位置するアイルランドは経済・財政を立て直している。危機から10年を経て、アメリカの金融政策が引き締め段階に入り、米ドルの利上げにフォローする形で、通貨ユーロにも利上げ圧力が掛かってくることから、対外債務の多い(借金の多い)国々にとっては、利払いコストの負担増となり、また危機が再来するのではないかと心配されている。イタリア、ポルトガル、スペインといったいわゆる新興国ではなく、先進国が危機に陥った。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URL: http://www.icg-advi sor.net/)
※このシリーズは月1回掲載します