香港貿易発展局だより《特別編》

香港貿易発展局だより《特別編》
日本コンテンツ産業の海外展開、
香港を通じ世界へ

 「クールジャパン」という言葉が世に出て久しいが、この言葉が登場するはるか昔から香港人は日本の映画、テレビドラマ、アニメに慣れ親しんできた。香港の日本製コンテンツ輸入は1960年代にさかのぼる。こうした歴史的経緯から、現在でも日本のコンテンツ産業にとって、香港は最も重要な拠点となっている。本稿では、日本のコンテンツ産業の海外展開に最適な香港の国際展示会を2つご紹介したい。(写真提供・香港貿易発展局/構成・編集部)

■筆者紹介
丸子将太(まるこ・しょうた)
専門商社で5年間の中国赴任を経て、2013年香港貿易発展局東京事務所に入局。映画・テレビ、ライセンス、出版等の産業の担当として日本香港間の貿易促進事業に従事。香港で開催する関連産業の国際見本市の運営から自治体や大企業から中小企業向けに香港を経由した海外ビジネスに関する提言等も行う。

香港国際ライセンシングショー

第16回香港国際ライセンシングショー
開催日時:2018年1月8日(月)~1月10日(水)
開催場所:香港コンベンション&エキシビションセンター
出展者数:12の国と地域から380社以上
来場者数:2万2500名以上

■アジア最大にして最先端

アジアの人気キャラクターが勢ぞろい

香港貿易発展局が主催する「香港国際ライセンシングショー」は2018年1月で16回目を迎えたアジア最大規模のライセンシングショーである。この展示会は直近5年で出展者数が2倍となり、弊局で年間38本主催している国際展示会の中でも特に急成長を遂げている。

アジア市場のライセンシング・ビジネスの急拡大とアジア各国の政府によるライセンシング産業への充実した支援が背景にあるが、同時開催イベントの「香港玩具&ゲームフェア」「香港ベビー用品展フェア」「香港国際文具フェア」などとも巧みに連動し、ライセンシング・ビジネスに密接なかかわりを持つ玩具や文具のバイヤーを引き付けていることも奏功している。

もともと香港のライセンシング・ビジネスはアジアの中では歴史が長い。香港のライセンスエージェントが成長著しい中国や東南アジアを担当する場合も多く、ライセンシング・ビジネスでは香港は外して考えることはできない状況だ。2018年の香港国際ライセンシングショーでは、全体の出展者数が380社を超え、1000以上のプロパティーに加え、来場者数も2万2500名と過去最大を記録した。

多くの来場者でにぎわうジャパンパビリオン

近年は特に、中国、韓国、台湾からの出展者数が増加していることが特徴に挙げられる。台湾に関しては、輸出促進機関である台湾貿易センターが政府と一丸となって地元企業を支援しており、個性あふれるユニークなキャラクターを数多く出展している。一方で香港政府も若手クリエイターの売り出しに力を入れており、世界レベルの有名ブランドやエージェントも数多く出展している。このため本ライセンシングショーは、会場内をくまなく歩けば、それだけでアジアの業界最先端の動向を見極めることができる収穫性の高いイベントとなっている。

■世界で人気の日本製キャラクター

香港国際ライセンシングショーにジャパンパビリオンが誕生したのは2014年のこと。それ以降毎年出展を重ね、アジアや世界でも人気のコンテンツが豊富なパビリオンとして、圧倒的な集客力を誇っている。

本パビリオンを主催するのは一般社団法人キャラクターブランド・ライセンス協会で、2018年は同協会の下に20社がブースを構えた。ACCENT、カミオジャパン、カプコン、熊本県(アサツーディ・ケイ)、サンバイト・クリエイティブ・ジャパン、住友商事、セキグチ、ソニー・クリエィティブプロダクツ、円谷プロダクション、テレビ東京コミュニケーションズ、日本アニメーション、ハル研究所、バンダイナムコエンターテインメント、不易糊工業、フタバ、ベネッセコーポレーション、Perorine Company、ポプラ社、山二といった出展者名を見れば、いかにバラエティー豊かなパビリオンかが分かるだろう。

