立法会の補欠選挙
非親政府派が敗北
立法会4議席の補欠選挙が3月11日に行われ、親政府派と非親政府派が2議席ずつ獲得した。4議席は民主派など非親政府派議員が宣誓問題で議員資格を喪失し空席となっていたもの。非親政府派は4議席すべての奪還を目指していたが、大方の予想に反する結果となった。(編集部・江藤和輝)
直選枠の否決権回復せず
補選が行われたのは直接選挙枠の新界東、九龍西、香港島の3選挙区で各1議席、それに職能別選挙枠の建築・測量・都市計画・緑地設計業界の1議席。開票の結果、直接選挙枠では約90万4000人が投票し、投票率は約43%。2016年の改選の58・28%に比べ15ポイント低かった。
新界東では民主派推薦の范国威氏(新民主同盟)、九龍西では親政府派の鄭泳舜氏(民主建港協進連盟)、香港島では民主派推薦の区諾軒氏(民間人権陣線)、職能別選挙枠では親政府派の謝偉銓氏(無所属)がそれぞれ当選した。議員資格喪失の当事者である姚松炎氏(無所属自決派)は民主派推薦の下、職能別選挙枠から九龍西にくら替えして出馬したものの落選。非親政府派が奪還できたのは2議席にとどまった。
親政府派と非親政府派が2議席ずつ獲得した結果、直接選挙枠は33議席(空席2議席)のうち親政府派17議席、非親政府派16議席、職能別選挙枠は35議席のうち親政府派25議席、非親政府派10議席となる。非親政府派は直接選挙枠でも過半に達しないため個別裁決の否決権を取り戻すことができず、親政府派議員による議案は容易に可決できることとなる。当選した范氏はこれを「民主派にとって大打撃」と述べたほか、民主派会議の議員らは開票後の記者会見で2議席を失ったことを謝罪し、残り2議席の補選に向けて今回の教訓を生かす姿勢を示した。
直接選挙枠では従来、得票率は6対4で民主派が優勢といわれてきたが、今回の3選挙区を合わせた得票率は民主派が47%で親政府派が43%。民主派が50%を割るのは初めてで、両者の得票数の差は4万票足らず。特に九龍西は49%対50%で逆転したほか、新界東では中間派の候補もいたため45%対37%となった。返還後に直接選挙枠の補選は4回行われたが、1選挙区で1議席を争うため親政府派が勝ったことはない。このため九龍西で姚氏が僅差ながら鄭氏に負けたことは民主派にとって補選初の敗北となった。
香港中文大学の蔡子強・講師は九龍西で親政府派候補が当選したことは「多くの人にとって予想外で、民主派にとって大きな警鐘」と指摘したほか、香港島で当選した区氏も親政府派候補との差がわずか9000票だったため「勝利とはいえず辛勝だ」と認めた。親政府派では香港経済民生連盟(経民連)の林健鋒・副主席らが「6対4の通例を打ち破った」と評価したほか、行政会議メンバーを務める香港工会連合会(工連会)の黄国健氏は「議員資格をはく奪した政府の決定は間違っていないと市民が考えていることが反映された」と分析した。
全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は、今回の選挙で注目すべきは獲得議席ではなく直接選挙枠での民主派の優位性が低下したことだとして、「親政府派と民主派の得票差は縮小する傾向にある」と述べた。その主な理由として、親政府派がますます団結し早々に候補者を擁立したのに対し、民主派は団結を欠いているほか、争点にした「議員・候補者の資格喪失」と高速鉄道の「一地両検」は対決ムードを醸しにくく、特に資格喪失については一般市民の反応は冷めていると指摘。民主派と親政府派はともに資格喪失問題による効果を高く見積もり過ぎた嫌いがあり、投票では候補者の実績を考慮するという有権者も多かった。
区諾軒氏の資格無効も
昨今、政治的対立が緩和したことから選挙ムードは盛り上がらず、市民の投票意欲が低かったことも民主派に不利となった。ただし補選は改選より投票率が低いのが一般的だ。また非親政府派内部の因縁によるマイナス影響も大きかった。九龍西では予備選挙の段階で姚氏と香港民主民生協進会(民協)の馮検基氏が競い、Bプランをめぐって馮氏は自決派からの圧力を受けたため、民協支持者に姚氏を支持させるのは難しかった。新界東でも積年の因縁から民主党支持者が范氏の支持に回るのは難しいほか、退潮傾向の本土派は今回の選挙に参加せず、やはり新民主同盟とは因縁があるため支持者らに「范氏には1票も入れるな」とも呼び掛けていた。逆に香港島では香港衆志が区氏をサポートしたため、自決派の票を維持できたといえる。
選挙後の3月13日、当選した区氏の資格無効などを求める訴訟申請が高等法院(高等裁判所)に提出された。申請したのは香港島選挙区の有権者である黄大海氏で、親政府派組織「23万監察」スポークスマンで元立法会議員の王国興氏らとともに裁判所を訪れた。申請内容は区氏の立候補届け出に対する選挙主任の承認撤回と、区氏が立法会議事堂の事務所に入ることや議員となったことを官報に掲載するのを禁じるよう求めるもの。
区氏は「香港独立」を選択肢に含む「自決」を提唱し、16年に中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)前で行われたデモで基本法を燃やした上、今後も燃やす可能性を示唆。これは立候補届け出で署名した声明と確認書に違反するため、黄氏らが東区選挙事務所と選挙管理委員会に出馬資格取り消しを陳情したが回答が得られなかったため、司法手段に訴えることにした。黄氏はタクシー運転手団体「的士司機従業員総会」の秘書長を務め、同団体は「セントラル占拠行動」の際に裁判所臨時禁止令を申請して旺角の占拠を収束させたことで知られる。
区氏は3月7日、香港電台(RTHK)が香港島選挙区の候補者4人を集めて行ったテレビフォーラムに出席。社会民主連線と人民力量の元メンバーである任亮憲氏が今後も基本法を燃やすかと聞いた際、区氏は「必要ならばまたやっても構わない」と答えた。また新民党の陳家珮氏は「城邦派」がテーマソングにしている新移民差別の曲を区氏が独立派とともに歌っている写真を示し、区氏が信奉する「市民的、政治的権利に関する国際規約」に反することや社会の対立を煽っていると指摘するなど、過激な勢力に近い立場を持つことが明らかにされていた。
立法会ではじきに残り2議席の補選が行われる。非親政府派は2議席とも獲得しない限り直接選挙枠での否決権を取り戻すことはできず、崖っぷちに立たされている。加えて区氏の議員資格をめぐる訴訟もあり、政治勢力図は依然流動的となっている。