シリア攻撃の後は北朝鮮!?
米国のトランプ大統領は4月13日、シリア・アサド政権の「化学兵器施設」に対する局所攻撃を命じたと発表した。首都ダマスカス郊外東グータ・ドゥーマに対しシリア政府軍が化学兵器を使用したと疑われる攻撃に対応するもので英仏軍との合同作戦だ。ただ世論はこの戦闘に賛意を示す雰囲気はなく、今後、何が起こるのだろうか?
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
同じ独裁者としての立場にあるロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、シリアのアサド政権を支持している。米国はシリアの反政府軍を支持している。アサド大統領も核兵器の開発に意欲を持っており、核拡散を防ぎたい米国は時にはイスラエルと手を組んで、言わばアサド政権と反政府軍は米ロの代理戦争を行っていた。
名うての独裁を地で行くプーチン大統領は国内での大統領選挙の際、有権者が投票所に居ない時間を見計らって、選挙管理委員が(恐らくウラジミール・プーチンと書かれた)大量の投票用紙を「投票」している姿が監視カメラに収められていた。選挙管理委員が監視カメラの存在を知らない訳はないので、ロシアの出来レースの事実を知る一部の国民に大いに反感を買っている。
しかし民主主義国家の代表格であるはずの米国のトランプ大統領も負けてはいない。気に入らない側近が居れば、すぐに更迭し、女性に近づいてはスキャンダラスな行動を取る。日本の森友問題ほどの恥ずかしさはないが、こちらも負けず劣らずの恥ずかしい指導者である。トランプ氏の「シリアの独裁者を退治する」というメッセージはそのまま自身にブーメランのように返って来そうであるが、「憎まれっ子世に憚る」の言葉通り、大型減税や保護貿易主義、中国への関税強化で目先の得点を稼いでいる。大型減税を発表する前に米国の景気は既に回復軌道に乗っており、ここ数年間、米FRBは利上げを粛々と行ってきた。その慎重姿勢は世界の中央銀行の鏡であったが、トランプ大統領がこれをブチ壊す。
ただでさえ景気回復はインフレ懸念を呼び、物価の上昇による国民の消費の混乱を招くが、トランプ氏は人気取りの為に昨年12月、大型減税に署名した。今後10年間で1兆5000億米ドルもの法人税減税を行うという。NYの株価が上昇すると思いきや、年初から株価は乱高下を繰り返す。それはそうだろう。景気は放っておいても回復途上にあるワケだ。そんな折に大型減税を行うと国民の消費が拡大し、物価上昇率が更に高くなる。せっかく巡航速度の景気回復を実現させるために米FRBが徐々に利上げを行っていたのに、今後は更に利上げを加速する必要が出てくるかもしれない。せっかくの景気拡大も短期に終わる可能性がある。
現在、株価が不安定なのは全てトランプ大統領の「間違った政策」によるものである。加えてシリア攻撃で原油価格が上昇し、債券価格も将来のインフレを読みながら軟調に推移する。これではFRBのジェローム・パウエル議長はかわいそうだ。打つ手打つ手がトランプ氏に阻まれる。
7月に米国は射程圏
トランプ氏は5月に北朝鮮の金正恩・委員長との会談が予定されている。クレージーなトランプ氏の政策は同じクレージー対決の金委員長をも動かしたところは面白い。金委員長は中国の習近平・国家主席に泣きつく形で急遽、会談を行い、さも中国の後ろ盾があると思わせる作戦に出た。もちろん中国も本気で北朝鮮の後ろ盾になる気など毛頭ないが、米国に対する抑止力という役割は果たせるはずである。
一方でトランプ大統領の行動は戦略的なものはまったく感じられないが、実に分かりやすい。3月にはティラーソン国務長官を解任して、後任に強硬派のポンぺオCIA長官を抜擢し、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を解任し、ジョン・ボルトン氏を後任に持ってきた。元国連大使のボルトン氏は北朝鮮に対して先制攻撃を支持する強硬派である。英国のアール・ハウ国防相は1月、「北朝鮮が約6〜18カ月以内に米本土を核攻撃する能力を持つ可能性がある」と英議員らに報告している。その報告書が4月5日に公表され、早ければ7月には米本土への核攻撃が可能になるという。もしこの報告書をトランプ大統領が真に受けていれば、北朝鮮に対する先制攻撃の時期は早くなる。場合によっては日本が大いに巻き込まれる事になるが、そんな事はトランプ大統領の知った事ではない。日本が北朝鮮による被害を受けようが、戦場になろうが、米兵の安全確保が出来れば、それが「アメリカ・ファースト」なのだ。