毎年ほとんどの出展者が過密な商談スケジュールをこなしており、香港での出会いが契機となり、アジアに羽ばたいていったキャラクターやプロパティーも数知れない。東京都葛飾区の人形メーカーセキグチが作ったキャラクター「モンチッチ」は、香港の大手コンビニとのタイアップ、日本で年賀状販売をするフタバのオリジナルキャラクター「パンダのたぷたぷ」は台湾の某PCメーカーや香港の大型書店とのコラボレーション。また今回は出展しなかったが、東洋美術大学は生徒が制作したキャラクターが香港の地下鉄を運営するMTRの復活祭プロモーションのメーンキャラクターに抜擢されるなど、日本の出展者の成功例も枚挙にいとまがない。

キャラクターブランド・ライセンス協会は出展者への事後ヒアリングも徹底しており、まとめられた各出展者の見込み成約額は計1億円を優に超えている。

キャラクターの着ぐるみが来場者をお出迎え

■国際会議でも脚光浴びる日本勢

香港国際ライセンシングショーの同時開催イベントとして「アジア・ライセンシング会議」も2日間にわたり開催される。全体の来場者数が1400人強で、毎年世界各地から30人以上の登壇者を招き、ライセンシング業界の最新の動向を伝える。

初日の午前中にメーン・シンポジウムが開かれ、午後から各分科会が始まる。今年は分科会の一つが「ジャパンセッション」と題し、日本のライセンシング産業に焦点を当てた。株式会社アサツー ディ・ケイコンテンツ本部長の野田孝寛氏、株式会社イングラム代表取締役の加藤勉氏、株式会社円谷プロダクションマーケティング本部長・執行役員の杢野純子氏、株式会社ベネッセコーポレーションこどもちゃれんじグローバル本部グローバルキャラクター開発部部長の手林大輔氏、LIMA ジャパン(一般社団法人日本ライセンシング・ビジネス協会)ゼネラルマネージャーの谷口香織氏が登壇した。

今回日本の分科会が行われた経緯の1つに、中国や東南アジアのライセンシング・ビジネスが急成長する一方で、現地に経験豊かな代理店やライセンシーが少ない現実がある。だからこそ、日本企業がこれまでに得てきた経験やノウハウ、そして現在のビジネス戦略等を共有し、彼らに対する啓蒙活動の意味合いも兼ねたプログラム構成となった。分科会では来賓挨拶として熊本県知事の蒲島郁夫氏とくまモンが登壇し、同日にライセンシングショー内で開催された海外記者向けのくまモンの記者発表会のもようも合わせて報告された。


香港フィルマート

第22回香港フィルマート
開催日時:2018年3月19日(月)~3月22日(木)
開催場所:香港コンベンション&エキシビションセンター
出展社数:35の国と地域から850社以上
来場者数:8500名以上

フィルマートに参加した香港の俳優たち

■香港映画は消えたのか?

続いてご紹介するのは毎年3月に開催されるアジア最大のコンテンツマーケット「香港フィルマート」である。コンテンツマーケットとは、映画やテレビ番組といった映像コンテンツの売買が行われるイベントで、映画祭と同時期に開催されているケースが多い。香港フィルマートも香港国際映画祭と同時期に開催されており、この時期には世界各地から多くの業界関係者が香港に集まる。

香港はご存じの通り、ブルース・リー、ジャッキー・チェンらに代表されるように、非常に多くのカンフー映画が製作されてきた。さらに90年代には、ウォン・カーウァイなどの香港映画が日本でも人気を博しており、当時の香港映画を鑑賞されていた方も少なくないかと思う。だが近年では、香港映画の話題を日本で聞くことがほぼ皆無となり、香港映画は衰退してしまったと嘆く方もいるようだ。しかし、産業的には香港映画は決して衰退はしていない。

CEPA(シーパ)と呼ばれる中国本土・香港間の経済貿易緊密化協定により、一定の条件を満たせば香港映画が中国映画として中国本土で制限を受けることなく上映することができるため、ほとんどの香港の映画会社は市場規模がアメリカに次ぐ中国で中国本土との合作映画を製作配給している。2016年の数字だが、香港映画として製作配給された作品が62本に対し、中国本土との合作映画は89本だったことからも、今の香港映画産業と中国本土との関係が密接であることがわかるだろう。一見絶滅したかにも思える香港映画だが、その実、多くの香港製映画がアジア各地で大当たりをとっており、香港映画人の影響力はいまだに業界内に広く及んでいる。

