大館
香港最大の歴史建築物の再開発、
旧中区警察署を中心とする「大館」がついにオープンした
香港では近年、古い建物を保存・活用していこうとする市民意識の高まりを受け、特区政府がその推進に乗り出している。「保育」と呼ばれるこの政策により、歴史的建造物がモダンなホテルやレストランとして再び息を吹き返し、新たなスポットとして観光客を引き付けている。
約10年の時間を費やしたセントラルのハリウッドロードに立つ歴史建造物群「大館」の再開発もこの「保育」の一環だ。1995年、香港特区政府は170年の歴史をもつ旧中区警察署、中央裁判司署跡、「域多利亜監獄(ビクトリア監獄)」跡を併せて歴史的建造物に指定。補修や修繕作業を行い、文化複合施設として生まれ変わらせた。
5月29日から警察本部ビルやビクトリア監獄跡を含む11棟の歴史建築と新たに建てられた美術館、総芸館、屋外運動場跡などがオープンしている。
「大館」を構成する建築物のうち、旧中区警察署に隣接する赤レンガの壁が印象的なビクトリア監獄は、19世紀に香港で最初に造られた監獄だ。今ではアートギャラリーやレストラン、バーなどが並ぶこのおしゃれなSOHOエリアに監獄があったとは想像しにくいが、この監獄は2005年12月23日まで実際に使われていた。
開港当時の香港は海賊や強盗が多く、密輸も横行していた。しかし英国政府が香港に警察機構を設置したのは1841年5月、ビクトリア監獄(当時は中央監獄、1899年に改称)ができたのは同年8月のこと。それまでは現在のピールストリート付近にわらぶきの簡易式収容所があるのみだった。
その後、ビクトリア監獄は犯罪者を収監するのみならず、隣接の中区警察署、中央裁判司署と共に香港の司法制度の中心を担うようになる。
かつて一般公開された際の監獄内部は6棟に分かれ、中央に運動場と大きな大木が1本あり、壁に沿って設置された水道管や背の高い大樹などの要所には有刺鉄線が巻き付けられ、外壁にも尖ったガラスの破片が付けられていた。監房は鉄の扉に厚い石の壁。室内の壁は明るいクリーム色に塗られているが、鉄格子が張り巡らされた窓は小さく、わずかに光が入るだけだ。
1970年代には英国がベトナム難民の受け入れを承認。香港域内の刑務所も1977年から23年間にわたり、難民キャンプとしても使われた。このためビクトリア監獄の告知板の一部にはベトナム語表記があった。
閉鎖される前の数年間は、ここには重罪犯はおらず、主に再犯者、不法入境者の男女を収監していたという。
ビクトリア監獄は1995年に法定古跡に認定された後、アートギャラリーとして利用されていた時期があり、監房内に香港のデザイナーの絵画や彫刻を陳列した斬新なエキシビションを開催するなど話題を呼んだ。また、既婚警察官向けの官舎を再開発した複合施設「PMQ」なども好評だった。
「大館」の修復・再利用を請け負った賽馬会文物保育の公表によると、投資額は約38億ドルに上り、着工前の2007年に想定した投資額の18億ドルを大幅に上回ったという。2016年5月には修復工事中に外壁の一部が地鳴りのような音を立てて突然崩れる事故が起き、修復せずにすべてを取り壊して公園にするという意見も出るなど、その存続が危ぶまれた。
「大館」の入場は無料。5月初旬から公式サイト(http://taikwun.hk)で参観の予約受け付けを行っている。
(この連載は月1回掲載)