全人代で指針
発展の波に乗れ
北京で3月5~20日、第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第1回会議が行われた。中央幹部による「高度な自治」「香港独立」への言及、粤港澳大湾区や香港市民の国民待遇などの話題が注目されたほか、憲法改正が立法会議員の資格に影響するかどうかも物議を醸している。
(編集部・江藤和輝)
香港市民にも国民待遇
李克強・首相が5日に発表した政府活動報告の香港・マカオに関する部分では「過去5年、香港・マカオ工作は新たな進展を見せた。1国2制度の実践は絶えず発展し、香港・マカオで憲法と基本法の権威がより明確化した」「香港・マカオが国家発展の大局に融合するのを支持し、中国本土と香港・マカオ地区の交流・協力を深化させる」などと述べた。昨年の活動報告に盛り込まれていた「港人治港、澳人治澳、高度な自治の方針を堅持」や「『香港独立』に活路はない」は言及されなかったことが注目され、高度な自治が引き締められると懸念する半面、中央は独立勢力がほぼ封じ込められたとみなしているとの観測が持ち上がった。
だが習近平・国家主席が20日の閉幕式で行った重要講話では、香港・マカオに関する部分で「全面的かつ正確に1国2制度、港人治港、澳人治澳、高度な自治の方針を貫徹し、厳格に憲法と基本法に照らして事を行い、特区政府と行政長官の法に基づく施政と積極的な行動を支持し、香港・マカオが国家発展の大局に融合するのを支持し、香港・マカオ同胞の国家意識と愛国精神を強化し、香港・マカオの長期的発展と安定を維持する」と言及。続いて台湾問題に触れた後、「祖国を分裂させる一切の行いや小細工は必ず失敗し、人民の譴責と歴史の懲罰を受ける」などと述べた。
李首相も閉幕後の記者会見で「台湾独立のいかなる企て、主張、行為も容認しない。外国勢力が台湾カードを使うことも認めない」と警告したほか、中国共産党中央政治局常務委員の王滬寧氏は6日に全人代香港代表団全体会議に出席し、「国家主権と安全に危害をもたらし、基本法の地位に挑戦し、香港独立提唱を含め中央の最後の一線に触れることは絶対に容認しない」と表明するなど、独立宣揚への警戒は緩めていないことがうかがえる。梁振英・前行政長官はこれを「各種の歪曲と演出で中国を分裂させる内外すべての者に対する警告」と解説した。
李首相はこのほか記者会見で粤港澳大湾区の計画要綱が間もなく発表されると強調したほか、「香港・マカオ住民が中国本土、特に広東省で仕事や生活をする場合、住宅、教育、交通など多方面で徐々に地元住民と同等の待遇を享受できるようになる」と指摘。また「香港が国家発展の大局に融合するのを支持する」とは1国2制度の境界線をあいまいにするとの懸念に対し、「中央は当然1国2制度を堅持する。われわれは他国とも相互補完で発展できるのだから、1つの国に属する本土と香港・マカオは1国2制度の下でそれぞれの優位性をより発揮し、相互補完で新たな成長を切り開ける」と説明した。
習主席が昨年7月に来港した際の重要講話や10月の共産党大会での報告では香港・マカオ市民に国民待遇を享受させることが盛り込まれ、その後半年で2回にわたり具体的な措置が発表された。例えば国務院香港マカオ弁公室は12月、香港・マカオ市民が本土で就業・進学する際の①住宅積立金②奨学金③国家社会科学基金——に関する便利措置を発表。香港・マカオ市民に「住房公積金管理条例」に基づき住宅積立金に加入することを認めるほか、本土で進学する香港・マカオの学生に4000〜3万元の奨学金を4つの等級に分けて支給する。このほか民主建港協進連盟(民建連)は今回の全人代と全国政協で本土で暮らす香港市民の住宅、医療、教育、老後、生活、ビジネスなどの問題について6分野31項目に及ぶ改善策を提案した。
「一党独裁」めぐり物議
第13期全人代常務委員に就任した民建連の譚耀宗・前主席は19日、「一党独裁の終結」のスローガンは違憲に当たるため立法会選挙の出馬資格に影響するとの見方を示し、波紋を広げている。
全人代では憲法改正が通過し第1条に「中国共産党の指導は中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴」との条文が加えられた。譚氏はこれによって共産党の指導的地位がより確立されたため「今後は一党独裁の終結とのスローガンを叫べば憲法と基本法に抵触する。立候補する人は考慮すべき」と指摘、ただし出馬資格が得られるかどうかは選挙主任が決めると述べた。「一党独裁の終結」を5大綱領の1つに掲げる香港市民支援愛国民主運動連合会(支連会)の何俊仁・主席は「立法会議員を支連会から脱退させる意図が背後にある」とみている。
元民主派で行政会議メンバーの湯家驊氏が召集人を務める「民主思路」の代表団は21~24日に北京を訪問した。国務院香港マカオ弁公室を訪れ、張暁明・主任、馮巍・副主任と接見。湯氏は会談後の記者会見で、基本法23条、憲法改正、香港の司法の独立をめぐり討議したことを明らかにした。憲法改正の問題では張主任が香港市民の関心を理解していることが見受けられたと述べたが、「一党独裁の終結」については具体的に触れなかったという。ただし湯氏は「1国2制度の下で参政者は国家と憲法を尊重しなければならない。国家の統治制度を尊重せず、ひいては転覆を図れば立憲体制上の大きな問題を引き起こすため、立候補する者はよく考慮すべき」と呼び掛けた。また湯氏は馮副主任との会談で23条の立法を段階的に推進する提案をしたが、特に回答は得られなかったほか、中央は23条の立法についてスケジュールは想定していないとの感触を得たという。
21日に行われた全人代常務委員会の第1回会議では全人代法制工作委員会主任の沈春耀氏が香港・マカオ基本法委員会主任に任命された。沈氏は今回の憲法改正の過程に携わっており、11日に憲法改正が可決した際に法制工作委員会主任として記者会見で解説していた。これまで香港マカオ事務にはあまりかかわっておらず、基本法委員会のポストに着いたこともない。だが基本法委員会の梁愛詩・副主任は、全人代常務委員会の基本法解釈など香港問題に関する決定では沈氏が処理したこともあり、香港事務には通じていると指摘。また全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「中央が昨今、憲法の重要性を強調していることが反映されており、今後、香港での憲法の広報活動を強化する」とみる。
「一党独裁の終結」を唱えてきた梁国雄氏が次の補欠選挙で立法会議員への返り咲きを目指しているが、果たして出馬が認められるかどうかが注目される。