本当の1国2制度とは

本当の1国2制度とは

 1国2制度とは「中国の社会主義の中に香港の民主主義が共存する」というわけではなく「中国の社会主義の中で香港の資本主義を維持する」という意味である。中国2大IT企業のテンセントとアリババの株価を見ていると、社会主義国家の中国が米国型資本主義のお株を奪うテクニックで資本主義を取り込んでいることが垣間見える。
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)


 テンセントとアリババの株価は2017年を通じてほぼ2倍以上に上昇し、会社の規模を示す株式時価総額は1712月末時点でそれぞれ4933億ドル(米ドル、以下同じ)、4407億ドルに達した。トヨタ自動車の2089億ドル、ソフトバンクグループの871億ドルを遥かに上回る規模となった。投資家は中国の15億人という巨大市場に期待感を示し、テンセントとアリババという2大企業の可能性に夢を託した。テンセントは香港とニューヨーク、アリババもニューヨークに上場している。

 中国財務省の発表では17年における国内の治安維持費は政府支出全体の6・1%にあたる1兆2400億元であった。これに対し国防費は1兆200億元と、これを下回る。中国政府としては国内における所得・資産格差や法的抑圧による不満を緩和したい。そしてこの莫大な治安維持費を削減したいのでITに注力することは不可欠だ。

 国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると「中国当局は民族間の対立が続く新疆ウイグル自治区に大量のデータを駆使した監視プラットフォームを配備し、問題を起こす危険のある人物を特定し、先んじて拘束する必要がある」と発表している。中国政府は数万人の警察官を最新のテクノロジーで武装させている。カメラや検問所は域内の都市や村を網羅し、街頭パトロールでは携帯用機器で身分証明書やスマホをチェックしている。そして同自治区の警察は既に世界最大となっている中国のDNAデータベースをさらに拡大するための血液採取も実行している。新疆ウイグル自治区の治安維持費は17年に前年比で92%増となった。

 また中国政府は反体制派や犯罪者をいち早く特定するため、画像認識やデータの収集・選別が必要となるが、人工知能(AI)を使った高度な機械学習を行いたいと考えている。15億人の人口をAIをフル活用することによって統治することが不可欠になりつつある。従って治安維持費は今後も膨らんでいく。

2大IT企業を駆使

 そこで中国政府は2大IT企業に目を付けた。その一つであるテンセントはWeChatやチャットアプリ「QQ」、オンラインゲーム等のデジタルコンテンツ、決済プラットフォームの「WeChat Pay」から集められる様々なデータを統合し、ユーザー個人のより正確な情報を収集している。「タオバオ(淘宝網)」のブランドで知られる電子商取引ビジネス、電子マネーサービス「支付宝 (Alipay)」を傘下に持つアリババにも同様の事が言える。国際連合貿易開発会議のデータによると、B2Cの電子商取引の市場規模は15年時点で既に中国が6170億ドルに拡大し、米国の6120億ドルと並ぶ圧倒的な規模を誇る。日本の1140億ドルやドイツの930億ドルをはるかに上回る規模である。

 そんな折、これら2大IT企業を念頭に置いて中国の証券当局は、国内の海外上場企業や株式非公開企業が本土で株式を上場できる方法を模索するよう、複数の国有投資銀行に打診している。テンセントやアリババのような企業は特別な企業構造であるため海外法人を設立しており、ITなどの業種への外国人の投資制限を避けることが可能である。前例を作る事で他のIT関連企業が株式公開(IPO)を通じて国内でも資金調達をしやすくするメリットがあり、国内におけるイノベーション力を高めることも出来る。一斉に国内回帰に舵を切ることは中国の大きな国益となる。

 中国政府は昨年夏、2030年までに同国を「世界のAI技術革新の中心地」にすることを掲げ、AI開発の包括的計画を発表した。中国ではそうした計画を単なる青写真ではなく優先課題としているので、地方や国有企業、起業家が呼応しやすくなる。国家ビジョンが鮮明であると企業や個人も追随しやすい。加えて法整備が整うとビジョンに弾みが付く。