どの出展者ブースでも熱心な商談が繰り広げられた

■華麗なる映像の祭典

香港フィルマートは2018年で22回目の開催となった。35の国と地域から850社以上の出展者に加え、8500名以上の来場者を集め、例年を上回る盛り上がりをみせた。

香港フィルマートの最大の特徴は、他の世界的なマーケットでは映画かテレビ番組のどちらかに比重が偏ることが多い中で、双方がバランスよく組み合わさっている点である。さらに映画とテレビ番組以外にデジタルコンテンツも扱われ、今年からはドキュメンタリーやロケ誘致の専門エリアも新設された。

出展者に関しては、映画関係者とテレビ関係者がほぼ半々となっている。地域別に見ると、中国勢は北京から上海、杭州、福建、広東など、さまざまな地域がおのおのの巨大パビリオンで場内を圧倒する。香港近隣では韓国、台湾、マカオや東南アジアからの出展者も、国・地域別のパビリオンで魅力を競っている。米国や英国、フランス、欧州連合(EU)といった欧米勢もパビリオンを形成し、国際色豊かなイベントにさらに花を添えている。

会期中は香港・中国本土を中心に映画会社やテレビ局などが会場内で新作発表会等を行っている。そこには中華圏の旬の俳優、女優らも参加しているため、華やかなオーラを周囲に放っている。映画、テレビ、デジタルコンテンツ、ドキュメンタリー、中国市場などに関連した各種フォーラムも多数開催されており、まさに映像の祭典と呼ぶにふさわしいプログラムとなっている。今年は日本からもポリゴン・ピクチャアズ代表取締役の塩田周三氏、ドワンゴ営業本部広報部部長の松本明子氏、共同通信社国際報道室次長の古畑康雄氏が各フォーラムに登壇し、日本での取り組みを世界に向けて積極的に情報発信することに成功した。

ジャパンテレビコンテンツパビリオンでははっぴをはおって売り込む出展者の姿

■高い日本企業のプレゼンス

コンテンツマーケット分野の展示会としてはアジア最大規模の「香港フィルマート」だが、中でも日本からの出展者数は2018年に92社と全体の1割以上を占めた。これは中国本土と香港を除けば、出展者数第1位という圧倒的な存在感である。

2018年は日本からは過去最多となる5つのパビリオンが出展した。独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)と公益財団法人ユニジャパンが運営する「ジャパンパビリオン」、今回初出展となった総務省の支援を受け、一般社団法人日本民間放送連盟内にある国際ドラマフェスティバル事務局が指揮を取った「ジャパンテレビコンテンツパビリオン」、地域別として札幌フィルムコミッション運営の「北海道パビリオン」、こちらも今回初出展となった福岡映像コンテンツの「九州パビリオン」、沖縄フィルムオフィスの「沖縄パビリオン」と、日本全国から映画制作配給会社や各地のテレビ局が参加した。

日本の出展者数が多いのは、2014年から札幌市の外郭組織である札幌映像機構が当時の札幌市がコンテンツ産業の総合特区区域として認定され、その取り組みの一つとして全国各地のローカル局や制作会社を束ねて、香港フィルマートでパビリオン出展したことに起因する。それが各地のテレビ局の海外展開の火付け役となり、距離も近く日本のコンテンツを販売しやすい香港フィルマートで、海外バイヤーとの面談を行うローカル局が近年、飛躍的に増加している。

これまで札幌市が行っていたこの取り組みは、2018年は総務省と国際ドラマフェスティバルに受け継がれ、九州に関しても産業研究会が新たな受け皿となり、引き続きローカル局や地元の映画制作会社等への支援を行った。

どちらの展示会も日本のプレゼンスが高く、また日本のコンテンツを求めるバイヤーも非常に多い。出展来場等に興味がある方がいれば、香港貿易発展局東京事務所までお気兼ねなくご連絡いただきたい。

特に日本からの来場者向けにはホテル代の補助も行っているので、まずは一度会場を視察いただき、香港現地で日本のコンテンツがどのように展開されているのかを実地でご覧いただくことを強くお勧めしたい。

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