日本は米国離れの契機
日本は世界情勢を見極めながら、米国一辺倒を改めるチャンスである。安倍首相が本当に憲法改正を進める意思があるのなら、自衛隊を軍隊と解釈するのならば、自分の国は自分で守る体制を作らなければならない。安倍首相の事を「右翼だ」「保守だ」などと言うメディアも多いが、グローバルスタンダードから見れば安倍首相はせいぜい「中道政治」である。今の世界情勢をよく見ると分かる。ロシアではプーチン大統領が台頭し、中国では多選を認めた習主席がいる。米国はトランプ大統領、フィリピンはドゥテルテ大統領、ミャンマーやカンボジア、タイは軍事政権という名の独裁。南米やアフリカでは独裁的な大統領や指導者が多い。かたや「真面目」に民主主義のフリをしている英国、フランス、イタリア、カナダ、豪州の首相や指導者の名前を言える人は少ない。それだけ指導力がなくなってしまったのだ。
アジアではかつてマレーシアのマハティール首相、シンガポールのリー・クアンユー首相、インドネシアのスハルト大統領ら国家を繁栄させた強烈な指導者は半ば独裁的な行動を取っていた。もちろん今の強力な指導者たちが世界を平和に導くとは限らない。しかしこの1年で世界の空気が大きく変わったことは間違いない。
トム:大相撲、女子レスリングはパワハラ問題、政界では新潟県知事や財務省の福田事務次官のセクハラ問題で大変だよなあ。世界はシリア攻撃、北朝鮮の制裁で奔走しているのに、日本だけが蚊帳の外かあ。安倍さんも支持率がガタ落ちだしな。
ジェリー:安倍さんの三選はあるのかな? 一部の報道では次期首相候補に小泉進次郎さんがトップになったそうよ。
トム:でも次期首相は誰かな〜?
ジェリー:案外、石破さんかもね。ウフフフ。
トム:え〜、軍事オタクの石破さんかあ。なんかトランプ大統領と気が合いそうだよな。北朝鮮だけでなく、言う事を聞かない国は片っ端から攻撃しそうで心配だよな。
ジェリー:そんなことしないでしょ〜。一国の主なんだからトランプさんの言うことなんか聞かないわよ。
トム:ただ戦後70年間、日本はずっとアメリカ追従なんだよ。戦後教育で「アメリカ正しい、日本は悪い」と刷り込まれて来たわけよ。かつて原爆落とされて、それでもアメリカ好きが国民の70%以上を占めている面白い国だぜ?
ジェリー:トランプさんの支持基盤は白人の貧困層だから、アメリカ・ファーストは一定の層に支持される。
トム:いいんだよ、日本の政治はこれまで通り、「ジャパン・セカンド」で変わらないんだよ。戦後教育がそうだから誰も気が付かないし、これからも続くのよ。言わば10年ぐらい前の「韓流ドラマ」と一緒。諸手を挙げて感激するんだよ。
ジェリー:確かに思考停止は一番危険ね。でもあなたは意外と考えているのね。但し自分の身に不利益が降りかかった時だけよね。
【大型減税】
米国のトランプ政権と米議会は昨年末、今後10年間で1.5兆ドルの大型減税を決めた。トランプ大統領が2月に提出した予算教書によると2020年度に9870億ドルまで財政赤字が拡大すると試算していたが、21年度以降は改善し28年度の赤字は3630億ドルに縮小するとしていた。つまり減税効果が経済成長を促進する為に税収増が見込めるとの試算が背景にあった。ところが4月に米議会予算局(CBO)は20会計年度に財政赤字が1兆ドルを突破する試算を公表した。CBOは米連邦議会とは中立の立場にあり、客観的に試算している。景気の加速は利上げ要因となり、いずれは消費者が消費を控えることも考えられるからである。トランプ大統領による破天荒な政策により米国のみならず世界が振り回されている。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URL: http://www.icg-advi sor.net/)
※このシリーズは月1回掲載します