扱いが難しいトランプ大統領

 そんな中国政府にとって最も計算できないのはAIの行方でも経済予測でも治安維持の問題でもない。喫禁の課題は「トランプ対策」であろう。とにかくトランプ大統領の行動は側近でも予測できない。トランプ氏の外交はまさに上り坂、下り坂、そして「まさか」の「まさか外交」である。そのまさか外交の第一弾のバズーカ砲が「米国の対中貿易赤字を1000億ドル削減するように求めた」ことである。

 トランプ氏は習近平・国家主席に対し「米国の対中貿易赤字」の懸念をずっと表明してきた。そして中国を見据えながら鉄鋼とアルミニウムに対して輸入制限を発動すると宣言してきたし、中国の知的所有権の問題や米企業に対する技術移転の強要を問題視してきた。そしていよいよ具体的な数値目標を掲げたのだ。17年の米国の対中貿易赤字額は3752億ドルに達した。

 中国にとってのリスクは、やはり民主主義の総本山である米国から輩出された大統領かもしれない。ロシア絡みの疑惑はあるものの、きちんと国民投票によって選出された大統領なのだ。中国が一党独裁政権と揶揄されることもあるが、民主主義も大差はないことが露呈した。これまでは資本主義と社会主義のどちらが私達にとって良いシステムなのかが議論されてきたが、実際には社会主義、資本主義の良いところをバランスよく取り入れるのが一番良いのではないだろうか? 社会主義体制の中国が民主主義・資本主義を吸収しながら発展するにもバランスが必要である。


トム:治安を維持する、国家を守るってのは難しいことなんだな。今の自民党を見てみなさい。安倍さんを守ろうとみんな必死でしょうが? 国家は二の次、国民は三の次。

ジェリー:そうよね、守るのは自身の職で、野党さんも存在感がほぼゼロでしょう。せっかくの敵失を生かすことが出来ないから残念よね。

トム:しかし治安と言えば、日本には原発が50基以上あるんだから、そこ目掛けて一斉攻撃されるとまずいよなあ。

ジェリー:原発の攻撃は無理よね。北朝鮮からミサイルが飛んできたら、アメリカの力を借りなくても日本はミサイルを撃ち落とすぐらいの技術力はあるよね。

トム:北朝鮮絡みの治安は別として、それ以前に自然災害から身を守るのも大変だぞ。地震や台風が来た時がいい例だろう。都市機能が麻痺状態だったもんな。

ジェリーそういえば、最近でも東京でたった5センチの積雪があった時に、都市機能がほぼ停止してたよね? 新潟県出身の人が「たった5センチで」って笑ってたわよ。

トム:雪国出身者から見れば、東京のインフラなんてジョークだよな。日本政府も治安の事はよ〜く考えて、自然災害対策として重点的にコストを掛けるべきじゃないのか?

ジェリー:憲法改正もいいけど、まずは自然災害時に都市機能の確保を優先してもらいたいよね。そのタイミングで北朝鮮からの攻撃も想定しておく必要があるんだよな。

トム:そのあたりのシナリオもきちんと書いておいてくれよな。しかし有事のシナリオまで改竄しているとは思えないけどな。

ジェリー:まさかあ、佐川さんじゃあるまいしね。


【治安維持費】

 ここ数年、中国の国家予算の中で治安維持費が話題となっている。通常の防衛費は外敵から本土を守るために計上される予算で、治安維持費は国内の反乱分子、犯罪を抑制するために計上されるとか、武器や戦闘機の購入等の使途が明記されているものが防衛費で、それ以外のものが治安維持費に計上されるなど、諸説が入り乱れる。詳細は中国政府も公表していないので検証できないが、この治安維持費が防衛費よりも大きなウェートを占めるのは間違いなさそうだ。新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区、チベット自治区などの地域ではこの治安維持費が拡大傾向にあるとされる。イスラム教徒の多いキルギスやタジキスタンとの国境地帯でも、イスラム過激派と人民解放軍との小競り合いが続いているようだ。

筆者紹介

沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URLhttp://www.icg-advi sor.net/)

※このシリーズは月1回掲載します

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